第26話 別れと新たな戦い

文字数 3,029文字

 オ○ロ夫婦との別れが近いのを薄々、感じていた。それでも、私は知らないふりをして、楽しく過ごすことにした。いつまで一緒にいられるか分からないからだ。それはすぐにオ○ロ夫婦に気づかれた。「月」がデスデーモナにしゃべってしまったのだ。
 (いつかはバレると思っていたけどね)

 スーッとオ○ロが現れた。なんだか、しおらしい。いつもと違う。
 「相棒、気を使わしてすまなかったな」
 (そんなこと、どうでもいいのに)
 「いいんだよ、オ○ロ。これからも楽しく過ごそうよ」
 「そうだな。でも、俺には何となくわかるんだ。また転生をする時が近づいていることをな」
 「今度は人に転生ができるといいね」
 「ははは、そうだな。もう猫はコリゴリだ」
 頭をかいていた。猫の世界で、何があったのだろう? 私には分からない。
 「でも、オ○ロ。猫じゃなかったら、私との出会いは、無かったよ。君と出会えなかった」
 私は眠っている黒猫をなでていた。
 「そうだな。たまたま入った家が相棒の所だったなんて、偶然にしては出来すぎだよな」
 「ははは、しかも魔導書の上で鳴くなんてね」
 「そうだったな。俺はオセロニアの世界へ飛ぶ時、いつもワクワクしていたよ。あの世界には強いヤツが一杯いたからな。早く戦いたくって、ウズウズしていたものだ」
 「そうかもね。なんて言ったって、君は将軍だったからね。戦いで勝つ喜びを求めていたのだろう。自分より強いヤツとの戦いは、楽しかったかい?」
 「あぁ、中でも神様との戦いは別格だったな。いい経験をさせてもらったよ。ありがとう、相棒。お前と出会えてよかったよ。後は彼女を幸せに導いてやってくれ。それだけが心残りだな」
 「うん、約束するよ。彼女と仲のいい家庭を築いてみせるさ」
 オ○ロは笑顔で、うなずいていた。

 ― それから三年後。私と「月」は結婚をしていた。
 私はある日、別れと出会いの両方を経験する日があった。その別れの方、オ○ロ夫婦との別れ。
 「泣くな、相棒。別れが辛くなるだろう」
 そう言うオ○ロも泣いていた。
 「いつかは、この日がくると分かっていても、ダメなんだ。この世に残ることはできないのか?」
 「・・・俺だって、できることならそうしたいさ。それにお前は、もう俺のことは必要ないだろう。お前は出会った頃より、立派に成長したよ。俺にはできなかったが、お前は家庭を大事にしろよ。じゃあな」
 私は涙が止まらない。いよいよ、別れの時。デスデーモナが最期にしゃべった。
 「ありがとう。あなた達のおかげで楽しかったわ。オ○ロにも会うことができたしね。あなた達には感謝をしているわ。末長く幸せにね。じゃあね」
 「今度こそ、二人で幸せになるんだぞ」
 私は彼らにかける言葉はそれが精一杯だった。涙が止まらない。「月」の肩をそっと抱き寄せた。彼らは光の線となり、やがて消えた。
 (オ○ロ、今までありがとう)
 旅立って行った、空を眺めていた。

 「ついに旅立って行ったわね」
 「うん。今は少し、さびしく思うよ」
 「・・・そんなことはないわよ。忙しくなるのは、これからなんだから。実はね、私のお腹には新しい命が宿っているの。三ヶ月ですって・・・」
 (えー、何だって)
 初耳だった。出会いの方はサプライズ。私は喜んだ。妻の手を取り、泣いた。
 「ちょっと、あなた。泣きすぎよ。別にあなたが産むわけじゃないのよ。バカね」
 妻はそう言ったが、泣かずにはいれなかった。ついに私は父親となるんだ。こんな嬉しいことはない。今まで以上に頑張らなくては・・・。
 (もう簡単に泣けないな)
 でも、最期に今日くらいは、いいだろう。大泣きした。
 (オ○ロ、聞こえるか。私は父親になるぞ)

 ― さらに七ヶ月後。
 妻は無事、出産。母子ともに元気でよかった。双子の兄妹。まるでルシファーとミカエルのようだ。妻は男の子に「朝陽」と名付けた。私は女の子に「朋子」と名付けた。
 「太陽」の子供だから「朝陽」だそうだ。私は妻の名前「月」の倍、素敵な女性に育ってほしいと願って月を二つ、「朋子」としたのだが・・・。
 後で自分を苦しめることになろうとは、思ってもいなかった。

 とある夜。妻は退院して、子供達と一緒に帰ってきた。その日、私は妻、子供達と一緒に寝ていた。その深夜、私は何かの気配で目が覚めた。
 (誰だ、こんな時間に何のようだ)
 白い姿。私はギョッとした。
 (で、でた幽霊だ。クワバラ、クワバラ)
 布団をかぶった。なぜ、見えるのか分からない。
 「相棒、何をしているんだ?」
 (何を言っているんだ、幽霊に相棒なんていないよ)
 早く消えて欲しい。怖い。・・・うん? 相棒?
 (ひょっとして・・・)

 恐る恐る布団から顔をだした。まず足元を見た。やはり、足はない。怖いが顔をあげた。そこには、なつかしい顔。オ○ロ夫婦が枕元に立っていた。思いがけない再会。
 「ど、どうしてここにいるんだよ。ビックリするじゃないか」
 「スマン。驚かすつもりはなかったんだ」
 「でも、どうして・・・」
 「閻魔大王様に頼んで、転生をさせてもらったんだ」
 「うん。よかったね」
 「お前達の子供を見守ることになった」
 「えっ、何で?」
 「俺は男の子の守護霊。デスデーモナは女の子の守護霊へと転生したんだ。これでまた楽しく過ごせるな。よろしく相棒」
 「いやいや、なんでだよ」
 少し、声が大きかったみたい。妻を起こしてしまった。
 「あなた、もう。何時だと思っているのよ。いい加減にしなさい」
 眠いせいか、当たりが強い。子供が起きないといいのだが・・・。
 (オ○ロのせいだぞ)

 「ゴメン。オ○ロが現れたものだから」
 「そんなわけがないでしょう。私達の前で消えたじゃない。バカなことを言っていないで寝なさい。おやすみなさい」
 妻は布団の中で寝ようとした。
 「『月』は相変わらずね。『太陽』は、大変よね」
 デスデーモナはクスクスと笑っていた。聞き覚えのある声に妻はガバッと起きた。辺りをキョロキョロして、発見した。
 「なんで、あなたがいるのよ。デスデーモナ」
 「なんでって言われてもねー。転生をしただけよ」
 「今度は何になったのよ」
 「守護霊よ。あなたの子供のね。だから、これからもよろしくね」
 「えっ、一緒に暮らすということ?」
 「そうなるかしら。なんせ、守護霊だから・・・。あなたの子供から離れられないからね」
 「そ、そうなの。よろしくね。おやすみなさい」
 妻は寝た。私も眠ることにした。
 (それにしても、閻魔大王様。適当すぎるだろう)

 他にも子供はいるだろう。なんで私の子供なんだ。普通の子供として育てるつもりなんだぞ。
 (まー、ここで言っても仕方がないか。おやすみ)
 この時は知らなかった。私の子供達に特異点の力が隠されているなんてことを、想像もつかなかった。

 私はそれから仕事に子育てに奮闘した。分からないことばかりだった。会社ではクレーム対応で、家庭では妻に、怒られてばかりだ。情けない。
 (あー、ダメだ。頑張っているんだけどね)
 それでも、子供のかわいい笑顔が私をいやしてくれる。また「頑張ろう」と思わせてくれる。私は今、幸せだ。
 (この幸せが続きますように)
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登場人物紹介

白猫のデズデモナ。十六夜家の飼い猫。

特異点であるデスデーモナの魂が宿る。

月の部屋で普段は過ごしている。

黒猫のオテロ。野良猫達から「将軍」と恐れられている。現在、富士見家の飼い猫。特異点であるオセロの魂を宿す。

灰色のヤーゴ。土門に拾われる。

特異点であるイヤーゴの魂を宿す。

デスデーモナとオセロを恨んでいる。

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