第17話 特異点の私と婚姻
文字数 4,151文字
― ティータイムは続く。ルシファーがポツリと独り言を言った。
「もっと早くにオテロと会いたかったものだ。そうすればもっと違った結果になっていただろう。天使達には申し訳ないことをした」
(えっ)
「気づいていないだろうが、おそらく君は特異点なのだ。そう考えると時空移動の件などの説明がつく」
驚愕の事実を知らされた。
(偶然だよね)
ルシファーに言われたことが信じられなかった。
なぜ、私が特異点なのだろう。ただの猫と人間の融合体だ。猫妖精の王様ケット・シーと変わらない姿のハズだ。それに魔導書を開いたのは偶然だった。急に特異点だと言われても困る。私はただの冒険者だ。この世界をイロイロと冒険したいだけだ。私は動揺するしかなかった。
「兄さん、特異点とは何だい?」
「常識では定義できない存在だ。簡単にいえば、この世界の正義にも悪にも成りうる存在ということだな」
「そんなオテロをイロイロな場所に冒険させていてもいいのだろうか? 私は怖くなったよ。何かのキッカケで悪に染まってしまったらどうするんだ。この世界の脅威にならないだろうか?」
「相変わらず慎重だな。オテロがそんなことをする訳がない」
「いや、しかし・・・」
「それだけ信用できないのならば、お前も冒険についていけばいいだろう。ずっと監視すればいいのだ」
(えっ、ちょっと待って、この展開は・・・)
ルシファーの顔が、にやついている。よからぬ予感。
「兄さん、何を企んでいるんだ」
「実はな、オテロさえよければ、お前の婿にどうかと思っていてな・・・」
(やはりか・・・)
薄々、気づいていた。ルシファーの企み。だからここにくるのは嫌だったのに・・・。
(仕方がない。とっておきの秘策をうつか・・・)
頭が痛くなってきた。この世界では女難の相が出ているようだ。ゴクリとつばをのみ込んだ。
「ど、どう考えたらそうなる。私は結婚なんて・・・」
(そうだ。勝手に決めないで欲しい)
「先ほども言ったが、お前には幸せな生活を送って欲しいのだ。ゼウスもテュポーンも、この世界からいなくなった。脅威は去ったといえるだろう。残る不安は一つ、お前の幸せのことなのだ」
「そんなことを言うなら、兄さんだって結婚していないじゃないか。私が花嫁を見つけてやるのが先だろう。兄さんだって幸せになる権利はあるハズだ」
(うん。その通りだよ)
この展開は予定していなかったが、私は切り札の罠を用意していた。
「ミカエルさん、ルシファーの花嫁に会ってみる気はないかい?」
私は駒を投げた。ベルゼブブを召喚。
「オテロ、これはどういうことだ」
動揺するルシファー。
「ルシファー様、私では不服でしょうか?」
はじらう乙女のような姿のベルゼブブ。下からルシファーをのぞきこむ。
(きっと、これでいいんだ)
計算通り。ルシファーは、顔を赤くしてだまりこんだ。
「オテロ、ちょっといいかしら」
デメテルさんとミカエルさんに事情を説明した。
「なるほど、そう言うことね」
「では、我々はジャマをしてはいけないな。兄さん、年貢の納め時だよ。決断するんだな」
クスクスと笑うデメテルさんとミカエルさん。
「・・・わかった。婚姻しよう。これからは妻として、ずっと側で支えてほしい」
「・・・はい」
泣くベルゼブブ。部屋はあたたかい拍手につつまれた。
半年後、教会にて厳かな結婚式が執り行われた。
名だたる天使も悪魔も竜人も参加した。一抹の不安はあったが、さすがに式を台無しにする者はいなかった。
(ホッ)
胸をなでおろした。これでルシファーのぐちを聞かなくてもいいのかもしれない。
(二人とも、お幸せにね)
私は式なかばで抜け出し、旅に出た。もちろん、ルシファーには伝えてある。目指すはアスガルド。猫妖精の国。
― 一年後。猫妖精の国。
ここに来たのはアディとの出会いの時にお世話になった借りを返すためだ。
「オテロ、我輩につかえよ。これは命令にゃ」
「嫌だよ。なんで王様につかえなくちゃいけないんだよ。ガットがいるじゃないか」
「たしかにガットはよく頑張ってくれるにゃ。有能な猫にゃ。いつかアイツには休みをやりたいと考えているにゃ」
「絶対に嫌だ。私は冒険者なんだからね」
「これは命令にゃ。大将軍オテロ」
「大将軍って、何だよ。そもそも、この国の仕組みも分からない者になんで軍隊を率いることができるんだよ。普通は一兵卒から、はい上がるものだろう。いい加減にしてくれよ」
「我輩の目にくるいはないにゃ。オテロがいれば、この国は安泰なのにゃ。だから頼みますにゃ」
王様は私に土下座をして頼んだ。
(・・・仕方がない)
「一国の王様が簡単に土下座しちゃダメだよ」
しばらく、この国にとどまることにした。
(まずは王様の教育からだな)
「では、執務室に案内するにゃ」
機嫌がなおった王様。ニコニコしながら、私の前を歩いていた。
「ここにゃ」
ガチャリとドアを開けて、通された部屋。ルシファーの執務室より豪華な飾りが施されていた。机の後ろにはアスガルドの地図が大きく貼られている。
「では、よろしく頼んだにゃ」
スコスコと王様は部屋から出て行った。
(いやいや・・・)
普通は配下の将軍達を紹介するだろう。まったく、あの王様には困ったものだ。
(丸投げじゃないか)
私は立派な椅子にすわり、今後のことを考えた。
(どれだけのことができるのだろう)
私に残された時間はこちらの時間で一年をきっていた。数ヶ月はここにいるとして、西の国へ行かないといけないからな。
(急いで仕事をこなそう)
数ヶ月かかる仕事を二ヶ月で終わらせた。
「王様、短い間でしたがお世話になりました」
「いつでも帰ってきていいにゃ。大将軍の位は空けて待っているにゃ」
私は部下達に見送られ、旅に出た。目指すは西の国ガンダーラ。
(アイツは元気にしているだろうか?)
― 半年後、西の国ガンダーラ。
仏像が建ち並ぶ景色は神聖な場所にきたのだと身震いがする。私には場違いだ。戦いで多くの血を流してしまっている。いつか天罰を受けることだろう。
しばらく仏像を眺めていると背中から声がした。
「オヤジ、覚悟をしろ」
この言葉に反応してしまった。
「カムイ無双流・震槍」
無意識だった。その場に大人となった金髪の猿が倒れていた。
「大丈夫か? しっかりしろ悟空」
「うーん。まだ勝てなかったか・・・」
そこで悟空はガクリと倒れ、意識を失なった。
仕方がないので、引きずって三蔵法師様の前まで連れて行った。
「てめえ、悟空の兄貴に何をしやがった」
身構える豚とカッパ。飛びかかってきたので、返り討ちにした。
「お止めなさい。悟浄、八戒。その方は悟空の父親ですよ」
「えっ、・・・えーっ」
二人は驚いて尻もちをついた。なぜ、猫が猿の親? 不思議そうな顔をしていた。私はそのイキサツをみんなの前で説明した。
「兄貴にはそんなことがあったのか、知らなかった」
「みなさんには悟空が迷惑をかけて申し訳ありません。暴れん坊だが、仲良くしてやってください」
私は頭を下げた。
「オテロさん、顔をあげてください。いまや悟空は我々の大切な仲間ですよ」
三蔵法師様は悟空を預かってくれている立派な僧侶。
(託してよかった)
あの暴れん坊には困っていた。小さい頃は可愛いかった。街のみんなで可愛がった。それがいけなかったのかも知れない。わがままに育ってしまった。何をしても許されると勘違いをした。私のせいだ。キチンと教えるべきだった。・・・反省。
そんな時、私に救いの手がさしのべられた。ルシファーの執務室へ悟空を連れて入ると見知らぬ女性がいた。
「ふふふっ、オテロは子育てに苦労しているようだな。彼女に預けてみてはどうだ」
けさ姿の女性僧侶。彼女は西の国、ガンダーラへ経典を修めに行くと言う。三蔵法師と呼ばれている高僧。本当の名前は玄奘。道中が心配なので、ボディーガードを探している。そのため、悟空に白羽の矢がたったという訳だ。
(大丈夫かな?)
悟空のような暴れん坊を連れていくなんて、「命知らずな僧侶だな」と失礼ながらにそう思っていた。
だが、対策は万全だった。金環を頭にはめこみ、術で暴れるのを抑えた。
(まさか、こんな方法があったなんて・・・)
「オテロさん、悟空をお借りします」
「こちらこそ。旅の無事をお祈りしています」
こうして悟空と別れたのだが、いつも気にしていた。久しぶりに会って泣こうと思っていたが、一撃で倒してしまった。私は泣くタイミングを失なった。しばらくして、悟空は起きた。
「いてて、またオヤジに勝てなかった。これでも強くなったんだぞ。まだまだ修行が足りないようだ」
「修行を続けていれば、その内、私を越えれるさ。お前にはジェンイーやルシファーを越えて欲しいからな」
「・・・ハードルが高すぎるぜ」
「ははは、そうかな。頑張れよ、悟空」
「それはそうと、オテロさん。今日はどのような用件でこちらにいらっしゃったのですか?」
「うん。悟空にお別れをするためにきました。私が向こうの世界に帰るときが来てしまったんだよ。だから最後に悟空と会いたかったんだ」
辺りは静まりかえった。太陽が真上にきていた。
私は時空の腕輪をかかげた。時空の渦が身体をのみ込もうとしていた。
「オヤジ、俺はアイツらを越えてみせるからな。また戻ってこいよ」
暴れん坊の可愛い金髪猿が泣いていた。
私はチラッと見てそれ以降、振り返らなかった。右手を地面に水平となるように伸ばし、握りしめた拳から親指をたてた。
(アイ ウィル ビー バック)
映画のワンシーンのように言いたかった。私は涙と鼻水で顔がクチャクチャだったのでダメだった。声がでなかった。
やがて、渦の暗闇にのみ込まれた。
「もっと早くにオテロと会いたかったものだ。そうすればもっと違った結果になっていただろう。天使達には申し訳ないことをした」
(えっ)
「気づいていないだろうが、おそらく君は特異点なのだ。そう考えると時空移動の件などの説明がつく」
驚愕の事実を知らされた。
(偶然だよね)
ルシファーに言われたことが信じられなかった。
なぜ、私が特異点なのだろう。ただの猫と人間の融合体だ。猫妖精の王様ケット・シーと変わらない姿のハズだ。それに魔導書を開いたのは偶然だった。急に特異点だと言われても困る。私はただの冒険者だ。この世界をイロイロと冒険したいだけだ。私は動揺するしかなかった。
「兄さん、特異点とは何だい?」
「常識では定義できない存在だ。簡単にいえば、この世界の正義にも悪にも成りうる存在ということだな」
「そんなオテロをイロイロな場所に冒険させていてもいいのだろうか? 私は怖くなったよ。何かのキッカケで悪に染まってしまったらどうするんだ。この世界の脅威にならないだろうか?」
「相変わらず慎重だな。オテロがそんなことをする訳がない」
「いや、しかし・・・」
「それだけ信用できないのならば、お前も冒険についていけばいいだろう。ずっと監視すればいいのだ」
(えっ、ちょっと待って、この展開は・・・)
ルシファーの顔が、にやついている。よからぬ予感。
「兄さん、何を企んでいるんだ」
「実はな、オテロさえよければ、お前の婿にどうかと思っていてな・・・」
(やはりか・・・)
薄々、気づいていた。ルシファーの企み。だからここにくるのは嫌だったのに・・・。
(仕方がない。とっておきの秘策をうつか・・・)
頭が痛くなってきた。この世界では女難の相が出ているようだ。ゴクリとつばをのみ込んだ。
「ど、どう考えたらそうなる。私は結婚なんて・・・」
(そうだ。勝手に決めないで欲しい)
「先ほども言ったが、お前には幸せな生活を送って欲しいのだ。ゼウスもテュポーンも、この世界からいなくなった。脅威は去ったといえるだろう。残る不安は一つ、お前の幸せのことなのだ」
「そんなことを言うなら、兄さんだって結婚していないじゃないか。私が花嫁を見つけてやるのが先だろう。兄さんだって幸せになる権利はあるハズだ」
(うん。その通りだよ)
この展開は予定していなかったが、私は切り札の罠を用意していた。
「ミカエルさん、ルシファーの花嫁に会ってみる気はないかい?」
私は駒を投げた。ベルゼブブを召喚。
「オテロ、これはどういうことだ」
動揺するルシファー。
「ルシファー様、私では不服でしょうか?」
はじらう乙女のような姿のベルゼブブ。下からルシファーをのぞきこむ。
(きっと、これでいいんだ)
計算通り。ルシファーは、顔を赤くしてだまりこんだ。
「オテロ、ちょっといいかしら」
デメテルさんとミカエルさんに事情を説明した。
「なるほど、そう言うことね」
「では、我々はジャマをしてはいけないな。兄さん、年貢の納め時だよ。決断するんだな」
クスクスと笑うデメテルさんとミカエルさん。
「・・・わかった。婚姻しよう。これからは妻として、ずっと側で支えてほしい」
「・・・はい」
泣くベルゼブブ。部屋はあたたかい拍手につつまれた。
半年後、教会にて厳かな結婚式が執り行われた。
名だたる天使も悪魔も竜人も参加した。一抹の不安はあったが、さすがに式を台無しにする者はいなかった。
(ホッ)
胸をなでおろした。これでルシファーのぐちを聞かなくてもいいのかもしれない。
(二人とも、お幸せにね)
私は式なかばで抜け出し、旅に出た。もちろん、ルシファーには伝えてある。目指すはアスガルド。猫妖精の国。
― 一年後。猫妖精の国。
ここに来たのはアディとの出会いの時にお世話になった借りを返すためだ。
「オテロ、我輩につかえよ。これは命令にゃ」
「嫌だよ。なんで王様につかえなくちゃいけないんだよ。ガットがいるじゃないか」
「たしかにガットはよく頑張ってくれるにゃ。有能な猫にゃ。いつかアイツには休みをやりたいと考えているにゃ」
「絶対に嫌だ。私は冒険者なんだからね」
「これは命令にゃ。大将軍オテロ」
「大将軍って、何だよ。そもそも、この国の仕組みも分からない者になんで軍隊を率いることができるんだよ。普通は一兵卒から、はい上がるものだろう。いい加減にしてくれよ」
「我輩の目にくるいはないにゃ。オテロがいれば、この国は安泰なのにゃ。だから頼みますにゃ」
王様は私に土下座をして頼んだ。
(・・・仕方がない)
「一国の王様が簡単に土下座しちゃダメだよ」
しばらく、この国にとどまることにした。
(まずは王様の教育からだな)
「では、執務室に案内するにゃ」
機嫌がなおった王様。ニコニコしながら、私の前を歩いていた。
「ここにゃ」
ガチャリとドアを開けて、通された部屋。ルシファーの執務室より豪華な飾りが施されていた。机の後ろにはアスガルドの地図が大きく貼られている。
「では、よろしく頼んだにゃ」
スコスコと王様は部屋から出て行った。
(いやいや・・・)
普通は配下の将軍達を紹介するだろう。まったく、あの王様には困ったものだ。
(丸投げじゃないか)
私は立派な椅子にすわり、今後のことを考えた。
(どれだけのことができるのだろう)
私に残された時間はこちらの時間で一年をきっていた。数ヶ月はここにいるとして、西の国へ行かないといけないからな。
(急いで仕事をこなそう)
数ヶ月かかる仕事を二ヶ月で終わらせた。
「王様、短い間でしたがお世話になりました」
「いつでも帰ってきていいにゃ。大将軍の位は空けて待っているにゃ」
私は部下達に見送られ、旅に出た。目指すは西の国ガンダーラ。
(アイツは元気にしているだろうか?)
― 半年後、西の国ガンダーラ。
仏像が建ち並ぶ景色は神聖な場所にきたのだと身震いがする。私には場違いだ。戦いで多くの血を流してしまっている。いつか天罰を受けることだろう。
しばらく仏像を眺めていると背中から声がした。
「オヤジ、覚悟をしろ」
この言葉に反応してしまった。
「カムイ無双流・震槍」
無意識だった。その場に大人となった金髪の猿が倒れていた。
「大丈夫か? しっかりしろ悟空」
「うーん。まだ勝てなかったか・・・」
そこで悟空はガクリと倒れ、意識を失なった。
仕方がないので、引きずって三蔵法師様の前まで連れて行った。
「てめえ、悟空の兄貴に何をしやがった」
身構える豚とカッパ。飛びかかってきたので、返り討ちにした。
「お止めなさい。悟浄、八戒。その方は悟空の父親ですよ」
「えっ、・・・えーっ」
二人は驚いて尻もちをついた。なぜ、猫が猿の親? 不思議そうな顔をしていた。私はそのイキサツをみんなの前で説明した。
「兄貴にはそんなことがあったのか、知らなかった」
「みなさんには悟空が迷惑をかけて申し訳ありません。暴れん坊だが、仲良くしてやってください」
私は頭を下げた。
「オテロさん、顔をあげてください。いまや悟空は我々の大切な仲間ですよ」
三蔵法師様は悟空を預かってくれている立派な僧侶。
(託してよかった)
あの暴れん坊には困っていた。小さい頃は可愛いかった。街のみんなで可愛がった。それがいけなかったのかも知れない。わがままに育ってしまった。何をしても許されると勘違いをした。私のせいだ。キチンと教えるべきだった。・・・反省。
そんな時、私に救いの手がさしのべられた。ルシファーの執務室へ悟空を連れて入ると見知らぬ女性がいた。
「ふふふっ、オテロは子育てに苦労しているようだな。彼女に預けてみてはどうだ」
けさ姿の女性僧侶。彼女は西の国、ガンダーラへ経典を修めに行くと言う。三蔵法師と呼ばれている高僧。本当の名前は玄奘。道中が心配なので、ボディーガードを探している。そのため、悟空に白羽の矢がたったという訳だ。
(大丈夫かな?)
悟空のような暴れん坊を連れていくなんて、「命知らずな僧侶だな」と失礼ながらにそう思っていた。
だが、対策は万全だった。金環を頭にはめこみ、術で暴れるのを抑えた。
(まさか、こんな方法があったなんて・・・)
「オテロさん、悟空をお借りします」
「こちらこそ。旅の無事をお祈りしています」
こうして悟空と別れたのだが、いつも気にしていた。久しぶりに会って泣こうと思っていたが、一撃で倒してしまった。私は泣くタイミングを失なった。しばらくして、悟空は起きた。
「いてて、またオヤジに勝てなかった。これでも強くなったんだぞ。まだまだ修行が足りないようだ」
「修行を続けていれば、その内、私を越えれるさ。お前にはジェンイーやルシファーを越えて欲しいからな」
「・・・ハードルが高すぎるぜ」
「ははは、そうかな。頑張れよ、悟空」
「それはそうと、オテロさん。今日はどのような用件でこちらにいらっしゃったのですか?」
「うん。悟空にお別れをするためにきました。私が向こうの世界に帰るときが来てしまったんだよ。だから最後に悟空と会いたかったんだ」
辺りは静まりかえった。太陽が真上にきていた。
私は時空の腕輪をかかげた。時空の渦が身体をのみ込もうとしていた。
「オヤジ、俺はアイツらを越えてみせるからな。また戻ってこいよ」
暴れん坊の可愛い金髪猿が泣いていた。
私はチラッと見てそれ以降、振り返らなかった。右手を地面に水平となるように伸ばし、握りしめた拳から親指をたてた。
(アイ ウィル ビー バック)
映画のワンシーンのように言いたかった。私は涙と鼻水で顔がクチャクチャだったのでダメだった。声がでなかった。
やがて、渦の暗闇にのみ込まれた。