第24話 入院へ突撃スタンバイ

文字数 3,851文字

 (どうなっているんだ?)
 石畳の階段が続く。誰だこんなことを考えたヤツ。
 (疲れた。ふざけるな)
 猫はスタミナがないんだぞ。歩いては休み。歩いては休みを繰り返し、やっとエスポワールに着いた。
 (ふー。ここも変わったな)
 屋敷のような建物が増えて、民家は減った。
 門をくぐった。
 「侵入者発見。排除スル」
 機械兵が襲ってきた。
 (歓迎されてないんだな)

 おもいっきり、蹴飛ばした。ズドンと音を立て、奥の建物に突き刺さり、動かなくなった。
 突然の大きな音にビックリして建物の中から人が出てきた。
 「やぁ、久しぶり。アディ」
 「オ、オテロなの。久しぶりね」
 アディは涙をこらえきれず、泣いた。おもわず、もらい泣きしそうだ。でも、感動の再会はそこまでだった。
 「突撃、スタンバイ」
 アズリエルの突進。私は腕を広げ、受け止めようとした。アズリエルは減速をするそぶりがない。
 (久しぶり、アズリエル)

 「オテロ」
 飛び込むアズリエル。私は受け止められなかった。
 (あっ)
 足を滑らせて、石の階段を転げ落ちた。抱きつくじゃなかった。タックルだった。
 (何で?)
 ガクッと倒れこんだ。その場で意識を失なった。

 次に目を覚ましたところは病院のベッドの上。
 (どうして・・・イテテ)
 「ようやく起きたのね、オテロ。ゆっくりしていきなさい」
 「オテロ、久しぶりー」
 フレデリカに抱きしめられた。豊満な胸の谷間に、うずくまる。
 「ちょっと、フレデリカ」
 サルース先生がフレデリカを引き離す。私は気を失なわなかった。大きな胸には見慣れている。耐性がついていた。
 (「月」に感謝)
 「へぇー、オテロ。あなた、成長したわね。ウブじゃ失くなったのね」
 「つまらなーい。昔のオテロの方がよかった。ぶー、ぶー」
 フレデリカは頬をふくらませて、ふてくされている。
 (いやいや、参ったな)

 「それより、先生。何時間、寝てましたか?」
 「三時間ほどかしら」
 「そうですか。ありがとうございます」
 私はベッドを降りた。少しクラッとした。
 「ダメよ。まだ寝ていなくっちゃ。明日は頭の検査をしましょう」
 (こんなところで寝ている暇はないんだけどね)
 再びベッドに寝かされた。

 次の日、無事検査終了。ただの打ち身で済んだ。一応、念のためにもう一日入院することとなった。
 「先生、ヤーゴという灰色の猫を知りませんか?」
 「知らない。その猫を探しに今回は旅をするのね」
 「そうです」
 「早く見つかるといいわね」
 そういえば、土門はどうやって、この世界へとやってきているのだろうか? 私や「月」は名前の通り、それぞれの光を魔導書に当て、パートナーの猫が鳴くことでゲートが開く。土門にも対応する光があるのだろうか? まさか、暗闇が影響する訳じゃないだろう。もしそうならば、闇にのまれる前に救いだしたい。

 コンコンコンとドアをノックする音。
 「はい」
 ガラガラと開くドア。アズリエルと骨三郎が見舞いにきた。
 「オテロ、大丈夫か?」
 「大丈夫じゃないよ。骨三郎」
 「ゴメン、オテロ」
 「まー、オテロは頑丈だからな。あれくらいじゃ死なないだろう」
 「でも、痛かったんだぞ。不意打ちだったから、あまり受け身が取れなかったからね」
 「反省してる。代わりに身の回りの世話をする」
 (それが狙いだったのだろうか?)

 「そう言えば、前にヤーゴと一緒にいていただろう。アイツの行きそうなところを知らないかい?」
 「そんなことを知ってどうするんだ」
 「もちろん、ヤーゴの企みを阻止するためだよ。君達が出会った時のことを教えてくれないか?」
 「まー、いいけどよ」
 骨三郎が説明をしてくれた。
 「今から思うとよー、ヤツの情緒が不安定だったのは、お前のように心が入れ替わっていたんだな。好戦的な格闘家みたいな時、陰湿な悪巧みを企む時はそれぞれが得意の方を受け持っていたんだな。持ちつ持たれつの関係だったんだろうぜ」
 「うーん。まだこれだけの情報じゃ、ヤツが何を考えているのか分からないね。困ったな」
 「なら、俺がヤツを探してやろう。アズと一緒にいてくれ」
 「うん。頼んだよ」
 骨三郎はアズリエルに気を使った。ワザワザ、二人きりにしたのだ。

 「骨三郎、大丈夫かな?」
 「大丈夫。骨三郎、死なない。元々、死んでいる」
 「ははは、そうだね。名門の死霊族だったよね」
 「うん。だから心配いらない」
 楽しくしゃべっていると面会終了の時間がきた。アズリエルは寂しそうに帰っていった。
 (「月」はそろそろ、やってくるのかな?)

 彼女はその頃、オセロニアの世界へ飛び立つのをちゅうちょしていた。臆病風にあてられたのだ。
 昨日、「太陽」に着いていくと言って、わがままを聞いてもらったのに・・・。いざとなったら、怖くなるなんて・・・。私は彼のように冒険に旅立つ勇気がない。なんであんなことを言ったんだろう。彼がオセロニアの世界にいる女性達と楽しそうにしているのが、分かっているからよ。つまり、私はヤキモチをやいている。彼を愛していいのは私だけなんだからね・・・。向こうの世界にいる女性達には「彼の恋人」という存在を分からせたい。それだけなのに・・・。私の意気地無し。しびれを切らしたのか、デスデーモナの幻影が現れた。
 「何をしているの? 早く行きましょう」
 「ちょっと待って、私は踏み出す勇気がないの。あの世界へ行くのが怖いのよ」
 「そんなことを言っていたら、彼氏をとられちゃうわよ」
 「そんなことは分かっているわ」
 「いや、あなたは分かっていないわ。女は度胸よ。さぁ、行くわよ。彼が首を長くして待っているのだから」
 デスデーモナは白猫の身体に戻り、魔導書を開き、それに月の光を当てる。ニャーンと鳴き、時空の渦を発生させた。
 「ち、ちょっと。いやー」
 暗闇にのみ込まれた。デズデモナの姿となり、この世界へやってきた。再び、ピンクのマスクを被った。

 私は詰所でデズデモナと無事、合流した。
 「やっぱり、ピンクマスクなんだね」
 「ウフフ、そうね。今回はあなたの分も用意をしてきたわ」
 そう言って、虎のマスクを渡してきた。
 (えっ、覚えていたのか)
 以前、彼女とタイガーマスクの話をしたことがある。それを忘れていなかった。別にいらなかったが、折角、用意してくれたのだ。私に断る選択肢は、なかった。

 いざ、被ってみると何だか身体の奥から力がみなぎってくる。
 (不思議なことがあるもんだ)
 昔の動画で観たことがある。相手をヒラリとかわし、回転脚を放つ。相手を投げてコーナーポストの上から腕を広げて飛び込む。子供ながら、その姿に憧れた。そんなヒーローになった気がした。
 「よう、オテロ。ここにいたのか。探したぜ・・・って、お前、ふざけているのか。何だ、そのマスク姿は?」
 「いや、ちょっとね。それでヤーゴは見つかったか?」
 「もちろんだ。アイツは天界の神殿跡にいたぜ」
 「何でだろう?」
 「そこまでは分からない。何かを探しているようだった。だから急いで帰ってきたんだ。何か悪い予感がするぜ」
 (まさか・・・)

 「急ごう。取り返しがつかなくなる。アズリエル頼む。送って欲しい」
 「ちょっと待って、私も行くわよ」
 「いや、ダメだ。君には代わりにジェンイー達を呼びに行って欲しいんだ。『この街を守って欲しい』と頼んでよ。いいね」
 そう言い残して、神殿のあった場所を目指して出発した。
 (イヤーゴ、アイツはあの化け物の存在を知っていたのか・・・)

 神殿の地下には、まだ研究施設が残っているハズ。生きているテュポーンは、いないだろうが研究段階の素材は残っているだろう。きっとイヤーゴはそれを取り込むつもりなんだ。もしも、そうなってしまったら土門の意識は失くなるかもしれない。

 アズリエルと一緒に飛んでいると物凄い勢いの飛翔体を見た。それはこちらに気がついたのか、近寄ってきた。ゼルエルだった。
 「久しぶりだな、アズリエル。どこへ行くんだ」
 「天界の神殿跡。急いでいるから、じゃあね」
 「私も行こう。何だか悪い予感がするんだ」
 ゼルエルを仲間に加え、急いだ。
 (間に合ってくれよ)

 黄道十二宮を通過。以前のように歩いて突破しなくてもよくなった。神殿跡に到着。
 「あれ? いねーな」
 「そうだね」
 「待て、階段が見えるぞ」
 下に降りようとした時、地震がおきた。グラグラと揺れる。
 (な、何だ)
 慌てて地上に出た。
 (あ、あぁ、間に合わなかった)

 地下研究室を破壊して現れたのは、キマイラのような姿。猫の身体ではない。ツギハギだらけの身体。もはや、何と説明をしていいのか分からない。とても、この世のものとは思えない異形な姿。これをイヤーゴは望んでいたのだろうか?

 「ギャハハ、ついに手に入れたぞ。これで俺は無敵だー」
 はたして、そうなのだろうか? 疑問はつきなかった。
 強い部分だけをくっつけても生物体として強くなるのだろうか? 私には理解しがたい発想だった。
 どうしても関節部や接合部が弱くなるハズだからだ。
 (それよりも土門は無事だろうか?)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

白猫のデズデモナ。十六夜家の飼い猫。

特異点であるデスデーモナの魂が宿る。

月の部屋で普段は過ごしている。

黒猫のオテロ。野良猫達から「将軍」と恐れられている。現在、富士見家の飼い猫。特異点であるオセロの魂を宿す。

灰色のヤーゴ。土門に拾われる。

特異点であるイヤーゴの魂を宿す。

デスデーモナとオセロを恨んでいる。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み