第7話 闇の中にある光

文字数 3,748文字

 ジェンイーは徹夜で馬車をとばし、街へ帰った。疲れている身体にムチをうち、急いで皆を広場に集めた。
 「ここはもうすぐ戦場になる。詳しい説明はできないが、逃げたい者は今すぐ荷物をまとめて街から脱出しろ。相手は天軍だ。この街にいていると、まきぞいをくらうぞ。急げ」
 あわてる民。我先に家路へつき、避難の準備を始める。荷物をまとめ終わった者から近くの街へ避難を始めた。

 「おっさん、どういうことだ。説明してくれ!」
 レグス達はジェンイーをつかまえた。
 「俺達がクエストをしていたら、天界の怒りにふれた。オテロが天使をまとめて抹殺したから、天軍は俺達を許さないだろう。オテロは反撃するために魔界へ仲間をつのりに行った。集まり次第、天界へ攻撃を行うそうだ」
 ざわつく声。

 不安そうな仲間達を代表して、レグスが言った。
 「オテロがいないなら天軍は攻撃しないだろう。そうじゃないのか?」
 「アイツらが人の話を聞く奴らか考えてみろ!」
 「・・・あぁ、奴らはそうだったな。では、どうするんだ」
 「この街で天軍を迎え撃つ。オテロとはさみうちにしてやる。レグス、アディは民を避難させろ。他の者は水をたるに確保してくれ。アルキメデス、ヒルデブラントよ。ちょっといいか」
 「おう、なんじゃ」
 「私に何か用か」
 「あぁ、お前らにしか頼めん話だ。大至急、天使迎撃用の大砲を作ってくれ。砲台と玉だ。玉はさく裂弾で頼む。中につめるのは焼夷弾だ。上空で、さく裂させて、天使の羽を焼いてやる。頼んだぞ」
 「わかった。玉はわしが作ってやろう」
 「なら、私は大砲を作ろう」
 二人は急いで取りかかった。

 次々と戦いの準備をしていくジェンイー。
 「私は何をすればいい?」
 「ヒアソフィアはアムルガル達を呼び戻してくれ。ファイアドレイク達とアルン達にも連絡をとってくれ」
 「了解しました」
 急いで文を書き、伝書鳩を飛ばした。
 「私はどうすればいい?」
 「クロリスは食糧と武器を取り寄せてくれ。できるだけ大量に頼む」
 「わかったよ。やってみる」
 スー商会と連絡をとっていた。後日、大量の物資と護衛の傭兵がやってくる。

 ジェンイーは駒を投げた。アザゼルをまず呼び出した。
 「お前は街の外に罠を設置しろ。急げ」
 「面倒だがやってやろう」
 街の外に二百歩ほど歩き、罠を作り始めた。

 「ジェンイー、少し休め。わらわ達が見張りを代わってやろう。今から疲れていては戦いにならんだろう」
 「スマン。しばらく頼んだぞ。アンクイーネ」
 駒を投げ、ガープ、バルザード、ベリアルを呼び出した。
 「俺が休んでいる間、アンクイーネと協力してこの街の護衛を頼んだぞ」
 そのままジェンイーは横になった。

 アズリエルと一緒に黒の大地を歩いていた。魔界へ向かっているのだろうか? 黒の大地を冒険したことがない。知っているのは闘技場への道だけだ。
 (困ったな)
 「アズリエルは魔界に行ったことはあるの?」
 「ない。骨三郎は?」
 「俺は死霊族だからな。冥界なら知っている」
 (早く探さないと街の皆が危ないというのに・・・)
 街へ寄り道して、聞き込み開始。

 猫の姿を見てバカにされた。誰にも相手にされない。
 (時間のムダだ)
 この街を去ろうとした。すると一人の男から声をかけられた。
 「お前はあの時の猫じゃないか?」
 闘技場の元門番。この街でヒッソリと暮らしていた。
 「あの時はゴメン。はだか踊りをさせたせいでクビになったんだろう。私のことを恨んでいるよね」
 「まー、クビになった時には恨んたが、今はどうでもいい。自業自得だからな。ところで魔界を探しているみたいだったが、どうなんだ?」
 「うん。そうなんだよ。猫の姿だから、誰にも相手にされないんだ」
 「そうか。わかった。協力してやろう」
 この男に連れられて、広場についた。
 「皆、聞いてくれ。ここに『シャ ノワール』のプレイヤーがいるぞ。ダイヤモンドマスターのオテロだ」
 皆が一斉に私を見た。次の瞬間、周りを囲まれた。もみくちゃにされたり、サインを求められたり大変だったが、なんとか魔界への道は聞くことができた。
 「ありがとう。おかげで魔界へ行けるよ」
 「そうか、武運をいのる」
 この男は去ろうとした。

 (そうだ)
 「ちょっと、待ってよ」
 「どうした、まだ何か用事があるのか?」
 「今は何か仕事についているのかい?」
 「いや、無職でのんびりと暮らしている」
 「それなら、ちょっとだけ手伝って欲しいことがあるんだけどダメかな?」
 「なんだ。言ってみろ」
 「私の住んでいた街がピンチなんだ。そこを助けてあげて欲しいんだ」
 「そこでは見知らぬ者でも受け入れてくれるのか?」
 「うん。ちょっとだけ待っていてよ」
 ジェンイー宛の手紙を書いた。
 「城塞都市エスポワールにジェンイーという武人がいるからこれを渡して、仲間に入れてもらってよ」
 「わかった」
 十万ゴールドをこの男に渡した。
 「こんな大金をくれるのか?」
 「うん。その代わり、急いで出発してよ」
 「わかった。今からすぐに向かう」
 この男は走って街を出て行った。
 (間に合うといいのだが・・・)
 心配をよそに魔界へ向かった。

 「でもよー、魔の軍勢を動かすことができるのかよ」
 「骨三郎は動かないと思うんだね」
 「そりゃー、そうだろう。猫の話をまともに聞くとは思えないからな」
 冷静に考えてみると、たしかに骨三郎のいう通り。見知らぬ者に軍勢を預ける訳がない。ましてや、私は黒猫の姿だ。
 (困った)
 一刻を争う事態。どうすればいいのか考えていて、周りが見えていなかった。

 (イテッ)
 しりもちをついた。前を見ないで走っていた男の子供とぶつかった。
 横で泣いている女の子供。兄妹だろうか? 盗んできたのだろう。干し肉が地面に落ちていた。
 「まったく、油断も隙もないな」
 走ってきた店主が干し肉を拾い上げ、立ち去ろうとした。
 「返してくれよ」
 しがみつく少年。
 「えぇい、はなれろ。盗人め」
 店主は少年を突き飛ばした。
 (あぶない)
 少年は地面を転がり、泣いた。
 (可愛そうに・・・)
 店から商品を盗んだことはいけないことだが、そこまでしなくてもいいのに・・・。

 黒の大地は物資に恵まれていない。
 だから、このようなことは毎日のように繰り返される。
 「その干し肉を私に売ってくれないか?」
 店主に聞いてみた。
 「こんな落ちた干し肉でよろしいのですか? 店に来てもらえれば、もっといい肉がありますよ」
 「いや、それでいいんだ。まけてくれるよね」
 「そりゃー、もちろん。お客様」
 店主にゴールドを支払った。ニコニコして店へ帰っていった。
 「もう、他人の店から盗んじゃいけないよ。いいね」
 泣き続ける女の子にそれを渡した。
 「ありがとう。お母さんに食べさしてあげなくっちゃ。お兄ちゃん、たてる?」
 涙をふき、笑顔になる。
 「あぁ、これくらい何でもないさ。でも、いいのか? これを俺達にくれて・・・」
 「いいよ。それと君達にはこれをあげる」
 ポケットから一枚のチョコレートを出して、少年に渡してあげた。
 「半分ずつ、分けるんだよ」
 「うん」
 パキッとそれを折った。半分にうまく折れなかった。六対四くらいだろう。少年と妹はみつめあった。
 少年は四、妹は六。そうなるように少年はそれを渡した。
 「ありがとう。お兄ちゃん」
 ほほえむ妹。ほこらしげな兄。
 その姿をしばらく眺めていた。
 「猫ちゃん、ありがとう。これは、お礼」
 少女は頬にキスをしてくれた。何だか照れ臭い。
 「オイ、猫。ありがとな。いつか、この貸しは返すからな。名前を教えてくれよ」
 「別に気にしなくていいよ。私の名前はオテロ」
 「オテロか・・・。覚えた。忘れるまで忘れないよ」
 (あれっ? どこかで聞いたことのある台詞だな)
 少年達は、走って帰っていった。
 貧しいながらも、たくましく生きる兄妹に闇の中にある光をみつけた。
 一筋の希望という名の光。

 ニコニコしていたために、またしても気づかない間に背後をとられた。
 「あら、貴方はオテロじゃないかしらぁ」
 「あの時、以来だね。サタン。元気そうで何よりだよ」
 「貴方がダイヤモンドマスターとなった試合よね。まー、貴方ならいつかはそうなることはわかっていたけどねぇ。今日はこんなところで冒険しているのかしらぁ」
 「やはり、間違いじゃなかったんだね。他にも二人いたよね」
 「いたわよ。ルシファーちゃんとベルゼブブちゃんがね。そうだ、これからついてこない? 二人を紹介するわよ」
 サタンの後をアズリエルと一緒について行った。
 (魔の軍勢の本拠地か?)
 背筋が凍る思いがした。・・・でも、手間が省けた。そこに行くつもりだった。
 (うまく立ち回れば、軍勢を借りれるかも知れないな)
 歩きながら、考えていた。
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登場人物紹介

白猫のデズデモナ。十六夜家の飼い猫。

特異点であるデスデーモナの魂が宿る。

月の部屋で普段は過ごしている。

黒猫のオテロ。野良猫達から「将軍」と恐れられている。現在、富士見家の飼い猫。特異点であるオセロの魂を宿す。

灰色のヤーゴ。土門に拾われる。

特異点であるイヤーゴの魂を宿す。

デスデーモナとオセロを恨んでいる。

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