第10話 エスポワールの戦い2
文字数 3,616文字
ファヌエルが先頭に立ち、指揮をとる。エスペランサ達はその護衛。
さながら、ファヌエルの鎧であるかの様子。
「街にいるものに告ぐ。オテロを差し出すのだ。そうすれば、攻撃はしないでやろう。ムダに血を流すことはない。さぁ、どうするのですか?」
その街からの返事はない。
街を代表してジェンイーが返答した。
「・・・言うことはそれだけか。オテロは大切な仲間だ。渡すわけがない。お前達が素直に撤退しないのなら、こちらにも考えがある」
ジェンイーは天軍を率いる男に向けて言い放った。
「オテロを渡すつもりはないようですね。では、お前達やってしまいなさい。戦闘開始です」
天使の大軍が現れた。
戦闘の準備は整っていた。号令待ち。
「それを待っていた。ヒルデブラント、用意はいいか。撃て!」
「おう!」
大砲発射。玉は天使達の上空で破裂。そこから焼夷弾が飛び散る。多くの天使に着弾。着弾と同時にジェル状の燃料と火の粉を飛ばす。飛び散った燃料に引火。次々と天使を焼いた。
ギャーと悲鳴があがる。仲間の火を消そうと近寄る者にも引火。焼け焦げ亡くなる者。羽を失い落ちる者。上空から次々と落ちてくる。そこに容赦なく襲いかかるアザゼルの罠。
地上は天使達の血で紅く染まった。
おびえる天軍。容赦ない攻撃は続く。バリスタを使い、蟻の兵士達が矢を発射。次々と天使を射ち落とす。ファヌエルは呆然とした。
予想もしない反撃をくらった。あれほどいた天軍の大半を、ものの数分で失なった。
「ファヌエル様、しっかりしてください。お怪我はありませんか?」
一人のエスペランサに声をかけられ、正気を取り戻した。
「大丈夫です。これからあなたは天界へ急いで戻りなさい。援軍を頼んでくるのです。頼みましたよ」
この者はバリスタの矢をかわしながら、北の空へ消えた。
「皆さん、いったん撤退です。急ぎなさい」
次々と放たれる矢をかわしながら、後方の空へ消えた。
第一次エスポワールの戦いはジェンイーの指揮のもと、完勝で終わった。
「おう、やったな。ジェンイー、見事に撃退したな」
ヒルデブラントはジェンイーに声をかけた。
「あぁ、今回はな・・・。次はうまくいかないだろう。天軍もバカじゃない。後はオテロがうまくやってくれるといいのだが・・・。この兵力差はいかんともしがたい。それに地上戦なら戦えるが、空中戦はどうにもならない。この際、悪魔でもいい。空中戦を制圧しなければ、戦いがながびいてしまう。今回に懲りて、次は水の精霊辺りを連れてくるだろう。こちらはブリッツドラゴンでむかえうつ。奴の雷撃で感電するだろうな。たぶん、その辺りも対策してくるだろう。今回の戦いで手の内をみせすぎたかもしれない。時間がないかも知れないが、念のために炸裂弾を作っておいてくれ」
「わかった。とりかかろう」
ヒルデブラントは工房へ走って行った。
一方、天界では衝撃が走る。
― 魔界の全軍団が天界へ進行開始。
新聞の一面。そのタイトルの下に、でかでかと黒猫の姿が写る。
「オテロのヤツめ。悪魔どもをそそのかしたのか。たしかにそれしか方法がないよな」
ミカエルは怒りに任せて、ドアをめがけて新聞を投げつけた。
バシーンと音。
運悪くドアを開けたゼルエルの顔に直撃。顔が赤くなっていた。
「これはどのような仕打ちですか? 理由をおっしゃってください。ミカエル様」
ゼルエルは怒りに震えている。
「すまない。当てるつもりはなかったのだ。壁に投げつけたつもりだったのだ。許してくれないか?」
「・・・わかりました。今回だけですよ。それよりも新聞を見ましたか? これは何かの間違いではないのですか?」
「見た。オテロの件だろう。ファヌエルの奴め。失敗したのだな」
「そもそもオテロは街にいなかったのでは? その頃には魔界にいたのでしょう。しかし、あのオテロが魔の軍勢を操るほどになるとは・・・マッドブロブを一緒に倒した時には、だいそれたことをできるとは思えなかったのですが、冒険の先で何があったのでしょう?」
「ヤツは噂では闘技場のダイヤモンドマスター。仲間と一緒にゴルディオンを攻略したらしい。どこまで本当の話かわからんがな。もしも、本当の話ならば相当の実力者であることが推測される。ルシファーが気に入ったのもうなずける。だが、天界へはこさせん。返り討ちにしてやる。すでにラファエルを派遣した」
「私はどうすればよいのでしょう?」
「お前は私と一緒に留守番だ」
「なぜですか? 私も前線で戦わせてください。悪魔どもを討ち取ってみせます」
「普段のお前ならそうだろうが、今のお前では前線で戦えない。そうだろう。お前はオテロ相手に戦えるのか?」
「それは・・・」
「できないのだろう。だから、留守番だ」
「失礼します」
一礼をして、ゼルエルは部屋を出た。空を見上げ、涙がこみあげてくる。自分のふがいなさをうらんだ。前線で戦えないくやしさ。オテロを守れない不安。イロイロな感情が襲ってくる。宿舎へ戻り、ベッドに倒れこむ。天井を見上げ、考えた。私はどうしてしまったのだろう。天軍で役に立たなかったら、存在意義がないではないか。オテロのことはあきらめようと考えた。ただ、他の誰かには手は出させない。せめて私の手でオテロを葬り去ろう。剥製にすればいつも一緒にいれるしな。それでいこう。ゼルエルは決心した。
新聞は街へと届けられていた。早起きのクロリスが一番最初にそれを見た。それと同時に尻もちをつく。仕事どころではない。家を飛びだし、広場へ向かった。ガランとする広場。そうだろう。そのような時間には誰もいない。冷静さを欠いていた。クロリスは考えた。この時間に起きていそうな人物。
「あっ、そうだ」
一人を思いついた。その店へ急いで走って、ドアを開けた。
「ヒルデブラント。起きてよ」
「なんじゃ、あわてて。トイレならそっちじゃ」
疲労している。徹夜で作業をおこない、今、寝ようとしたのだが、たたき起こされた様子。
「トイレじゃないよ。これを見てよ!」
新聞の一面をみる。
「なんじゃとー。オテロが首謀者じゃと・・・ずいぶんと思いきったことをする奴じゃわい」
白ひげをさわりながらそれを読んでいる。
「これは本当のことだと思うかい?」
「うむ、わしの知っているオテロは、大胆かつ慎重な奴じゃ。そもそも心配はいらんハズ。お主はどう思っておるのじゃ」
「分からない。私は、どうしたらいいんだろう?」
おろおろするクロリス。
「普段通りの商人、クロリスでいい。オテロもそう言うハズじゃ。きっとわし等では気づかないことを知ったのじゃろうな。だから天界と戦う判断をしたんだろう。アイツはそういう奴じゃ。心配はいらん」
「そうだね。ありがとう」
「おう、もう寝るからな。おやすみ」
布団の中に入るヒルデブラント。
起こさないようにソーッと店をでるクロリス。広場に向かう。そこにはアディ、レグス、ダーシェ、アンクイーネが話し合っていた。
「クロリス、おはよー。新聞の一面見た?」
「見たよ。驚いた。それでヒルデブラントと話をしていたんだ」
「ヒルデブラントはどう言っていたの?」
「『オテロは大胆かつ慎重な奴だから、心配はいらん』と言っていた。私達は『いつもの生活でいい』と言われた」
「そう、ヒルデブラントの答えはそうなのね。さすがよくオテロのことを分かっているわね」
「わらわはこの街を守るつもりだ。オテロの帰ってくる場所を確保しておいてやらんとな」
「レグス達はどうするの?」
「俺は天界へ行こうと思う。兄貴として守ってやらないとな。それにアイツが道をふみはずしたなら、元に戻してやるのも、兄貴の仕事だろう」
「ダーシェはどうするの?」
「私はバカ弟子に真意を聞いてから、どうするか考える。だから、天界を目指す」
「よかった。それじゃ、さっそく天界へ行きましょう。オテロに会いたかったのだから。クロリスは留守番を頼むわね」
「うん、わかった。気をつけてね」
キョロキョロするダーシェ。レムカを探す。
辺りにいないのを確認すると家に走った。
「バカ弟子、お前はこの街をジェンイーとともに守れ。私は天界へ行く」
「わかりました。師匠」
ガサゴソとタンスをあさり、胴着を着替えた。白のチャイナドレス姿。
「師匠。その姿はいったい?」
「この姿は久しぶりだな。いつもの重りつきの服では神々と本気で戦えないからな」
ダーシェは、広場へ向かう。アディ達と合流。
三人は天界へ向けて出発した。オテロを救いたいとの気持ちがあふれていた。馬車をとばした。
さながら、ファヌエルの鎧であるかの様子。
「街にいるものに告ぐ。オテロを差し出すのだ。そうすれば、攻撃はしないでやろう。ムダに血を流すことはない。さぁ、どうするのですか?」
その街からの返事はない。
街を代表してジェンイーが返答した。
「・・・言うことはそれだけか。オテロは大切な仲間だ。渡すわけがない。お前達が素直に撤退しないのなら、こちらにも考えがある」
ジェンイーは天軍を率いる男に向けて言い放った。
「オテロを渡すつもりはないようですね。では、お前達やってしまいなさい。戦闘開始です」
天使の大軍が現れた。
戦闘の準備は整っていた。号令待ち。
「それを待っていた。ヒルデブラント、用意はいいか。撃て!」
「おう!」
大砲発射。玉は天使達の上空で破裂。そこから焼夷弾が飛び散る。多くの天使に着弾。着弾と同時にジェル状の燃料と火の粉を飛ばす。飛び散った燃料に引火。次々と天使を焼いた。
ギャーと悲鳴があがる。仲間の火を消そうと近寄る者にも引火。焼け焦げ亡くなる者。羽を失い落ちる者。上空から次々と落ちてくる。そこに容赦なく襲いかかるアザゼルの罠。
地上は天使達の血で紅く染まった。
おびえる天軍。容赦ない攻撃は続く。バリスタを使い、蟻の兵士達が矢を発射。次々と天使を射ち落とす。ファヌエルは呆然とした。
予想もしない反撃をくらった。あれほどいた天軍の大半を、ものの数分で失なった。
「ファヌエル様、しっかりしてください。お怪我はありませんか?」
一人のエスペランサに声をかけられ、正気を取り戻した。
「大丈夫です。これからあなたは天界へ急いで戻りなさい。援軍を頼んでくるのです。頼みましたよ」
この者はバリスタの矢をかわしながら、北の空へ消えた。
「皆さん、いったん撤退です。急ぎなさい」
次々と放たれる矢をかわしながら、後方の空へ消えた。
第一次エスポワールの戦いはジェンイーの指揮のもと、完勝で終わった。
「おう、やったな。ジェンイー、見事に撃退したな」
ヒルデブラントはジェンイーに声をかけた。
「あぁ、今回はな・・・。次はうまくいかないだろう。天軍もバカじゃない。後はオテロがうまくやってくれるといいのだが・・・。この兵力差はいかんともしがたい。それに地上戦なら戦えるが、空中戦はどうにもならない。この際、悪魔でもいい。空中戦を制圧しなければ、戦いがながびいてしまう。今回に懲りて、次は水の精霊辺りを連れてくるだろう。こちらはブリッツドラゴンでむかえうつ。奴の雷撃で感電するだろうな。たぶん、その辺りも対策してくるだろう。今回の戦いで手の内をみせすぎたかもしれない。時間がないかも知れないが、念のために炸裂弾を作っておいてくれ」
「わかった。とりかかろう」
ヒルデブラントは工房へ走って行った。
一方、天界では衝撃が走る。
― 魔界の全軍団が天界へ進行開始。
新聞の一面。そのタイトルの下に、でかでかと黒猫の姿が写る。
「オテロのヤツめ。悪魔どもをそそのかしたのか。たしかにそれしか方法がないよな」
ミカエルは怒りに任せて、ドアをめがけて新聞を投げつけた。
バシーンと音。
運悪くドアを開けたゼルエルの顔に直撃。顔が赤くなっていた。
「これはどのような仕打ちですか? 理由をおっしゃってください。ミカエル様」
ゼルエルは怒りに震えている。
「すまない。当てるつもりはなかったのだ。壁に投げつけたつもりだったのだ。許してくれないか?」
「・・・わかりました。今回だけですよ。それよりも新聞を見ましたか? これは何かの間違いではないのですか?」
「見た。オテロの件だろう。ファヌエルの奴め。失敗したのだな」
「そもそもオテロは街にいなかったのでは? その頃には魔界にいたのでしょう。しかし、あのオテロが魔の軍勢を操るほどになるとは・・・マッドブロブを一緒に倒した時には、だいそれたことをできるとは思えなかったのですが、冒険の先で何があったのでしょう?」
「ヤツは噂では闘技場のダイヤモンドマスター。仲間と一緒にゴルディオンを攻略したらしい。どこまで本当の話かわからんがな。もしも、本当の話ならば相当の実力者であることが推測される。ルシファーが気に入ったのもうなずける。だが、天界へはこさせん。返り討ちにしてやる。すでにラファエルを派遣した」
「私はどうすればよいのでしょう?」
「お前は私と一緒に留守番だ」
「なぜですか? 私も前線で戦わせてください。悪魔どもを討ち取ってみせます」
「普段のお前ならそうだろうが、今のお前では前線で戦えない。そうだろう。お前はオテロ相手に戦えるのか?」
「それは・・・」
「できないのだろう。だから、留守番だ」
「失礼します」
一礼をして、ゼルエルは部屋を出た。空を見上げ、涙がこみあげてくる。自分のふがいなさをうらんだ。前線で戦えないくやしさ。オテロを守れない不安。イロイロな感情が襲ってくる。宿舎へ戻り、ベッドに倒れこむ。天井を見上げ、考えた。私はどうしてしまったのだろう。天軍で役に立たなかったら、存在意義がないではないか。オテロのことはあきらめようと考えた。ただ、他の誰かには手は出させない。せめて私の手でオテロを葬り去ろう。剥製にすればいつも一緒にいれるしな。それでいこう。ゼルエルは決心した。
新聞は街へと届けられていた。早起きのクロリスが一番最初にそれを見た。それと同時に尻もちをつく。仕事どころではない。家を飛びだし、広場へ向かった。ガランとする広場。そうだろう。そのような時間には誰もいない。冷静さを欠いていた。クロリスは考えた。この時間に起きていそうな人物。
「あっ、そうだ」
一人を思いついた。その店へ急いで走って、ドアを開けた。
「ヒルデブラント。起きてよ」
「なんじゃ、あわてて。トイレならそっちじゃ」
疲労している。徹夜で作業をおこない、今、寝ようとしたのだが、たたき起こされた様子。
「トイレじゃないよ。これを見てよ!」
新聞の一面をみる。
「なんじゃとー。オテロが首謀者じゃと・・・ずいぶんと思いきったことをする奴じゃわい」
白ひげをさわりながらそれを読んでいる。
「これは本当のことだと思うかい?」
「うむ、わしの知っているオテロは、大胆かつ慎重な奴じゃ。そもそも心配はいらんハズ。お主はどう思っておるのじゃ」
「分からない。私は、どうしたらいいんだろう?」
おろおろするクロリス。
「普段通りの商人、クロリスでいい。オテロもそう言うハズじゃ。きっとわし等では気づかないことを知ったのじゃろうな。だから天界と戦う判断をしたんだろう。アイツはそういう奴じゃ。心配はいらん」
「そうだね。ありがとう」
「おう、もう寝るからな。おやすみ」
布団の中に入るヒルデブラント。
起こさないようにソーッと店をでるクロリス。広場に向かう。そこにはアディ、レグス、ダーシェ、アンクイーネが話し合っていた。
「クロリス、おはよー。新聞の一面見た?」
「見たよ。驚いた。それでヒルデブラントと話をしていたんだ」
「ヒルデブラントはどう言っていたの?」
「『オテロは大胆かつ慎重な奴だから、心配はいらん』と言っていた。私達は『いつもの生活でいい』と言われた」
「そう、ヒルデブラントの答えはそうなのね。さすがよくオテロのことを分かっているわね」
「わらわはこの街を守るつもりだ。オテロの帰ってくる場所を確保しておいてやらんとな」
「レグス達はどうするの?」
「俺は天界へ行こうと思う。兄貴として守ってやらないとな。それにアイツが道をふみはずしたなら、元に戻してやるのも、兄貴の仕事だろう」
「ダーシェはどうするの?」
「私はバカ弟子に真意を聞いてから、どうするか考える。だから、天界を目指す」
「よかった。それじゃ、さっそく天界へ行きましょう。オテロに会いたかったのだから。クロリスは留守番を頼むわね」
「うん、わかった。気をつけてね」
キョロキョロするダーシェ。レムカを探す。
辺りにいないのを確認すると家に走った。
「バカ弟子、お前はこの街をジェンイーとともに守れ。私は天界へ行く」
「わかりました。師匠」
ガサゴソとタンスをあさり、胴着を着替えた。白のチャイナドレス姿。
「師匠。その姿はいったい?」
「この姿は久しぶりだな。いつもの重りつきの服では神々と本気で戦えないからな」
ダーシェは、広場へ向かう。アディ達と合流。
三人は天界へ向けて出発した。オテロを救いたいとの気持ちがあふれていた。馬車をとばした。