第12話 ハルマゲドン
文字数 5,061文字
エスポワールへ向けて飛んでくる天使達。上空は白い羽でおおわれた。
エスポワールは天軍にのみ込まれようとしていた。
「ヤッパリ、オテロのいう通りだったわねぇ。さてと・・・少し相手をしてあげるわぁ」
七大魔王の一人、サタンが現れた。
サタンの軍勢が天使達と交戦。エルツドラッフェ、忍竜はそれに続いた。ジェンイーは駒を三つ投げた。
バルザード、ベリアル、ガープ。バルザード、ベリアルは上空の天使に向かっていった。ガープはヒルデブラントと一緒に城壁で、むかってくる天使と戦っていた。
ベルゼブブ率いる本隊は天軍の陣地を急襲。天軍の退路を限定。完全に囲もうとしなかった。
「ベルゼブブ。なぜ、退路を開けておくんだ。天軍を全滅すればいいだろう。ダメなのか?」
アドラメレクはベルゼブブに確認した。
「ダメだ。逃げる者は追いかけてはならない。だから逃げ道を空けておく。ムダな戦いは、よすんだ。攻撃してはいけない。アドラ。ルシファー様からは足どめをするように言われている。みんなの手前、戦うなと言えなかったのだろう。だが、私は気づいていた。天軍とたまに小競り合いをすることがあって、報告した時だった。ルシファー様が悲しげな目をなされた。その時は『そうか』と言われただけだったが、あの顔が忘れられない。後日、話をした時だった。『天使と悪魔は同種族なのだ』と言われた。それ以来、私も必要以上に天軍とは戦わなくなった。『同種族でなぜ、戦わなくてはいけないのだ』とルシファー様は思われている。私も理解しようと努めたが、ダメだった。部下達に示しがつかない。アドラ。お前のように七罪とならずにいていれば悩まずに済んだのだがな。今の私は昔に比べたら弱くなったのかもしれない。ダメな魔王だ」
「はぁ? 何を弱気なことをいっているんだ。一度、私の火球で焼いてやろうか?」
「なんでそうなる?」
「まだわからないのか。私は昔のやさぐれていた頃より、今の姿の方がよほど魔王らしいと思う。だから、あんたに大軍を任せたんだろう。ルシファーにとって、よき理解者ということだ。話はそれだけ。行こう、ベルゼブブ。四大天使なら倒していいんだろう」
「あぁ」
「久しぶりに二人で暴れるか?」
「そうだな。ジョバンニの件、以来だな。やるか」
天軍を追いかけた。結果的にサタンと挟み撃ちの形となった。
ルシファーは天界の手前で止まった。
「どうしたの?」
あわてて止まるアズリエル。
「アイツらがきた」
ミカエルがゼルエルと千の天軍を引き連れて現れた。
「やはり、少人数で乗り込んできたか。ところでなんだその姿は?」
「超進化の姿のことか。お前が知らなくてもいいことだ」
「超進化だと。ふざけるな。お前達、その男を捕まえろ」
ミカエルの号令に天使が動き出す。
「ソイツらは俺に任せろ!」
赤い火の玉が天使に当たる。消し炭となり、落ちる天使。ふりむくとそこにファイアドレイクがいた。
「オテロ、久しぶりだな。俺に飛び乗れ」
ルシファーの下を通過したタイミングで飛び移った。
「いくぞ、天使ども。うらみはないが、オテロの敵は俺の敵だ」
次々と火の玉を天使めがけ、発射。その後、天高く上昇した。
「オテロをこちらへ渡せ」
ゼルエルが向かってくる。
「あなたの相手は私」
アズリエルが死神の鎌をふるう。ゼルエルは剣で受け止め、距離をとった。
「ファイアドレイクよ。オテロを天界に連れていってくれ」
骨三郎がファイアドレイクの横でフワフワと浮かびながら言った。
「いいだろう、いくぞ。オテロ」
急降下して天界を目指した。
「待て、オテロ。天界へは、いかせん」
ミカエルが立ちふさがった。
「お前の相手はここにいるだろう。久しぶりに稽古をつけてやろう」
ルシファーがミカエルを投げ飛ばした。
「ここは任せて、先に行け」
「おう!」
ファイアドレイクはその横を通過した。
「邪魔をするな。兄さん。いや、堕天使ルシファー。お前が天界を去ってから、どれだけ私が大変な目にあったか。分かっているのか?」
「すまなかった。本当に申し訳ない。お前を助けることができなかった」
頭をさげるルシファー。
「今さら謝られても遅いんだー」
怒りの火の玉を放つ。ルシファーは片手で受け止め、それを消滅。
「お前の恨みはその程度か。今までの想いはそれだけか。さぁ、全力で語り合おうではないか。我が妹よ」
史上最大の兄妹ゲンカが勃発。これにより、白の大地は半分が焼失。まさしくハルマゲドン。ここが白の大地であることがわからない。まるで黒の大地のように草木一本も残らないありさま。唯一、太陽があるからここが白の大地だと分かる。
「もう気が済んだか。そろそろ、終りにしよう。オテロの元へ、行かないといけないのでな」
「させるかー。まだ私は動けるぞ。絶対に負けん」
上空へ飛び上がり、最大級の火の玉を頭上に作り上げた。
「ほう、やればできるもんだ。だが、まだ努力が足りん。かかってこい。それを証明してやろう」
「くらえ、ルシファー」
巨大隕石のような火の玉。それをルシファーにめがけて投げた。ルシファーによける選択肢はない。かわせば白の大地が消滅する。ルシファーがかわさないことがわかっていての暴挙を行った。
「おろかな。あんなヤツらと一緒にいるから、変わってしまったんだな。昔のお前に戻してやる」
ルシファーはシールドを張り、受けとめた。ミカエルは剣をかまえ、ルシファーに突進。
「これならかわせないだろう。お前の敗けだ、ルシファー」
「おろかな、それくらいのことはわかっている」
片手で火の玉をもち、魔法の矛で剣をはじいた。
「なんだと・・・そんなバカな」
シールドが火の玉を包み込み消滅。
「惜しかったな。これで終りだ。ネオ・ミアズマ・ゴッデス。昔のお前に戻れ」
蒼い光につつまれるミカエル。力を奪われ、衝撃波により、大ダメージを受け、地面に叩きつけられた。
「うぅ、私は、まだまだ兄さんに劣るというのか」
天をみあげ、大泣きした。ルシファーはミカエルの側に降り立った。いつものしかめっ面ではない。ミカエルの前では優しい顔となる。
「兄さん、教えてくれ。私は弱かったのか?」
「いや、しばらく会わない間に強くなったな。妹よ。兄として、うれしくおもうぞ」
「では、なぜ通用しなかったのだ」
「思いの強さの違いだ。お前の実力ならば、いずれ超進化もできるだろう。私は、この世界が好きだ。この世界の真の悪、天位議会を討つ。その思いが超進化の扉を開いた。それに今の私はオテロという理解者を得た。悪を討つのにちゅうちょはない。お前はそこで考えて答えをだすんだ。その力はなんのためにある。それがヒントだ」
ルシファーは天界をめざし、走った。
「くっ」
ミカエルは顔を横にむけた。とめどなく涙がながれる。
彼女は実力があるのだが、優秀な兄のせいで劣等感を抱いていた。たゆまぬ努力で天使長まで、のぼりつめたが、元天使長の兄に挑み、打ちのめされた。コツコツと積み上げた自信を一瞬で砕かれた。おまけに宿題まで与えられる不始末。涙はつきなかったが、真面目な彼女はそれを解こうと考えていた。
私は何がしたかったのだろう。兄さんに自分という存在を認めさせたかったのだろうか? すでに兄を超えたと、うぬぼれていたのではないだろうか? 反省をすればきりがない。この力はなんのためにあると急にいわれても考えたことはなかった。漠然と天位議会に言われるがまま、仕事をこなしていただけだ。その命令は絶対だと自分に言い聞かしていた。その命令の中にはなぜ? というものもあったのは確かだ。私はそれも仕事だと割りきってこなした。まるであやつり人形のようだったのかもしれない。私にとってよき理解者は兄だけだった。いつも背中を追いかけた。優しく微笑む兄さん。そんな平和な日々がズーッと続くと思っていた。なのに兄は突然、天界から去った。しかも反逆者の汚名付き。私はどうしていいかわからなくなった。それ以来、天位議会のいいなりとなるしか生きる選択肢はなかった。
私は兄さんのように、この愛すべき世界を守れればいいと思っていた。剣の修行はそのためだ。たとえこの身がどうなろうともこの世界だけは守ってみせる。それが天使長の役目だと思って日々、過ごしてきた。でも、そうではなかったのだ。私自身の願いだったのだ。
・・・そうか、そういうことか。兄さんの宿題の答え。私はこの世界を守りたい。この力はそのためにある。
今、ハッキリとわかった。賢明な兄さんは、この世界の悪を知ってしまったのだ。だから、自分の立場ある職を捨ててまで、この世界の未来を案じたのだ。三分の一の天軍は兄さん側についた。しかし、敗れた。勝った天位議会が正義となり、負けた兄さん側は悪とされた。どの時代でも正しい方が勝つとは限らない。歴史はそうやって作られる。歴史の中で悪とされた正しい行動はどれだけ闇に葬りさられたのだろう。
今回も兄さんが負ければ、また悪と呼ばれる。私が同じ立場なら立ち上がることはない。やはり、兄さんはすごいよ。私では遠く及ばない。
ゆっくりと起き上がった。答えがわかったよ。待っていてくれ、兄さん。今、助けにいくよ。
ミカエルは痛みをこらえ、ヨロヨロと歩きだした。
ベルゼブブ、アドラメレクは耐えていた。ガブリエル、ウリエル、ラファエルの連携。
「あんた、あの回復天使をなんとかできないの?」
「そうだな。まずアイツをなんとかしないとせっかく与えたダメージを回復されてしまうな。呪いのダメージ以上に回復するとは流石、四大天使の一角だな」
「敵に感心してどうすんのよ」
「まぁ、よいではないか。さすがにルシファー様も天界へ着いたことだろう。我々の目的は達成したといえる。むきになる必要はないということだ。アドラ、見ているか。これが最良の戦いだ」
「はい、はい。見ましたよー。・・・で、これからどうするんだ。戦う必要はないんだろう」
「こちらになくても向こう側が引かないのなら相手するしかないだろう。ケガをしない程度に相手をしてやる。いくぞ。アドラ」
「結局、戦うんじゃないか。まー、ひまつぶしにはなるかな」
戦いを楽しむ二人。ここでもアドラメレクにより、辺りは焼失。白の大地は荒廃した。
エスポワールの城壁に降り立つサタン。暇そうにしていた。
「暇ねぇ。全然、ワクワクしない。ここの天使達は弱すぎてつまらないわぁ。私もひまつぶしに四大天使と戦おうかしら」
「あぁ、そうしてくれ。おかげで助かった。礼を言う」
ジェンイーはサタンに頭をさげた。
「オテロへ請求しないといけないわねぇ。全然、楽しめなかったわよぅ。このいらだちは四大天使にぶつけることにするわぁ。じゃあね」
サタンは飛び立った。
「もう片づいたかな? おじさん、約束忘れていないよね」
ノイレはノーブルホーンを青く光らせている。今すぐにでもジェンイーと戦いたい様子。
「まー、待て。その前に亡くなった者を埋葬してやろう。お前は近くに大きな穴をあけてくれ」
「しょうがないなー。これも、おじさんと戦うための準備運動だな」
さらに光を強めるノーブルホーン。ノイレは白の大地にパンチを繰り出した。
ズドーンと大きな音。まるで隕石が衝突したかのようなクレーターが出来ていた。
「うーん。まだ足りないかな」
ズドーン。ズドーンと大きなクレーターを作っていく。
戦いを止める天使と悪魔。はじめてみるノーブルホーンに恐怖を感じていた。
「もうその辺でいいだろう。お前も手伝え」
ジェンイーは天使も悪魔も一緒に埋葬し、手をあわせ祈った。
「もう、戦いは止めろ。決着はついたはずだ。ムダに命をおとすな」
一喝するジェンイー。その場でかたまる天使と悪魔。武器を捨てる天使。悪魔はその場を離れた。天使達は涙を流し、戦死者を埋葬していった。 亡くなった者に天使も悪魔もない。丁重に埋葬。亡くなった者が転生された時には、天使と悪魔の争いがない平和となったオセロニア世界であることをジェンイー達は祈った。
エスポワールは天軍にのみ込まれようとしていた。
「ヤッパリ、オテロのいう通りだったわねぇ。さてと・・・少し相手をしてあげるわぁ」
七大魔王の一人、サタンが現れた。
サタンの軍勢が天使達と交戦。エルツドラッフェ、忍竜はそれに続いた。ジェンイーは駒を三つ投げた。
バルザード、ベリアル、ガープ。バルザード、ベリアルは上空の天使に向かっていった。ガープはヒルデブラントと一緒に城壁で、むかってくる天使と戦っていた。
ベルゼブブ率いる本隊は天軍の陣地を急襲。天軍の退路を限定。完全に囲もうとしなかった。
「ベルゼブブ。なぜ、退路を開けておくんだ。天軍を全滅すればいいだろう。ダメなのか?」
アドラメレクはベルゼブブに確認した。
「ダメだ。逃げる者は追いかけてはならない。だから逃げ道を空けておく。ムダな戦いは、よすんだ。攻撃してはいけない。アドラ。ルシファー様からは足どめをするように言われている。みんなの手前、戦うなと言えなかったのだろう。だが、私は気づいていた。天軍とたまに小競り合いをすることがあって、報告した時だった。ルシファー様が悲しげな目をなされた。その時は『そうか』と言われただけだったが、あの顔が忘れられない。後日、話をした時だった。『天使と悪魔は同種族なのだ』と言われた。それ以来、私も必要以上に天軍とは戦わなくなった。『同種族でなぜ、戦わなくてはいけないのだ』とルシファー様は思われている。私も理解しようと努めたが、ダメだった。部下達に示しがつかない。アドラ。お前のように七罪とならずにいていれば悩まずに済んだのだがな。今の私は昔に比べたら弱くなったのかもしれない。ダメな魔王だ」
「はぁ? 何を弱気なことをいっているんだ。一度、私の火球で焼いてやろうか?」
「なんでそうなる?」
「まだわからないのか。私は昔のやさぐれていた頃より、今の姿の方がよほど魔王らしいと思う。だから、あんたに大軍を任せたんだろう。ルシファーにとって、よき理解者ということだ。話はそれだけ。行こう、ベルゼブブ。四大天使なら倒していいんだろう」
「あぁ」
「久しぶりに二人で暴れるか?」
「そうだな。ジョバンニの件、以来だな。やるか」
天軍を追いかけた。結果的にサタンと挟み撃ちの形となった。
ルシファーは天界の手前で止まった。
「どうしたの?」
あわてて止まるアズリエル。
「アイツらがきた」
ミカエルがゼルエルと千の天軍を引き連れて現れた。
「やはり、少人数で乗り込んできたか。ところでなんだその姿は?」
「超進化の姿のことか。お前が知らなくてもいいことだ」
「超進化だと。ふざけるな。お前達、その男を捕まえろ」
ミカエルの号令に天使が動き出す。
「ソイツらは俺に任せろ!」
赤い火の玉が天使に当たる。消し炭となり、落ちる天使。ふりむくとそこにファイアドレイクがいた。
「オテロ、久しぶりだな。俺に飛び乗れ」
ルシファーの下を通過したタイミングで飛び移った。
「いくぞ、天使ども。うらみはないが、オテロの敵は俺の敵だ」
次々と火の玉を天使めがけ、発射。その後、天高く上昇した。
「オテロをこちらへ渡せ」
ゼルエルが向かってくる。
「あなたの相手は私」
アズリエルが死神の鎌をふるう。ゼルエルは剣で受け止め、距離をとった。
「ファイアドレイクよ。オテロを天界に連れていってくれ」
骨三郎がファイアドレイクの横でフワフワと浮かびながら言った。
「いいだろう、いくぞ。オテロ」
急降下して天界を目指した。
「待て、オテロ。天界へは、いかせん」
ミカエルが立ちふさがった。
「お前の相手はここにいるだろう。久しぶりに稽古をつけてやろう」
ルシファーがミカエルを投げ飛ばした。
「ここは任せて、先に行け」
「おう!」
ファイアドレイクはその横を通過した。
「邪魔をするな。兄さん。いや、堕天使ルシファー。お前が天界を去ってから、どれだけ私が大変な目にあったか。分かっているのか?」
「すまなかった。本当に申し訳ない。お前を助けることができなかった」
頭をさげるルシファー。
「今さら謝られても遅いんだー」
怒りの火の玉を放つ。ルシファーは片手で受け止め、それを消滅。
「お前の恨みはその程度か。今までの想いはそれだけか。さぁ、全力で語り合おうではないか。我が妹よ」
史上最大の兄妹ゲンカが勃発。これにより、白の大地は半分が焼失。まさしくハルマゲドン。ここが白の大地であることがわからない。まるで黒の大地のように草木一本も残らないありさま。唯一、太陽があるからここが白の大地だと分かる。
「もう気が済んだか。そろそろ、終りにしよう。オテロの元へ、行かないといけないのでな」
「させるかー。まだ私は動けるぞ。絶対に負けん」
上空へ飛び上がり、最大級の火の玉を頭上に作り上げた。
「ほう、やればできるもんだ。だが、まだ努力が足りん。かかってこい。それを証明してやろう」
「くらえ、ルシファー」
巨大隕石のような火の玉。それをルシファーにめがけて投げた。ルシファーによける選択肢はない。かわせば白の大地が消滅する。ルシファーがかわさないことがわかっていての暴挙を行った。
「おろかな。あんなヤツらと一緒にいるから、変わってしまったんだな。昔のお前に戻してやる」
ルシファーはシールドを張り、受けとめた。ミカエルは剣をかまえ、ルシファーに突進。
「これならかわせないだろう。お前の敗けだ、ルシファー」
「おろかな、それくらいのことはわかっている」
片手で火の玉をもち、魔法の矛で剣をはじいた。
「なんだと・・・そんなバカな」
シールドが火の玉を包み込み消滅。
「惜しかったな。これで終りだ。ネオ・ミアズマ・ゴッデス。昔のお前に戻れ」
蒼い光につつまれるミカエル。力を奪われ、衝撃波により、大ダメージを受け、地面に叩きつけられた。
「うぅ、私は、まだまだ兄さんに劣るというのか」
天をみあげ、大泣きした。ルシファーはミカエルの側に降り立った。いつものしかめっ面ではない。ミカエルの前では優しい顔となる。
「兄さん、教えてくれ。私は弱かったのか?」
「いや、しばらく会わない間に強くなったな。妹よ。兄として、うれしくおもうぞ」
「では、なぜ通用しなかったのだ」
「思いの強さの違いだ。お前の実力ならば、いずれ超進化もできるだろう。私は、この世界が好きだ。この世界の真の悪、天位議会を討つ。その思いが超進化の扉を開いた。それに今の私はオテロという理解者を得た。悪を討つのにちゅうちょはない。お前はそこで考えて答えをだすんだ。その力はなんのためにある。それがヒントだ」
ルシファーは天界をめざし、走った。
「くっ」
ミカエルは顔を横にむけた。とめどなく涙がながれる。
彼女は実力があるのだが、優秀な兄のせいで劣等感を抱いていた。たゆまぬ努力で天使長まで、のぼりつめたが、元天使長の兄に挑み、打ちのめされた。コツコツと積み上げた自信を一瞬で砕かれた。おまけに宿題まで与えられる不始末。涙はつきなかったが、真面目な彼女はそれを解こうと考えていた。
私は何がしたかったのだろう。兄さんに自分という存在を認めさせたかったのだろうか? すでに兄を超えたと、うぬぼれていたのではないだろうか? 反省をすればきりがない。この力はなんのためにあると急にいわれても考えたことはなかった。漠然と天位議会に言われるがまま、仕事をこなしていただけだ。その命令は絶対だと自分に言い聞かしていた。その命令の中にはなぜ? というものもあったのは確かだ。私はそれも仕事だと割りきってこなした。まるであやつり人形のようだったのかもしれない。私にとってよき理解者は兄だけだった。いつも背中を追いかけた。優しく微笑む兄さん。そんな平和な日々がズーッと続くと思っていた。なのに兄は突然、天界から去った。しかも反逆者の汚名付き。私はどうしていいかわからなくなった。それ以来、天位議会のいいなりとなるしか生きる選択肢はなかった。
私は兄さんのように、この愛すべき世界を守れればいいと思っていた。剣の修行はそのためだ。たとえこの身がどうなろうともこの世界だけは守ってみせる。それが天使長の役目だと思って日々、過ごしてきた。でも、そうではなかったのだ。私自身の願いだったのだ。
・・・そうか、そういうことか。兄さんの宿題の答え。私はこの世界を守りたい。この力はそのためにある。
今、ハッキリとわかった。賢明な兄さんは、この世界の悪を知ってしまったのだ。だから、自分の立場ある職を捨ててまで、この世界の未来を案じたのだ。三分の一の天軍は兄さん側についた。しかし、敗れた。勝った天位議会が正義となり、負けた兄さん側は悪とされた。どの時代でも正しい方が勝つとは限らない。歴史はそうやって作られる。歴史の中で悪とされた正しい行動はどれだけ闇に葬りさられたのだろう。
今回も兄さんが負ければ、また悪と呼ばれる。私が同じ立場なら立ち上がることはない。やはり、兄さんはすごいよ。私では遠く及ばない。
ゆっくりと起き上がった。答えがわかったよ。待っていてくれ、兄さん。今、助けにいくよ。
ミカエルは痛みをこらえ、ヨロヨロと歩きだした。
ベルゼブブ、アドラメレクは耐えていた。ガブリエル、ウリエル、ラファエルの連携。
「あんた、あの回復天使をなんとかできないの?」
「そうだな。まずアイツをなんとかしないとせっかく与えたダメージを回復されてしまうな。呪いのダメージ以上に回復するとは流石、四大天使の一角だな」
「敵に感心してどうすんのよ」
「まぁ、よいではないか。さすがにルシファー様も天界へ着いたことだろう。我々の目的は達成したといえる。むきになる必要はないということだ。アドラ、見ているか。これが最良の戦いだ」
「はい、はい。見ましたよー。・・・で、これからどうするんだ。戦う必要はないんだろう」
「こちらになくても向こう側が引かないのなら相手するしかないだろう。ケガをしない程度に相手をしてやる。いくぞ。アドラ」
「結局、戦うんじゃないか。まー、ひまつぶしにはなるかな」
戦いを楽しむ二人。ここでもアドラメレクにより、辺りは焼失。白の大地は荒廃した。
エスポワールの城壁に降り立つサタン。暇そうにしていた。
「暇ねぇ。全然、ワクワクしない。ここの天使達は弱すぎてつまらないわぁ。私もひまつぶしに四大天使と戦おうかしら」
「あぁ、そうしてくれ。おかげで助かった。礼を言う」
ジェンイーはサタンに頭をさげた。
「オテロへ請求しないといけないわねぇ。全然、楽しめなかったわよぅ。このいらだちは四大天使にぶつけることにするわぁ。じゃあね」
サタンは飛び立った。
「もう片づいたかな? おじさん、約束忘れていないよね」
ノイレはノーブルホーンを青く光らせている。今すぐにでもジェンイーと戦いたい様子。
「まー、待て。その前に亡くなった者を埋葬してやろう。お前は近くに大きな穴をあけてくれ」
「しょうがないなー。これも、おじさんと戦うための準備運動だな」
さらに光を強めるノーブルホーン。ノイレは白の大地にパンチを繰り出した。
ズドーンと大きな音。まるで隕石が衝突したかのようなクレーターが出来ていた。
「うーん。まだ足りないかな」
ズドーン。ズドーンと大きなクレーターを作っていく。
戦いを止める天使と悪魔。はじめてみるノーブルホーンに恐怖を感じていた。
「もうその辺でいいだろう。お前も手伝え」
ジェンイーは天使も悪魔も一緒に埋葬し、手をあわせ祈った。
「もう、戦いは止めろ。決着はついたはずだ。ムダに命をおとすな」
一喝するジェンイー。その場でかたまる天使と悪魔。武器を捨てる天使。悪魔はその場を離れた。天使達は涙を流し、戦死者を埋葬していった。 亡くなった者に天使も悪魔もない。丁重に埋葬。亡くなった者が転生された時には、天使と悪魔の争いがない平和となったオセロニア世界であることをジェンイー達は祈った。