第23話 消えた土門
文字数 4,486文字
私はオロオロしていた。時間がない。頭を抱えた。
「オ○ロ。何か、いい方法がないのか?」
「そんなの自分で考えてくれ」
「相棒だろう。何て言ったらいいんだ。助けてくれよ。もうすぐ彼女から電話がかかってくるんだぞ」
彼女はいつも午後九時頃、電話をかけてくる。
「この際、仕方がないだろう。全部、話せばいい」
「それができるなら、苦労しないよ。彼女のことだ、興味本位で首を突っ込んでくるハズなんだ。それを避けたい。どうしたらいいんだ?」
間が悪かった。彼女はいつもよりも早く電話をしてきた。
「もしもし、こんばんわ。『太陽』、イヤーゴは見つかったの?」
(ドキッ)
あなたは超能力者ですか? いきなり、核心をついてきた。
(これじゃぁ、どっちが探偵か、わからないよ)
私は隠すことを諦めた。彼女に隠し事はできそうにない。キャンバスにいた時みたいに泣かれても面倒だ。
「うん。おそらく関係者とみられる人物を特定したよ」
「スゴいじゃない。でも、情報の取り方には問題あるけどね」
(えっ)
「何で? 何で知っているの?」
彼女は千里眼でもあるのだろうか? 恐ろしい。見事に当ててみせた。
「あなたは土門君が怪しいと思っていたんでしょう」
「うん。そうだけど、話をしたことがあったかな?」
「違うわよ。あなたがそうでもなかったら、土門君にケガを負わされる訳がないじゃない。あなたは、とぼけていたけど、ケガをした理由のことから推測して、なんとなく想像できたわよ」
参った。もうお手上げだ。お月様探偵事務所に脱帽。私は彼女にウソはつけないだろう。今日のように見抜かれる。今後は本音でしゃべろう。その方が、お互いのためだ。覚悟を決めよう。
「ゴメン。やっぱり、君には勝てないよ。これからは隠さずに何でも相談するよ。いいよね」
「もちろん、私はあなたに隠す話は、一切ないけどね」
オ○ロは「うんうん」と首を上下に振っていた。
(これでいいんだな、オ○ロ)
次の日、私の心は晴れやかだった。彼女にイロイロと話を聞いてもらってよかった。胸の奥に引っかかっていたことを話した。最初からそうすればよかった。私はバカだった。何をしていたのだろう。彼女に頼れば、よかったのだ。彼女にいいところを見せようと張り切りすぎた。でも、これからは気負うことはない。ありのままでいくんだ。二人で相談して決めた。
(よし、いくぞ。決戦だ)
土門に聞いてみよう。イヤーゴを排除できたら、彼と争う理由はない。それでも「月様」というくらい彼女のことを好きなんだから、無理やり彼女を奪いにくるかも知れない。そのことも話をしよう。彼女を諦めないのなら、私は戦うつもりだ。他のことなら、百歩譲ってもいい。彼女だけは絶対に譲れないんだ。
キャンバスで土門がくるのを待った。彼には話をしなければならない。私がオテロだったこと。彼女がデズデモナだったこと。「月」と交際をしていること。できたら彼には自主的に協力をしてほしい。私が倒すのはイヤーゴのみ。それを理解してほしい。でも、その日は待っても土門は現れなかった。
その夜、土門が現れなかったことを考えた。
「私は可能性の一つとして、オセロニアの世界へ行ったんじゃないかと思っているんだ。オ○ロはどう思う?」
「オセロニア世界にイヤーゴの入り込む余地があるのか?」
「それはどうかな? だから聞いているんだ。イヤーゴのことはオ○ロの方がくわしいだろう」
「そうだな。魔の軍勢ならイヤーゴの口車に取り込まれるヤツはいるだろうな」
その一言が気になった。三人の飛ばされたところだ。私は竜。彼女は神。土門は魔。それぞれ属性が違う。きっと何か関係があるんだ。
メフィストフェレスは「選んで」と言っていた。ならば、選んで飛ばしたのではないかと考えられないだろうか? 何で私は竜だったんだ。分からない。でも、きっと何かあるんだ。性格、戦闘力、知識、相性。これらを出会ったわずかな時間で理解するなんて不可能だろう。私の場合、店にいたのはわずか五分ほどだった。「月」は本を置いていったと言っていた。二人ともわずかな時間だ。どうして「選んで」オセロニアの世界へ選択して飛ばすことができるんだ。
(そうか)
きっとパーツは私達じゃないんだ。あの物語の登場人物が必要だったんだ。オ○ロ、デスデーモナ、イヤーゴがパーツであり、我々はそれを補助する魂だったんだ。器と操縦士の関係だ。だから、それぞれの属性に対応した魔導書を用意できたんだ。
(あのウソつきめ。とんだタヌキじゃないか)
理屈は分かった。まだ何か引っかかる。ルシファーのことだ。三人の特異点を使って、何をするつもりだったんだ。彼は、まだ何かを隠している。分からない問題を解決するためにオセロニアの世界へ飛ぶことにした。
「『月』、明日の午後、オセロニアの世界へ行ってくるよ」
「今日、土門君がいなかったことと何か関係があるの?」
「まだ、分からない。土門がイヤーゴの悪巧みに利用されるのを止めたいんだ。それを確かめるために行ってくるよ」
「ダメよ。許可できない。私と交わした、あの約束を破るの?」
自分の身体を大事にすると約束した。今は、それどころじゃない。土門が土門でいられなくなるかも知れない。魂の入れ替えができることを私は知っている。心の牢獄に閉じ込めることも可能だ。本当は今すぐにでも、あの世界へ飛ばないといけない。イヤーゴの悪巧みが進行しているに違いないからだ。
(でも・・・)
彼女を巻き込みたく無かった。
「約束は守るよ。危険なことはしない。君を悲しませることはしないよ。だからお願いだ」
「ダメよ。絶対にダメ。あなた一人では、あの世界へ行ってはダメ。だから、私がついていくわ。あなたは絶対に無茶をするに違いないのだから。私があなたを監視する。それしか許可しない。いいわね」
電話の向こうで怒っているのがわかる。火に油を注ぐことは止めた方がよさそうだ。
(取りあえず、それでいいか)
「うん。それでいいよ。土門を助けてやるんだ」
「イヤーゴに取り込まれている土門君を助けることなんて、できるの?」
「分からない。でも、やるしかないんだ」
「そうね。それまで無事でいて欲しいわね」
「うん。それではまた明日。おやすみ」
「えぇ、おやすみなさい」
(土門、迎えにいくまで何とか耐えてくれよ)
次の日、講義を受けて、帰ってきていた。彼女とはオセロニアの世界で合流する予定。彼女は忙しい、イロイロなことをする必要がある。私は先に飛び立つことにした。できることなら、彼女がくるまでに何とかしたい。
(オテロ、今回も頼んだぞ)
魔導書を開く。それは太陽の日射しを浴びてキラキラと輝く。オテロは待っていたかのように踏みつけ、ニャーンと鳴いた。時空の渦がのみ込む。暗闇に一筋の光。私はオセロニアの世界へやって来た。
(待っていろよ、土門。今、助けてやるからな)
私は城塞都市エスポワールを目指した。「月」とはそこで待ち合わせを決めていた。私は待ち合わせの場所はどこでもよかったのだが、彼女がそう言った。はやる気持ちを押さえ、そこで彼女を待つことにした。彼女から言われたことは必ず守ろうと決めている。その彼女が私を罠にかけるなんて・・・。秘密の作戦を企んでいたなんて思っていなかった。
(なんじゃ、こりゃー)
私は呆気にとられていた。エスポワールが見えてきたと思ったら、その下に城壁。それに囲まれた街がにぎわっていた。私がこの世界を離れてから建てられたのだろう。
(これじゃぁ、まるでどこぞの国の首都じゃないか?)
城壁の門下にいる門番が私を止めた。「通行証を見せろ」と槍をかまえる。
「そのような物は持っていない」そう言うと門番は私を「怪しいヤツめ」と逮捕。
(面倒なことになったな)
判断を仰ごうと上司の元に連れて行った。
(困ったもんだ)
牢屋に入れられるならば、暴れるかと考えていた。でも、実行せずに済んだ。知っている者が門番の上司だった。あの元・門番。「どうせここまでこれないだろう」と言った門番。
「よう、オテロじゃないか。久しぶりだな。お前は何をやっているんだ。縄にしばられるのが好きなのか?」
「そう言わずにほどいてくれないか? 通行証なんて持っていないよ」
「そうだろうな。向こうの世界の住人だからな。待っていろ。今、ほどいてやる」
部下に命令。拘束を解かれた。
「いやー、参ったよ。いつからこんな感じになったんだい?」
「街が大きくなってからだ。あまりにも人が増えすぎてな。にぎやかになったのはいいんだが、問題も増えてな。通行証を発行するようになったんだ」
「そうなんだ。驚いたよ。また門番をしているんだね。しかも上司になっているなんて、出世じゃないか」
「まー、お前のおかげみたいなものだ」
私はこの者と話をしている間、部下は不思議そうな顔をしていた。
「隊長、ソイツは誰ですか?」
部下は不審者扱いの私が仲良くしているのをよく思っていなかった。
「お前達も聞いたことがあるだろう。この世界に黒猫の勇者がいたことをな」
「昔話ですか? 覚えています『黒猫のオテロ』ですよね。あんなのは作り話でしょう」
(何のこと?)
「ははは、本当の話だ。そしてお前の目の前にいるのが、本人だ」
「えーっ」
門番は腰をぬかした。態度を改めて、握手を求めてきた。ペンを渡して、背中にサインを求められた。手を差し出すと両手でつかみ、ブンブンと振る。勝手に感動している。なぜだか、目をキラキラと輝かしている。
(どうなっているんだ?)
「オテロが向こうの世界へ帰ってからな。人間の間に、とある伝説の話が広まってな。オテロの神格化が始まったんだ。そして、この街の名前をオテロと呼ぶようになったんだ」
「そ、そうなんだ。何か申し訳ないね。こんな猫なんだけど・・・」
「謙遜をしなくていい。この世界はお前に救われたのだからな。みんな感謝しているさ」
「そうかな。ところでヤーゴと言う灰色の猫のことを知らないかい? 探しているんだ」
「いや、知らないな。スマンな協力できなくって、今後は注意しておく」
「ありがとう。それと私を追いかけて、白猫のデズデモナがこの街に訪ねてくるから、通してほしいんだ」
「あぁ、分かった」
白猫がピンクのマスクをしている絵を描いて渡した。
久しぶりに仲間の顔でも見ようと思った。
「アディ達はエスポワールにいるのかな?」
「あぁ、会ってくるといい」
「うん。そうするよ。仕事を頑張ってね」
私は手を振って別れると、エスポワールへ続く道を歩いた。
(みんなは元気にしているだろうか?)
「オ○ロ。何か、いい方法がないのか?」
「そんなの自分で考えてくれ」
「相棒だろう。何て言ったらいいんだ。助けてくれよ。もうすぐ彼女から電話がかかってくるんだぞ」
彼女はいつも午後九時頃、電話をかけてくる。
「この際、仕方がないだろう。全部、話せばいい」
「それができるなら、苦労しないよ。彼女のことだ、興味本位で首を突っ込んでくるハズなんだ。それを避けたい。どうしたらいいんだ?」
間が悪かった。彼女はいつもよりも早く電話をしてきた。
「もしもし、こんばんわ。『太陽』、イヤーゴは見つかったの?」
(ドキッ)
あなたは超能力者ですか? いきなり、核心をついてきた。
(これじゃぁ、どっちが探偵か、わからないよ)
私は隠すことを諦めた。彼女に隠し事はできそうにない。キャンバスにいた時みたいに泣かれても面倒だ。
「うん。おそらく関係者とみられる人物を特定したよ」
「スゴいじゃない。でも、情報の取り方には問題あるけどね」
(えっ)
「何で? 何で知っているの?」
彼女は千里眼でもあるのだろうか? 恐ろしい。見事に当ててみせた。
「あなたは土門君が怪しいと思っていたんでしょう」
「うん。そうだけど、話をしたことがあったかな?」
「違うわよ。あなたがそうでもなかったら、土門君にケガを負わされる訳がないじゃない。あなたは、とぼけていたけど、ケガをした理由のことから推測して、なんとなく想像できたわよ」
参った。もうお手上げだ。お月様探偵事務所に脱帽。私は彼女にウソはつけないだろう。今日のように見抜かれる。今後は本音でしゃべろう。その方が、お互いのためだ。覚悟を決めよう。
「ゴメン。やっぱり、君には勝てないよ。これからは隠さずに何でも相談するよ。いいよね」
「もちろん、私はあなたに隠す話は、一切ないけどね」
オ○ロは「うんうん」と首を上下に振っていた。
(これでいいんだな、オ○ロ)
次の日、私の心は晴れやかだった。彼女にイロイロと話を聞いてもらってよかった。胸の奥に引っかかっていたことを話した。最初からそうすればよかった。私はバカだった。何をしていたのだろう。彼女に頼れば、よかったのだ。彼女にいいところを見せようと張り切りすぎた。でも、これからは気負うことはない。ありのままでいくんだ。二人で相談して決めた。
(よし、いくぞ。決戦だ)
土門に聞いてみよう。イヤーゴを排除できたら、彼と争う理由はない。それでも「月様」というくらい彼女のことを好きなんだから、無理やり彼女を奪いにくるかも知れない。そのことも話をしよう。彼女を諦めないのなら、私は戦うつもりだ。他のことなら、百歩譲ってもいい。彼女だけは絶対に譲れないんだ。
キャンバスで土門がくるのを待った。彼には話をしなければならない。私がオテロだったこと。彼女がデズデモナだったこと。「月」と交際をしていること。できたら彼には自主的に協力をしてほしい。私が倒すのはイヤーゴのみ。それを理解してほしい。でも、その日は待っても土門は現れなかった。
その夜、土門が現れなかったことを考えた。
「私は可能性の一つとして、オセロニアの世界へ行ったんじゃないかと思っているんだ。オ○ロはどう思う?」
「オセロニア世界にイヤーゴの入り込む余地があるのか?」
「それはどうかな? だから聞いているんだ。イヤーゴのことはオ○ロの方がくわしいだろう」
「そうだな。魔の軍勢ならイヤーゴの口車に取り込まれるヤツはいるだろうな」
その一言が気になった。三人の飛ばされたところだ。私は竜。彼女は神。土門は魔。それぞれ属性が違う。きっと何か関係があるんだ。
メフィストフェレスは「選んで」と言っていた。ならば、選んで飛ばしたのではないかと考えられないだろうか? 何で私は竜だったんだ。分からない。でも、きっと何かあるんだ。性格、戦闘力、知識、相性。これらを出会ったわずかな時間で理解するなんて不可能だろう。私の場合、店にいたのはわずか五分ほどだった。「月」は本を置いていったと言っていた。二人ともわずかな時間だ。どうして「選んで」オセロニアの世界へ選択して飛ばすことができるんだ。
(そうか)
きっとパーツは私達じゃないんだ。あの物語の登場人物が必要だったんだ。オ○ロ、デスデーモナ、イヤーゴがパーツであり、我々はそれを補助する魂だったんだ。器と操縦士の関係だ。だから、それぞれの属性に対応した魔導書を用意できたんだ。
(あのウソつきめ。とんだタヌキじゃないか)
理屈は分かった。まだ何か引っかかる。ルシファーのことだ。三人の特異点を使って、何をするつもりだったんだ。彼は、まだ何かを隠している。分からない問題を解決するためにオセロニアの世界へ飛ぶことにした。
「『月』、明日の午後、オセロニアの世界へ行ってくるよ」
「今日、土門君がいなかったことと何か関係があるの?」
「まだ、分からない。土門がイヤーゴの悪巧みに利用されるのを止めたいんだ。それを確かめるために行ってくるよ」
「ダメよ。許可できない。私と交わした、あの約束を破るの?」
自分の身体を大事にすると約束した。今は、それどころじゃない。土門が土門でいられなくなるかも知れない。魂の入れ替えができることを私は知っている。心の牢獄に閉じ込めることも可能だ。本当は今すぐにでも、あの世界へ飛ばないといけない。イヤーゴの悪巧みが進行しているに違いないからだ。
(でも・・・)
彼女を巻き込みたく無かった。
「約束は守るよ。危険なことはしない。君を悲しませることはしないよ。だからお願いだ」
「ダメよ。絶対にダメ。あなた一人では、あの世界へ行ってはダメ。だから、私がついていくわ。あなたは絶対に無茶をするに違いないのだから。私があなたを監視する。それしか許可しない。いいわね」
電話の向こうで怒っているのがわかる。火に油を注ぐことは止めた方がよさそうだ。
(取りあえず、それでいいか)
「うん。それでいいよ。土門を助けてやるんだ」
「イヤーゴに取り込まれている土門君を助けることなんて、できるの?」
「分からない。でも、やるしかないんだ」
「そうね。それまで無事でいて欲しいわね」
「うん。それではまた明日。おやすみ」
「えぇ、おやすみなさい」
(土門、迎えにいくまで何とか耐えてくれよ)
次の日、講義を受けて、帰ってきていた。彼女とはオセロニアの世界で合流する予定。彼女は忙しい、イロイロなことをする必要がある。私は先に飛び立つことにした。できることなら、彼女がくるまでに何とかしたい。
(オテロ、今回も頼んだぞ)
魔導書を開く。それは太陽の日射しを浴びてキラキラと輝く。オテロは待っていたかのように踏みつけ、ニャーンと鳴いた。時空の渦がのみ込む。暗闇に一筋の光。私はオセロニアの世界へやって来た。
(待っていろよ、土門。今、助けてやるからな)
私は城塞都市エスポワールを目指した。「月」とはそこで待ち合わせを決めていた。私は待ち合わせの場所はどこでもよかったのだが、彼女がそう言った。はやる気持ちを押さえ、そこで彼女を待つことにした。彼女から言われたことは必ず守ろうと決めている。その彼女が私を罠にかけるなんて・・・。秘密の作戦を企んでいたなんて思っていなかった。
(なんじゃ、こりゃー)
私は呆気にとられていた。エスポワールが見えてきたと思ったら、その下に城壁。それに囲まれた街がにぎわっていた。私がこの世界を離れてから建てられたのだろう。
(これじゃぁ、まるでどこぞの国の首都じゃないか?)
城壁の門下にいる門番が私を止めた。「通行証を見せろ」と槍をかまえる。
「そのような物は持っていない」そう言うと門番は私を「怪しいヤツめ」と逮捕。
(面倒なことになったな)
判断を仰ごうと上司の元に連れて行った。
(困ったもんだ)
牢屋に入れられるならば、暴れるかと考えていた。でも、実行せずに済んだ。知っている者が門番の上司だった。あの元・門番。「どうせここまでこれないだろう」と言った門番。
「よう、オテロじゃないか。久しぶりだな。お前は何をやっているんだ。縄にしばられるのが好きなのか?」
「そう言わずにほどいてくれないか? 通行証なんて持っていないよ」
「そうだろうな。向こうの世界の住人だからな。待っていろ。今、ほどいてやる」
部下に命令。拘束を解かれた。
「いやー、参ったよ。いつからこんな感じになったんだい?」
「街が大きくなってからだ。あまりにも人が増えすぎてな。にぎやかになったのはいいんだが、問題も増えてな。通行証を発行するようになったんだ」
「そうなんだ。驚いたよ。また門番をしているんだね。しかも上司になっているなんて、出世じゃないか」
「まー、お前のおかげみたいなものだ」
私はこの者と話をしている間、部下は不思議そうな顔をしていた。
「隊長、ソイツは誰ですか?」
部下は不審者扱いの私が仲良くしているのをよく思っていなかった。
「お前達も聞いたことがあるだろう。この世界に黒猫の勇者がいたことをな」
「昔話ですか? 覚えています『黒猫のオテロ』ですよね。あんなのは作り話でしょう」
(何のこと?)
「ははは、本当の話だ。そしてお前の目の前にいるのが、本人だ」
「えーっ」
門番は腰をぬかした。態度を改めて、握手を求めてきた。ペンを渡して、背中にサインを求められた。手を差し出すと両手でつかみ、ブンブンと振る。勝手に感動している。なぜだか、目をキラキラと輝かしている。
(どうなっているんだ?)
「オテロが向こうの世界へ帰ってからな。人間の間に、とある伝説の話が広まってな。オテロの神格化が始まったんだ。そして、この街の名前をオテロと呼ぶようになったんだ」
「そ、そうなんだ。何か申し訳ないね。こんな猫なんだけど・・・」
「謙遜をしなくていい。この世界はお前に救われたのだからな。みんな感謝しているさ」
「そうかな。ところでヤーゴと言う灰色の猫のことを知らないかい? 探しているんだ」
「いや、知らないな。スマンな協力できなくって、今後は注意しておく」
「ありがとう。それと私を追いかけて、白猫のデズデモナがこの街に訪ねてくるから、通してほしいんだ」
「あぁ、分かった」
白猫がピンクのマスクをしている絵を描いて渡した。
久しぶりに仲間の顔でも見ようと思った。
「アディ達はエスポワールにいるのかな?」
「あぁ、会ってくるといい」
「うん。そうするよ。仕事を頑張ってね」
私は手を振って別れると、エスポワールへ続く道を歩いた。
(みんなは元気にしているだろうか?)