第6話 黒猫将軍オテロ
文字数 3,525文字
― 意識の世界。
「どうしてだ、オテロ。なぜ、このようなことをするんだ」
「うるさい。そこでじっとしていろよ。いいな」
私の意識は飼い猫のオテロにより、心の牢獄に閉じ込められた。
「オテロ。戻ってこーい」
叫んだが、聞いてもらえなかった。
「チキショー」
叫ぶほど腹立たしかった。もちろん、自分自身にだ。
マスターを救えなかったことが、心の中を闇にした。光の届かない世界。ひざをかかえ、うずくまった。
強制的に飼い猫のオテロが、身体のコントロールを奪う。烈火のごとく、怒り狂う嵐が発生。
「相棒の心を傷つけたのは貴様らか。俺はお前らを絶対に許さん!」
並みいる天使をぶっ飛ばす。切り刻む。怒りにまかせて戦う。さながら、地獄絵図。血で紅く染まった天使の羽がいたるところに落ちる。動かなくなった天使を踏みつける。
「オテロ。脱出するぞ!」
ジェンイーの声。まだ暴れたりないが、今日のところはこれくらいにしておいてやろう。ジェンイーが奪い取った馬車に飛び乗り、その場を去った。途中でポロイ、ウサギちゃん達、アズリエルと合流。
揺れる馬車の中で、骨三郎が気づいた。
「お前、お天道様じゃないだろう?」
「よく分かったな。黙っていたら分からないと思っていたんだがな」
「それで、お天道様はどこへ行ったんだ」
「俺が心の牢獄に閉じ込めてきた。相棒の悲しむ姿は見ていられなかった。それにアイツらを許せなかったんだ。やさしかったマスターをあのようにしたんだからな。仇は俺がとってやると誓ったんだ。だから、心の中で交代した訳さ。後でまた入れ替わる。その前にアズリエルに頼みたいんだ。相棒が目を覚ましたらら、優しくしてやってくれ。心配なんだ。闇にのみ込まれないといいんだがな。もしも、そうなっていたら光の世界に連れ戻してやってくれ。後、この話は相棒に黙っていてくれよ」
「わかった。約束する。あなたは、ご主人様思いのいい猫ね」
「バカヤロー。そんなんじゃねぇ。後は頼んだぞ。じゃあな」
照れをかくすように、俺は心の中に向かった。
「それにしても猫のオテロは案外いい奴だったな。アズ」
「骨三郎よりいい」
「アズー。そんなこと言わないでー」
― 意識の世界。
「待たせたな、相棒。もうこんな牢獄はいらないな」
おりを破壊。辺りを闇がのみ込む。
「なんだ。心の中が夜のように真っ暗じゃないか。いいかげん目をさませ、相棒」
俺は、思い切り顔を殴った。倒れこむ相棒。起きあがらない。
「そんなに強く殴っていないぞ。さぁ、起きあがれ相棒」
「もう、いいんだ。放っておいてくれないか」
少しやつれているように見えた。こうなることは予想していた。俺のご主人様は心が弱い。すぐ自暴自棄になる。
(さて、どうしたものか?)
小さい脳ミソで考えた。
(ダメだ。わからん)
取りあえず目を覚ますために殴った。ひたすら殴った。真剣に殴った。怒りで殴った。こんな自分が嫌で殴った。・・・殴った。
自然と涙がこみあがる。涙なんて、流さないと思っていた。抵抗しない者をなぐり続けるなんて、したくなかった。いつもの相棒に戻ってほしい。やさしい目をしたご主人様。こんな姿をみせないでほしい。
(やめだ。ダメだ)
「どうした。もう終わりか? まだ生きているぞ」
目が虚ろな、ご主人様。殴っている自分自身に腹が立つ。
「あぁ、無抵抗の者に攻撃するなんてバカらしい。ヤメだ」
俺の前にいるその姿はぬけがらのようだ。その目に力はない。情けなく思えた。こんな時こそ、しっかりして欲しい。
「なぁ、相棒。旅は、もう終わりにしよう。向こうの世界に帰ろうぜ。お前のそんな姿は見たくない」
「そうかな? いつもこんな感じだよ。だから、まわりの人は傷ついていく」
「でも、それはお前に関係ないだろう。いつから完璧主義者になったんだ。自分の力にうぬぼれるな。今のお前は、あの天使達と変わらないぞ!」
「そんなことはない。アイツらと一緒にするな!」
「いや、一緒だ。お前のこんな姿をみたらマスターは泣くだろうな」
それよりも、俺が泣きたい。
ボソッと相棒が言う。
「・・・じゃあ、オテロならどうするんだよ」
「俺なら今後のことを考える。起きてしまったことは、もう過去のことだ。マスターのことは残念だったが、仇は俺がとってやった。お前は、まだしないといけないことがあるだろう。仲間を守れるのはお前だけなんだからな。今回、俺が暴れたから天軍が動くハズだ。どうするか考えて行動してくれ。後は頼んだぞ。俺は疲れた。もう寝る」
「ちょっと待てよ。オテロ」
返事をすることは無かった。無視をした。自分で立ち上がってくれることを願った。
オテロは、おせっかいな飼い猫だ。今回で、よく分かった。口は悪いが、根はいい奴。熱い心の持ち主。頼れる相棒。
(そうだ。相棒のいう通りだ)
天軍から仲間を守らないといけない。立ち上がり、意識を取り戻した。闇が晴れていく。私は目覚めた。
馬車をとめて、焚き火をするジェンイー。その横に座る。
「ゴメン。こんなことになってしまって、申し訳ありませんでした」
「あやまる必要はない。お前が生きていたんだからな。今は、それだけでいい」
「ありがとう。・・・ジェンイー達はアディ達のいる街へ戻って、皆を守って欲しいんだ」
「お前はどうするんだ」
「魔界へ行く。そこで仲間をつどるよ。天軍は何とかする。それまで耐えてほしい。天軍のゼルエルが現れたら、『オテロは魔界へ行った』と伝えて欲しい」
「勝算はあるのか?」
「以前、マッドブロブと戦った時にサタンから魔の軍勢に入らないかとスカウトされたことがあるんだ。むげにされないと思うよ」
「分かった。それでいこう。骨三郎よ。聞いていただろう。お前とアズリエルはオテロについていけ。残りの者で、天軍を迎撃する作戦をたてる」
「ジェンイー、皆のことを頼んだよ」
「あぁ、お前達も気をつけてな。俺達は、もう出発するぞ」
馬車の荷台からアズリエルを降ろし、ジェンイーは夜道を出発。
アズリエルが起きるのを待って、魔界を目指して出発した。
次の日、天界では会議が行われていた。もちろん、大罪人オテロの処分についてだ。
「・・・意見のある者はいないですね。では、オテロを見つけ次第、極刑でよろしいですね」
「異議なし」
「それでは天使長ミカエル。人選は、あなたに任せていいですね」
「分かりました」
「それでは閉会しよう」
神々の会議は終了。
「・・・オテロ。どうしてこんなことになったんだ。私はどうしたらいいんだ。私にオテロを処分できる訳がないじゃないか」
自分の部屋で壁をたたくゼルエル。
頬を涙がつたっていた。そこにコンコンコンとドアを叩く音。涙を拭い、冷静さを取り戻そうとする。
「入るぞ」
部屋へズカズカと入るミカエル。ベッドをイスがわりに座る。
「どうなされたのですか?」
「いや、どうということはないのだがな。君の様子がおかしかったから、少し気になっただけだ。何か訳があるのだろう。場所を代えて話をしよう」
ミカエルは、なかば強引に外に連れ出すとゼルエルの手を取り、空へ翔んだ。
ひと気のない場所に降り立った。
「ここでいいだろう。何か私に言うことがあるのではないか?」
「・・・私をオテロ討伐隊から外して欲しいのです。私にはオテロを攻撃することなんて無理です」
「そうか。でも、それは許可できない」
「なぜですか? 人選はミカエル様に一任されているハズです。私が討伐隊にいなくてもいいじゃないですか? どうして私が隊長なんですか?」
「やれやれ、こまった奴だ。その通り、たしかに私が人事権を握っている。だがな、オテロは闘技場のダイヤモンドマスターなんだぞ。中途半端な者を送り込んだなら、返り討ちにあうのが目に見えている。だから君の実力を信じて、託したんだ。・・・仕方がない。私が自ら行って討伐するしかないか・・・。もう一度聞く。ゼルエルよ、討伐隊を率いてオテロを討ち取り、仲間の仇をとってくるのだ」
「できません」
「しつこいぞ。これは命令だ」
「聞けません。天軍をクビにしてください」
「クビにはしない。だから行ってこい」
「ミカエル様。しつこいです。私は行かないと言っているじゃないですか」
しばらく、子供じみた会話が続く。その日は物別れとなった。
「どうしてだ、オテロ。なぜ、このようなことをするんだ」
「うるさい。そこでじっとしていろよ。いいな」
私の意識は飼い猫のオテロにより、心の牢獄に閉じ込められた。
「オテロ。戻ってこーい」
叫んだが、聞いてもらえなかった。
「チキショー」
叫ぶほど腹立たしかった。もちろん、自分自身にだ。
マスターを救えなかったことが、心の中を闇にした。光の届かない世界。ひざをかかえ、うずくまった。
強制的に飼い猫のオテロが、身体のコントロールを奪う。烈火のごとく、怒り狂う嵐が発生。
「相棒の心を傷つけたのは貴様らか。俺はお前らを絶対に許さん!」
並みいる天使をぶっ飛ばす。切り刻む。怒りにまかせて戦う。さながら、地獄絵図。血で紅く染まった天使の羽がいたるところに落ちる。動かなくなった天使を踏みつける。
「オテロ。脱出するぞ!」
ジェンイーの声。まだ暴れたりないが、今日のところはこれくらいにしておいてやろう。ジェンイーが奪い取った馬車に飛び乗り、その場を去った。途中でポロイ、ウサギちゃん達、アズリエルと合流。
揺れる馬車の中で、骨三郎が気づいた。
「お前、お天道様じゃないだろう?」
「よく分かったな。黙っていたら分からないと思っていたんだがな」
「それで、お天道様はどこへ行ったんだ」
「俺が心の牢獄に閉じ込めてきた。相棒の悲しむ姿は見ていられなかった。それにアイツらを許せなかったんだ。やさしかったマスターをあのようにしたんだからな。仇は俺がとってやると誓ったんだ。だから、心の中で交代した訳さ。後でまた入れ替わる。その前にアズリエルに頼みたいんだ。相棒が目を覚ましたらら、優しくしてやってくれ。心配なんだ。闇にのみ込まれないといいんだがな。もしも、そうなっていたら光の世界に連れ戻してやってくれ。後、この話は相棒に黙っていてくれよ」
「わかった。約束する。あなたは、ご主人様思いのいい猫ね」
「バカヤロー。そんなんじゃねぇ。後は頼んだぞ。じゃあな」
照れをかくすように、俺は心の中に向かった。
「それにしても猫のオテロは案外いい奴だったな。アズ」
「骨三郎よりいい」
「アズー。そんなこと言わないでー」
― 意識の世界。
「待たせたな、相棒。もうこんな牢獄はいらないな」
おりを破壊。辺りを闇がのみ込む。
「なんだ。心の中が夜のように真っ暗じゃないか。いいかげん目をさませ、相棒」
俺は、思い切り顔を殴った。倒れこむ相棒。起きあがらない。
「そんなに強く殴っていないぞ。さぁ、起きあがれ相棒」
「もう、いいんだ。放っておいてくれないか」
少しやつれているように見えた。こうなることは予想していた。俺のご主人様は心が弱い。すぐ自暴自棄になる。
(さて、どうしたものか?)
小さい脳ミソで考えた。
(ダメだ。わからん)
取りあえず目を覚ますために殴った。ひたすら殴った。真剣に殴った。怒りで殴った。こんな自分が嫌で殴った。・・・殴った。
自然と涙がこみあがる。涙なんて、流さないと思っていた。抵抗しない者をなぐり続けるなんて、したくなかった。いつもの相棒に戻ってほしい。やさしい目をしたご主人様。こんな姿をみせないでほしい。
(やめだ。ダメだ)
「どうした。もう終わりか? まだ生きているぞ」
目が虚ろな、ご主人様。殴っている自分自身に腹が立つ。
「あぁ、無抵抗の者に攻撃するなんてバカらしい。ヤメだ」
俺の前にいるその姿はぬけがらのようだ。その目に力はない。情けなく思えた。こんな時こそ、しっかりして欲しい。
「なぁ、相棒。旅は、もう終わりにしよう。向こうの世界に帰ろうぜ。お前のそんな姿は見たくない」
「そうかな? いつもこんな感じだよ。だから、まわりの人は傷ついていく」
「でも、それはお前に関係ないだろう。いつから完璧主義者になったんだ。自分の力にうぬぼれるな。今のお前は、あの天使達と変わらないぞ!」
「そんなことはない。アイツらと一緒にするな!」
「いや、一緒だ。お前のこんな姿をみたらマスターは泣くだろうな」
それよりも、俺が泣きたい。
ボソッと相棒が言う。
「・・・じゃあ、オテロならどうするんだよ」
「俺なら今後のことを考える。起きてしまったことは、もう過去のことだ。マスターのことは残念だったが、仇は俺がとってやった。お前は、まだしないといけないことがあるだろう。仲間を守れるのはお前だけなんだからな。今回、俺が暴れたから天軍が動くハズだ。どうするか考えて行動してくれ。後は頼んだぞ。俺は疲れた。もう寝る」
「ちょっと待てよ。オテロ」
返事をすることは無かった。無視をした。自分で立ち上がってくれることを願った。
オテロは、おせっかいな飼い猫だ。今回で、よく分かった。口は悪いが、根はいい奴。熱い心の持ち主。頼れる相棒。
(そうだ。相棒のいう通りだ)
天軍から仲間を守らないといけない。立ち上がり、意識を取り戻した。闇が晴れていく。私は目覚めた。
馬車をとめて、焚き火をするジェンイー。その横に座る。
「ゴメン。こんなことになってしまって、申し訳ありませんでした」
「あやまる必要はない。お前が生きていたんだからな。今は、それだけでいい」
「ありがとう。・・・ジェンイー達はアディ達のいる街へ戻って、皆を守って欲しいんだ」
「お前はどうするんだ」
「魔界へ行く。そこで仲間をつどるよ。天軍は何とかする。それまで耐えてほしい。天軍のゼルエルが現れたら、『オテロは魔界へ行った』と伝えて欲しい」
「勝算はあるのか?」
「以前、マッドブロブと戦った時にサタンから魔の軍勢に入らないかとスカウトされたことがあるんだ。むげにされないと思うよ」
「分かった。それでいこう。骨三郎よ。聞いていただろう。お前とアズリエルはオテロについていけ。残りの者で、天軍を迎撃する作戦をたてる」
「ジェンイー、皆のことを頼んだよ」
「あぁ、お前達も気をつけてな。俺達は、もう出発するぞ」
馬車の荷台からアズリエルを降ろし、ジェンイーは夜道を出発。
アズリエルが起きるのを待って、魔界を目指して出発した。
次の日、天界では会議が行われていた。もちろん、大罪人オテロの処分についてだ。
「・・・意見のある者はいないですね。では、オテロを見つけ次第、極刑でよろしいですね」
「異議なし」
「それでは天使長ミカエル。人選は、あなたに任せていいですね」
「分かりました」
「それでは閉会しよう」
神々の会議は終了。
「・・・オテロ。どうしてこんなことになったんだ。私はどうしたらいいんだ。私にオテロを処分できる訳がないじゃないか」
自分の部屋で壁をたたくゼルエル。
頬を涙がつたっていた。そこにコンコンコンとドアを叩く音。涙を拭い、冷静さを取り戻そうとする。
「入るぞ」
部屋へズカズカと入るミカエル。ベッドをイスがわりに座る。
「どうなされたのですか?」
「いや、どうということはないのだがな。君の様子がおかしかったから、少し気になっただけだ。何か訳があるのだろう。場所を代えて話をしよう」
ミカエルは、なかば強引に外に連れ出すとゼルエルの手を取り、空へ翔んだ。
ひと気のない場所に降り立った。
「ここでいいだろう。何か私に言うことがあるのではないか?」
「・・・私をオテロ討伐隊から外して欲しいのです。私にはオテロを攻撃することなんて無理です」
「そうか。でも、それは許可できない」
「なぜですか? 人選はミカエル様に一任されているハズです。私が討伐隊にいなくてもいいじゃないですか? どうして私が隊長なんですか?」
「やれやれ、こまった奴だ。その通り、たしかに私が人事権を握っている。だがな、オテロは闘技場のダイヤモンドマスターなんだぞ。中途半端な者を送り込んだなら、返り討ちにあうのが目に見えている。だから君の実力を信じて、託したんだ。・・・仕方がない。私が自ら行って討伐するしかないか・・・。もう一度聞く。ゼルエルよ、討伐隊を率いてオテロを討ち取り、仲間の仇をとってくるのだ」
「できません」
「しつこいぞ。これは命令だ」
「聞けません。天軍をクビにしてください」
「クビにはしない。だから行ってこい」
「ミカエル様。しつこいです。私は行かないと言っているじゃないですか」
しばらく、子供じみた会話が続く。その日は物別れとなった。