第27話 あぁ、思い出のオセロニア
文字数 2,913文字
― 時は流れ、齢八十歳。
布団の中。もう自分の力では起きあがることはない。あの世へ旅立つ覚悟はできている。
(死神よ、いつきてもいいぞ)
心の中でしゃべることしか、もはやできない。
(もう思い残すことはないな)
子供の頃だったか、父親とキャッチボールをしてほめられたよな。中学時代は両親が離婚し、母親と暮らす選択をした。高校時代は何もかも新鮮だったよな、何をしても楽しかった。大学時代は就職活動で失敗して引きこもった時もあったな。今では懐かしい思い出だ。オセロニア世界を冒険して、イロイロな出会いをした。妻と出会ったのもこの頃だった。氷河期の就職活動を無事に乗り越えて、社会人になった。子会社から本社に栄転した時にプロポーズ。結婚。順風満帆な家庭。子宝にも恵まれ、孫の姿までみることができた。私は幸せ者だ。それでも不幸はあった。義父、母親を亡くし、オテロ、デズデモナ、カッシオも看取った。その後、定年退職をキッカケにイロイロな世界中の土地を見て、そこにいた人々とふれあったが、あの世界と比較することしかできなかった。あの世界へまた旅立ちたい想いが強くなったが、それはかなわなかった。相棒がいなかった。
(オテロは今、どうしているかな)
猫と初めて会話したよな。貴重な経験だ。その他の猫とはまったく会話ができなかったけれども、オテロといっぱい会話をしたから、満足。満足。
(そうだ)
思い出した。最期の声を何としても届けたい。妻へ感謝の気持ち。でも、もう声を発する力がない。出会ってから、たくさんの思い出をありがとう。よく振り回されたが、楽しかった。愛してる。最期の願いが閻魔大王様に届いた。妻の手を握りしめ、震える声で言うことができた。
「あ・り・が・・・と・・・う」
それが最期の言葉だった。永眠。
死神のお迎えにより、身体とタマシイを切断。タマシイのかたまりとなった。その者につれられて空へ浮かび上がった。
「さぁ、あなたはこれから閻魔大王様によって裁かれます。私はただの案内者。閻魔大王様の前まで連れていくのが仕事です」
事務員のような姿。まるでサラリーマンだ。
「やっぱり地獄行きだろうね」
「そうでしょうか? 何か地獄へ落とされることを思い出したのですね」
「信じられないかもしれないけど、別の世界でたくさんの者を倒してきたんだ。それも罪になるだろう。だったら地獄行き確定だよね」
「そうですか・・・あなたのリストには確かにそう書かれていますが、貢献度の方が高いと追記されていますよ。転生の道も残されていると思います。後は閻魔大王様の気持ち一つでしょうかね」
「そうなんだね。よかった。あの世界で少しは貢献できたのか・・・」
オセロニアの世界でのことを思い出していると、閻魔大王様の御殿が小さく見えはじめた。
その時、なつかしい声を聞いた。
「よう、案内者。ソイツのタマシイは俺達がいただくぜ」
「オテロ。迎えにきた」
死神の鎌を案内者の首にあてるアズリエル。その隙に骨三郎がタマシイを連れだした。
「アズリエルさん。そのようなことをされては困ります」
死神の鎌におびえながら、仕事をまっとうしようとする案内者。再びタマシイを捕まえた。アズリエルが鎌を振ってタマシイを解放する。骨三郎がタマシイを抱えながら、フワフワと飛び立つ。
「待て、スカルデロン=デ=モンテ=ショスタコビッチ三世。こんなことをして、許されると思っているのか。戻ってこい。今ならこのことはなかったことにできるのだぞ。死霊族の名門に泥をぬるつもりか」
骨三郎はピタリと止まり、案内者と向き合った。
「・・・一族のことは言うな。俺だってこのようなことはしたくないんだ。これ以外に方法がないからやっているんだろう。コイツは俺の仲間だから閻魔大王様に裁かせないぞ。俺がもらっていく」
「そのようなワガママが通用する訳がないでしょう。いい加減にしなさい」
怒りをあらわにする案内者。骨三郎へ雷を落とした。
「ギャア」
感電する骨三郎。だが必死にこらえていた。痛みに耐える骨三郎。その姿に涙した。強い決意を感じた。
(ありがとう。骨三郎)
アズリエルが案内者からリストを取り上げ、破り捨てた。
「これで、よし」
アズリエルは私のタマシイ、骨三郎を抱えながら、光速で飛び立ってその場から消えた。
「仕方がない。見なかったことにするか。閻魔大王様から、こうなることをそれとなく、言われていたからな。頑張れよ、冒険者達。オセロニア世界の平和を君達に託したよ。・・・それにしても損な役目だ。閻魔大王様に臨時ボーナスを請求しないと割に合わないよな」
アズリエル達が見えなくなると案内者は飛び立った。
光速で飛ぶアズリエルが、たどり着いた世界はオセロニアの世界。閃光と共に白の大地が目の前に現れた。
「知らない間にアズリエルも超進化したんだね。おめでとう」
「あなたをまたこの世界へ連れてきたかった。その強い想いが私を超進化させた。今の私は『生と死の天使アズリエル』」
「お前が元の世界へ帰ってから、アズはずっと泣いていたんだからな。泣き止ますの苦労したんだぞ。ちょっとは俺の苦労をわかれよ。そして感謝しろよ。俺がここまで動いてやったのだからな」
「ごめんよ、骨三郎。でもこんなことをして大丈夫? 後で閻魔大王様にアズリエルは怒られないよね」
「大丈夫。閻魔大王様とは話がついている。問題ない」
「まー、そういうことだな」
タマシイとなった私はこのままでは幽霊となるしかない。
「身体があったらよかったけど、贅沢を言ってられないよね・・・」
このままの姿なら骨三郎と変わらない。フワフワと浮いているだけだ。まー、それでもいいか。骨三郎とコンビを組んで漫才でもしようかな?
「それも問題ない。閻魔大王様から身体を預かっている」
アズリエルの手が光る。その光りの中から黒猫の身体が現れた。なつかしい。冒険していた頃を思い出した。
黒猫の身体にタマシイが入り込む。輝く身体。私も超進化をした。人をベースとした姿。獣人化というべきか? それとはちょっと違うかもしれない。背中に黒と白の羽。尻尾は竜のように長い。その先は尖っていて槍のようにみえる。
「お前、その姿はなんだ? 神、魔、竜のすべてを受け継いでいるようだな。そんなのありか?」
「どうやらまだこの世界でやることがありそうだね。身体から力が湧いてくるよ」
「オテロ。ヤッパリ、最高。大好き」
頬を紅く染めるアズリエルに抱きしめられた。ソーッと背中に手をまわした。照れて顔をかくす骨三郎。しばらくそのままだった。
「よかったな、アズ。想いは届いたのだな」
「うん。骨三郎。今だけ、誉める」
「いつも、感謝しろよ。アズ」
(ははは、いつものやつだ)
「さぁ、冒険の始まりだ。二人とも行くよ。オテロとしては、終わった冒険の続き。・・・それと名前は、今から『サン』だ。冒険者・サンとして、これからは生きていくからね。そう呼んで欲しい」
「うん。サン」
「分かったぜ。サン」
勢いよく飛び立った。新たな冒険が待っている。
―完―
布団の中。もう自分の力では起きあがることはない。あの世へ旅立つ覚悟はできている。
(死神よ、いつきてもいいぞ)
心の中でしゃべることしか、もはやできない。
(もう思い残すことはないな)
子供の頃だったか、父親とキャッチボールをしてほめられたよな。中学時代は両親が離婚し、母親と暮らす選択をした。高校時代は何もかも新鮮だったよな、何をしても楽しかった。大学時代は就職活動で失敗して引きこもった時もあったな。今では懐かしい思い出だ。オセロニア世界を冒険して、イロイロな出会いをした。妻と出会ったのもこの頃だった。氷河期の就職活動を無事に乗り越えて、社会人になった。子会社から本社に栄転した時にプロポーズ。結婚。順風満帆な家庭。子宝にも恵まれ、孫の姿までみることができた。私は幸せ者だ。それでも不幸はあった。義父、母親を亡くし、オテロ、デズデモナ、カッシオも看取った。その後、定年退職をキッカケにイロイロな世界中の土地を見て、そこにいた人々とふれあったが、あの世界と比較することしかできなかった。あの世界へまた旅立ちたい想いが強くなったが、それはかなわなかった。相棒がいなかった。
(オテロは今、どうしているかな)
猫と初めて会話したよな。貴重な経験だ。その他の猫とはまったく会話ができなかったけれども、オテロといっぱい会話をしたから、満足。満足。
(そうだ)
思い出した。最期の声を何としても届けたい。妻へ感謝の気持ち。でも、もう声を発する力がない。出会ってから、たくさんの思い出をありがとう。よく振り回されたが、楽しかった。愛してる。最期の願いが閻魔大王様に届いた。妻の手を握りしめ、震える声で言うことができた。
「あ・り・が・・・と・・・う」
それが最期の言葉だった。永眠。
死神のお迎えにより、身体とタマシイを切断。タマシイのかたまりとなった。その者につれられて空へ浮かび上がった。
「さぁ、あなたはこれから閻魔大王様によって裁かれます。私はただの案内者。閻魔大王様の前まで連れていくのが仕事です」
事務員のような姿。まるでサラリーマンだ。
「やっぱり地獄行きだろうね」
「そうでしょうか? 何か地獄へ落とされることを思い出したのですね」
「信じられないかもしれないけど、別の世界でたくさんの者を倒してきたんだ。それも罪になるだろう。だったら地獄行き確定だよね」
「そうですか・・・あなたのリストには確かにそう書かれていますが、貢献度の方が高いと追記されていますよ。転生の道も残されていると思います。後は閻魔大王様の気持ち一つでしょうかね」
「そうなんだね。よかった。あの世界で少しは貢献できたのか・・・」
オセロニアの世界でのことを思い出していると、閻魔大王様の御殿が小さく見えはじめた。
その時、なつかしい声を聞いた。
「よう、案内者。ソイツのタマシイは俺達がいただくぜ」
「オテロ。迎えにきた」
死神の鎌を案内者の首にあてるアズリエル。その隙に骨三郎がタマシイを連れだした。
「アズリエルさん。そのようなことをされては困ります」
死神の鎌におびえながら、仕事をまっとうしようとする案内者。再びタマシイを捕まえた。アズリエルが鎌を振ってタマシイを解放する。骨三郎がタマシイを抱えながら、フワフワと飛び立つ。
「待て、スカルデロン=デ=モンテ=ショスタコビッチ三世。こんなことをして、許されると思っているのか。戻ってこい。今ならこのことはなかったことにできるのだぞ。死霊族の名門に泥をぬるつもりか」
骨三郎はピタリと止まり、案内者と向き合った。
「・・・一族のことは言うな。俺だってこのようなことはしたくないんだ。これ以外に方法がないからやっているんだろう。コイツは俺の仲間だから閻魔大王様に裁かせないぞ。俺がもらっていく」
「そのようなワガママが通用する訳がないでしょう。いい加減にしなさい」
怒りをあらわにする案内者。骨三郎へ雷を落とした。
「ギャア」
感電する骨三郎。だが必死にこらえていた。痛みに耐える骨三郎。その姿に涙した。強い決意を感じた。
(ありがとう。骨三郎)
アズリエルが案内者からリストを取り上げ、破り捨てた。
「これで、よし」
アズリエルは私のタマシイ、骨三郎を抱えながら、光速で飛び立ってその場から消えた。
「仕方がない。見なかったことにするか。閻魔大王様から、こうなることをそれとなく、言われていたからな。頑張れよ、冒険者達。オセロニア世界の平和を君達に託したよ。・・・それにしても損な役目だ。閻魔大王様に臨時ボーナスを請求しないと割に合わないよな」
アズリエル達が見えなくなると案内者は飛び立った。
光速で飛ぶアズリエルが、たどり着いた世界はオセロニアの世界。閃光と共に白の大地が目の前に現れた。
「知らない間にアズリエルも超進化したんだね。おめでとう」
「あなたをまたこの世界へ連れてきたかった。その強い想いが私を超進化させた。今の私は『生と死の天使アズリエル』」
「お前が元の世界へ帰ってから、アズはずっと泣いていたんだからな。泣き止ますの苦労したんだぞ。ちょっとは俺の苦労をわかれよ。そして感謝しろよ。俺がここまで動いてやったのだからな」
「ごめんよ、骨三郎。でもこんなことをして大丈夫? 後で閻魔大王様にアズリエルは怒られないよね」
「大丈夫。閻魔大王様とは話がついている。問題ない」
「まー、そういうことだな」
タマシイとなった私はこのままでは幽霊となるしかない。
「身体があったらよかったけど、贅沢を言ってられないよね・・・」
このままの姿なら骨三郎と変わらない。フワフワと浮いているだけだ。まー、それでもいいか。骨三郎とコンビを組んで漫才でもしようかな?
「それも問題ない。閻魔大王様から身体を預かっている」
アズリエルの手が光る。その光りの中から黒猫の身体が現れた。なつかしい。冒険していた頃を思い出した。
黒猫の身体にタマシイが入り込む。輝く身体。私も超進化をした。人をベースとした姿。獣人化というべきか? それとはちょっと違うかもしれない。背中に黒と白の羽。尻尾は竜のように長い。その先は尖っていて槍のようにみえる。
「お前、その姿はなんだ? 神、魔、竜のすべてを受け継いでいるようだな。そんなのありか?」
「どうやらまだこの世界でやることがありそうだね。身体から力が湧いてくるよ」
「オテロ。ヤッパリ、最高。大好き」
頬を紅く染めるアズリエルに抱きしめられた。ソーッと背中に手をまわした。照れて顔をかくす骨三郎。しばらくそのままだった。
「よかったな、アズ。想いは届いたのだな」
「うん。骨三郎。今だけ、誉める」
「いつも、感謝しろよ。アズ」
(ははは、いつものやつだ)
「さぁ、冒険の始まりだ。二人とも行くよ。オテロとしては、終わった冒険の続き。・・・それと名前は、今から『サン』だ。冒険者・サンとして、これからは生きていくからね。そう呼んで欲しい」
「うん。サン」
「分かったぜ。サン」
勢いよく飛び立った。新たな冒険が待っている。
―完―