第14話 最強、双子の兄妹

文字数 3,217文字

 ゼウスの力は圧倒的。この世界は終焉を迎えるかと思えた。
 (ダメだ)
 ゼウスの渾身の一撃。
 「オテロ、待たせたな」
 空をおおう盾。雷霆から、この世界を守っている。
 「キサマはルシファー。何をしにきた。我のジャマ立てをするな」
 「あなたの好き勝手にはさせん。この世界は必ず守ってみせる!」
 「おのれ、どいつもこいつも・・・。すべて消し去ってやる。やはりルシファー、キサマを生かしておいたのは間違いだったな。あの時、消しておけばよかったのだ。神託により、いずれお前達、兄妹は我の敵となるのが分かっていた。だから、キサマを罠にかけて、兄妹ゲンカで対消滅するようにミカエルを育て上げたのだが、実力が違いすぎた。ミカエルのような劣等生ではムリだったようだな。最初から我が殺ればよかったのだ」
 ゼウスはアダマスの鎌をかまえる。

 「片手で我の攻撃を受けきれるかな」
 「させるかー。カムイ無双流・砕拳」
 「おっと、そんな猫パンチをかわすことなんぞ訳がない。神をバカにしているのか」
 「それならこれはどうだ。くらえ、カムイ無双流・砕拳」
 師匠の技がゼウスの顔面をとらえる。ゆがむ顔。
 「おのれ、おのれ。一度ならず二度も・・・。人間の分際で神にさからうなんぞ、ゆるさんぞー」
 怒りを露にして鎌を振るゼウス。師匠は体術でヒラリとかわす。ゼウスを追いかけ、背後から技を放つ。
 「カムイ無双流・震槍」
 かわされて当たることはなかったが、隙はつくれた。
 アディの銃がゼウスをとらえた。全弾命中したが、ゼウスは倒れない。
 「おのれ、人間め。ゆるさん。誰のおかげで今まで平穏に暮らせていたと思うのだ。ええい、うっとおしい。下等生物の分際で我にむかってくるな」
 ハエをはらうかのように鎌を横に振り、アディを攻撃。
 「なんとか間に合ったな」
 レグスが剣で受けとめた。その背中で弾を装填し、レグスを盾がわりにゼウスを撃った。
 アディに気をとられている隙に、二人でカムイ無双流・天弦を放った。倒れるゼウス。
 (やったー)
 まだ、ゼウスは動けるというのに喜んでしまった。隙だらけだった。

 「オテロ、危ない」
 ハッと振り向いた時、足を持たれて宙ぶらりんとなった。そのまま地面にたたきつけられた。ドーンと音。土煙があがる。私は気を失った。
 「ハッハッハ、猫の分際で手こずらしおって、バカめ」
 ピクリとも動かなかった。
 「オテロー」
 私にはアディの叫び声は届いていなかった。しかし、その声に相棒がめざめた。猫の身体がゆっくりと動きだす。
 「しぶといヤツだ。まだ生きておったか?」
 ブルブルと顔を振る。
 「・・・いってーな、このやろう。よくもやりやがったな。許さん。俺は相棒ほど甘くはないぞ。覚悟しやがれ」
 猛烈なスピードでゼウスに飛び込む。手甲の爪で攻撃。一撃離脱。ゼウスを翻弄する。
 「ちょこまかとしおって、ふざけるな」
 鎌を振る。振っても当たらないが、振りまくる。ゼウスはスタミナ切れを狙っていた。やがて黒猫の動きが止まる。
 「やはり、猫だな。思った通り、スタミナが無い。これでもくらえ」
 ゼウスの鎌が襲いかかる。ガキーンと音。アムルガルが鎌を自分の武器で受け止めていた。
 「間一髪だったな、そこで休んでろ。オイラがコイツを倒してやる」
 アムルガルは矢継ぎ早に武器を振る。
 「なんだ、キサマ。ジャマをするな。小さい竜人め! このチビ」
 「小さいって言ったかー」
 本人が気にしていることをゼウスが言ったのだ。アムルガルはキレた。猛攻撃をくりだす。さすがのゼウスも顔に余裕がなくなってきた。雷霆はルシファーに封じられている。神殿の異変に天兵がかけつけてきた。
 「ゼウス様、我々も加勢します」
 その場は乱戦。全員、何者かと戦っていた。

 「弟よ。苦戦しているようだな」
 「ポセイドン兄者、いいところにきてくれた。そのトライデントでヤツらを始末してくれ」
 「だから、人間を甘く見るなといっただろう。お前は普段から油断をしすぎだ。反省をするんだな」
 ポセイドンはトライデントという三又の槍をついて攻撃してきた。
 「いまさら、そんな槍なんぞくらうわけがないだろう」
 横にかわしたつもりだったが、雷を帯びた槍の電撃をかわすことができなかった。
 「ギャー」
 猫の叫び声。相棒は意識を失なった。私はそのショックで目を覚ました。
 (いったい、どうなっているんだ?)

 「これで終わりだ。猫よ」
 その声のするほうをふりむいた。槍が迫っていた。力一杯、横に跳んで転がった。
 (危なかった)
 気を失っていたせいか、私は事態の把握ができなかった。
 それでも攻撃してくる者がいるなら、戦わなければならない。攻撃をヒラリとかわす。
 「ええい、うっとおしい。やはり、ルシファーから始末してやる」
 髭もじゃの三又の槍を持つ者がルシファーを攻撃対象にした。ルシファーは天空に盾を張り、雷霆を防いでいる。槍をかわすことはできても、反撃はできない。盾がやぶれれば、白の大地も黒の大地も雷霆により、溶解する。
 「くらえ、ルシファー」
 槍をつく、髭もじゃの者。

 「させるかー」
 その一撃を剣で防いだ天使。
 「お前は、ミカエル。天使長のキサマが我のジャマをするな。そこをどけー!」
 「以前の私ならばポセイドン、あなたに言われれば退いただろう。だが、今の私は天使長ミカエルではない。ルシファーの妹、ミカエルだ。兄さんの敵は私の敵とみなす」
 剣を振るミカエル。ポセイドンは槍で防ぐと、後ろに飛びのいた。
 「おのれ、ミカエル。天使長の仕事を放棄するのか?」
 「・・・いや、今から仕事は全うする。この世界の悪を討つことだ」
 ミカエルの身体から黄金色の光があふれだす。それはやがて力強く輝きだした。閃光。その場にいた者のすべてが戦いを一瞬、やめた。ミカエルの姿が神々しく黄金色に輝いている。黄金色の翼はルシファーと同じ二十枚。
 「これは、いったい?」
 ミカエル自身も何が起こったのかわからない様子。
 (超進化)
 ルシファーと私はその姿をみてその様に理解した。

 「それが超進化だ。ミカエル、さすがだな我が妹よ」
 ルシファーがミカエルに優しく微笑んだ。
 「これが超進化の力・・・」
 自身の手を見て、力がわき上がるのを確認していた。拳を握りしめ、覚悟を決めた。
 「兄さんはそのまま、雷霆を防いでくれ。敵は私が全て倒す」
 「ふざけるな。お前達、兄妹だけで何ができる」
 ポセイドンは怒りを露にしている。
 「できるさ」
 私はその兄妹の横に立った。

 「おのれ、猫。キサマがやはり元凶なのだな。キサマさえ現れなければよかったのだ。消えろ」
 ポセイドンが槍でついてくる。ミカエルはポセイドンの背後に瞬間移動した。ポセイドンはそれに全く気づいていなかった。剣をひと振り。その場にポセイドンの駒が落ちていた。
 「おのれ、ミカエル。よくも兄者を・・・」
 激怒したゼウスがミカエルに迫った。瞬間移動。背後をとるミカエル。ひと振りでゼウスを真っ二つ。
 (これで全てが終わった)

 ・・・と思ったが、ゼウスは駒となる前に言った。
 「これで、この世界はおしまいだ。テュポーンの封印を解いてしまったのだからな。ハッハッハ」
 それだけ言い残すと駒になった。地面がゴゴゴと激しく揺れる。
 「しまった。ゼウスめ、こんな仕掛けを用意していたとは・・・。ヤツの封印が完全に解けるまでに再封印するんだ。みんな余計な戦いを止めろ。今ならまだ間に合うハズだ。オテロ、行くぞ」
 地下へと続く階段を降りようとした時、すでに手遅れなのが分かった。得体の知れない怪物の雰囲気を感じ取っていた。
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登場人物紹介

白猫のデズデモナ。十六夜家の飼い猫。

特異点であるデスデーモナの魂が宿る。

月の部屋で普段は過ごしている。

黒猫のオテロ。野良猫達から「将軍」と恐れられている。現在、富士見家の飼い猫。特異点であるオセロの魂を宿す。

灰色のヤーゴ。土門に拾われる。

特異点であるイヤーゴの魂を宿す。

デスデーモナとオセロを恨んでいる。

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