第9話 エスポワールの戦い
文字数 3,222文字
閃光が眩しい。目を閉じた。やがて、それは治まった。次にルシファーをみた時、驚いた。
見たこともない姿だった。
白い角と黒い角。白い羽十枚、黒い羽十枚、計二十枚の羽。白と黒の光りをまとった身体。
「その姿は?」
「分からない。君のおかげで長年の悩みが晴れたことが、影響したのは確かだ。偶然にも天界の神々と戦う覚悟ができたからな。まさかこのような超進化があるとは余も知らなかった」
「その覚悟が新たな力を目覚めさせたんだね」
「あぁ、そうだな。かつての天使長の力と魔王の力、その両方を超える感覚。今だかつてない力を実感しているよ。驚きだ」
「この世界を正しく導くための力だよね」
「そうだな。君としか、わからないこの願いのために力を使おう」
ルシファーと共に神々から、白の大地を開放する。白も黒もない世界。争いのない世界。夢物語のような話を二人で真面目に語り合った。これが達成されるまでの秘密。それでいい。もしもこの革命が失敗したら、大悪人として処罰を受けるのは少ない方がいい。もちろん、すべて私が責任をとる。この気持ちはルシファーにも伝えていない。私だけの秘密。
ルシファーは上機嫌で自分の城へ戻って行った。
「軍勢を集めてくる」と言っていた。
アズリエル達と一緒にこの塔の客間で一夜をあかすこととなった。
緊張から解き放たれたのだろう。アズリエルは近くのソファーで倒れるように横になり、そのまま寝てしまった。
窓際にあるソファーで横になった。その窓から空をながめることができた。
嵐の前の静けさ。満月だけがこうこうと輝いていた。
(明日は生き残れるのだろうか?)
不安感。そんな顔をしていたのかもしれない。
「よっ、相棒。まだ迷っているのか?」
オテロの幻影が話しかけてきた。しばらく会話した。
「君には隠し事はできないようだね」
「そうだな」
「明日は敵も味方も関係なく、たくさんの血が流れるだろう。はたしてそれが正しいことなのかどうなのか分からないんだ。オテロはナワバリでの戦いがあるだろう。どうした気持ちで挑んでいるんだ?」
「そんな難しいことは分からん。ただ分かっているのは、俺は負けないと言うことだけだ。ナワバリに入る奴は片っ端からぶっ飛ばすだけだからな」
「オテロに聞いた私がバカだったよ。やはり猫と人間では感じ方が、違うんだよね」
「それはどうかな? 俺が特別なのかもしれないぞ。俺は産まれてから今日までケンカで負けたことはないからな。大ケガをしても負けたとは思っていない。俺が『まいった』と言わない限り、負けではない。だから明日も心配ない。なんなら俺が代わりに戦ってやるぞ」
「大丈夫。まずは私が戦う。『まいった』とは絶対に言わない。でも気を失ったら、後は頼むよ」
「あぁ、分かった」
「オテロの強さが分かったよ。明日は見習わないとな」
「そうか。ならもう寝ろ。寝不足はダメだぞ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
幻影は消えた。
次の日はあっという間にやってきた。最終戦争の朝。あちらこちらから魔王の軍勢が集結。
(普段はどこにいているのだ?)
「どこかに隠れているのだな」としか言いようがないほど、ごったがえしていた。
やがて、魔王達が塔の中へ入ってきた。それぞれの席に座る。アズリエルと一緒に壁際でルシファーを待った。
「待たせたな。それでは作戦会議をしよう」
ルシファーが現れた。ざわめく魔王達。
「ルシファー様。その姿はいったいどうなされたのですか?」
「気にするな、ベルゼブブ。余は超進化をしたのだ」
「超進化とは何でしょうか?」
「そうだな。進化と闘化は知っているだろう。その先にある進化のことだ。余の場合は長年の想いを達成する誓いがそうさせた。余も昨日まで知らなかった力だ。オテロのおかげだな」
「では、キッカケがあれば私も超進化の可能性はあるのでしょうか?」
「そうなるな。・・・それでは作戦を伝える。隊を三つに分けるぞ。右翼はサタン、お前に任す。城塞都市エスポワールへ向かい、オテロの友を救うのだ。頼んだぞ。本隊はベルゼブブ、お前が率いよ。この役目は重要だぞ。多少、派手に攻撃しても構わん。サタンと連携して天軍の足どめをするのだ。その他の魔王はベルゼブブを助けてやってくれ。頼んだぞ。余はオテロ達と右翼をつとめる。本隊が天軍をひきつけている間に天界へ直接、攻めいる。何か意見のあるものはいるか?」
「ルシファー様、私にできるでしょうか?」
ベルゼブブは席から立ち上がった。ルシファーは私を見た。ベルゼブブは見かけより、慎重な女性のようだ。本隊を率いて、失敗は許されない。不安があるのかもしれない。
ある駒を投げた。駒から現れた女性はベルゼブブを後ろへ投げ飛ばし、胸ぐらを引っ張りあげた。
「情けない奴だな。なんなら私が代わってやろうか? いつからそんなにしおらしくなったんだ。ふざけるな」
「な、お前はアドラ。いつからいたんだ」
「オテロの側で駒となって最初から見ていた」
「そうか。まー、いい。お前も手伝え」
「手伝ってくださいの間違いじゃないのか? 大軍を率いる自信があんたにはないのだろう」
「それなら、お前はできるのか?」
「できる、できないじゃないんだ。やるしかないんだよ。覚悟を決めろ。オセロニア世界の未来がこの一戦にかかっているんだぞ。弱音をはくな。オテロ達が無事、天界へたどり着くために私達がやるんだよ」
アドラメレクのおかげでベルゼブブの目の色が変わる。
「ふふふ、そうだな。お前に教わる日がこようとは思わなかった。だが、おかげで目がさめた。今日は最良の戦いを見せてやろう。私に遅れるなよ。アドラ」
「ふん、バカか。アンタこそ私の足を引っ張らないでよ」
だまって聞いていたルシファーが号令した。
「それぞれの武運を祈る。いくぞ、新しきオセロニア世界を我々の手で作るのだ」
「オー!」
魔界を飛び出し、進軍を開始した。
― 一方、天界。
強情なゼルエルを説得できないミカエル。
次の一手をうつ。
「本当に強情な奴だな。もういい。暇をやる。好きにしろ!」
怒ってミカエルは飛び去った。しかし、それは罠。
ゼルエルは見抜けなかった。安心して南の空へ飛び立った。
「ファヌエル、いるか?」
「何でしょう、ミカエル様」
「ゼルエルの飛び立った方角を確認したか」
「はい。南へ飛び立ちました」
「地図は持っているか?」
ファヌエルは地図を拡げ、南の方向へ赤い線を引いた。
「そこに街はあるか?」
「何ヵ所かありますが、おそらくこの街でしょう」
ファヌエルが指差す先には城塞都市エスポワールがあった。
「なぜ、そこだと思うのだ?」
「この街には神、魔、竜がめずらしく種族の垣根を越えて暮らしております。うわさではオテロが作った街とか・・・」
「そうか、ゼルエルはそこに向かったのだな。アイツはオテロを助けるつもりか。そうなる前にファヌエルよ。オテロを倒すのだ。アイツを裏切り者にするな。これは私の命令だ。わかったら天軍の三分の一を率いて攻撃せよ。アイツには私が暇を取り消したから『戻れ』と伝えてくれ。頼んだぞ。急げ」
「わかりました。行きますよ。エスペランサ達」
ファヌエルは天軍を率いて急いで出発した。
途中、ゼルエルに追いつき、「戻れ」と伝えられた。
彼女は怒りに震え、天界へ猛スピードで戻って行った。
その判断が結果的に彼女の命を救うことになる。
後に語られることになる。「エスポワールの戦い」が今、幕をあけようとしていた。
天軍の兵士、三千。対するジェンイー達は数人。蟻の兵士は千。この圧倒的な状況で開戦した。
見たこともない姿だった。
白い角と黒い角。白い羽十枚、黒い羽十枚、計二十枚の羽。白と黒の光りをまとった身体。
「その姿は?」
「分からない。君のおかげで長年の悩みが晴れたことが、影響したのは確かだ。偶然にも天界の神々と戦う覚悟ができたからな。まさかこのような超進化があるとは余も知らなかった」
「その覚悟が新たな力を目覚めさせたんだね」
「あぁ、そうだな。かつての天使長の力と魔王の力、その両方を超える感覚。今だかつてない力を実感しているよ。驚きだ」
「この世界を正しく導くための力だよね」
「そうだな。君としか、わからないこの願いのために力を使おう」
ルシファーと共に神々から、白の大地を開放する。白も黒もない世界。争いのない世界。夢物語のような話を二人で真面目に語り合った。これが達成されるまでの秘密。それでいい。もしもこの革命が失敗したら、大悪人として処罰を受けるのは少ない方がいい。もちろん、すべて私が責任をとる。この気持ちはルシファーにも伝えていない。私だけの秘密。
ルシファーは上機嫌で自分の城へ戻って行った。
「軍勢を集めてくる」と言っていた。
アズリエル達と一緒にこの塔の客間で一夜をあかすこととなった。
緊張から解き放たれたのだろう。アズリエルは近くのソファーで倒れるように横になり、そのまま寝てしまった。
窓際にあるソファーで横になった。その窓から空をながめることができた。
嵐の前の静けさ。満月だけがこうこうと輝いていた。
(明日は生き残れるのだろうか?)
不安感。そんな顔をしていたのかもしれない。
「よっ、相棒。まだ迷っているのか?」
オテロの幻影が話しかけてきた。しばらく会話した。
「君には隠し事はできないようだね」
「そうだな」
「明日は敵も味方も関係なく、たくさんの血が流れるだろう。はたしてそれが正しいことなのかどうなのか分からないんだ。オテロはナワバリでの戦いがあるだろう。どうした気持ちで挑んでいるんだ?」
「そんな難しいことは分からん。ただ分かっているのは、俺は負けないと言うことだけだ。ナワバリに入る奴は片っ端からぶっ飛ばすだけだからな」
「オテロに聞いた私がバカだったよ。やはり猫と人間では感じ方が、違うんだよね」
「それはどうかな? 俺が特別なのかもしれないぞ。俺は産まれてから今日までケンカで負けたことはないからな。大ケガをしても負けたとは思っていない。俺が『まいった』と言わない限り、負けではない。だから明日も心配ない。なんなら俺が代わりに戦ってやるぞ」
「大丈夫。まずは私が戦う。『まいった』とは絶対に言わない。でも気を失ったら、後は頼むよ」
「あぁ、分かった」
「オテロの強さが分かったよ。明日は見習わないとな」
「そうか。ならもう寝ろ。寝不足はダメだぞ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
幻影は消えた。
次の日はあっという間にやってきた。最終戦争の朝。あちらこちらから魔王の軍勢が集結。
(普段はどこにいているのだ?)
「どこかに隠れているのだな」としか言いようがないほど、ごったがえしていた。
やがて、魔王達が塔の中へ入ってきた。それぞれの席に座る。アズリエルと一緒に壁際でルシファーを待った。
「待たせたな。それでは作戦会議をしよう」
ルシファーが現れた。ざわめく魔王達。
「ルシファー様。その姿はいったいどうなされたのですか?」
「気にするな、ベルゼブブ。余は超進化をしたのだ」
「超進化とは何でしょうか?」
「そうだな。進化と闘化は知っているだろう。その先にある進化のことだ。余の場合は長年の想いを達成する誓いがそうさせた。余も昨日まで知らなかった力だ。オテロのおかげだな」
「では、キッカケがあれば私も超進化の可能性はあるのでしょうか?」
「そうなるな。・・・それでは作戦を伝える。隊を三つに分けるぞ。右翼はサタン、お前に任す。城塞都市エスポワールへ向かい、オテロの友を救うのだ。頼んだぞ。本隊はベルゼブブ、お前が率いよ。この役目は重要だぞ。多少、派手に攻撃しても構わん。サタンと連携して天軍の足どめをするのだ。その他の魔王はベルゼブブを助けてやってくれ。頼んだぞ。余はオテロ達と右翼をつとめる。本隊が天軍をひきつけている間に天界へ直接、攻めいる。何か意見のあるものはいるか?」
「ルシファー様、私にできるでしょうか?」
ベルゼブブは席から立ち上がった。ルシファーは私を見た。ベルゼブブは見かけより、慎重な女性のようだ。本隊を率いて、失敗は許されない。不安があるのかもしれない。
ある駒を投げた。駒から現れた女性はベルゼブブを後ろへ投げ飛ばし、胸ぐらを引っ張りあげた。
「情けない奴だな。なんなら私が代わってやろうか? いつからそんなにしおらしくなったんだ。ふざけるな」
「な、お前はアドラ。いつからいたんだ」
「オテロの側で駒となって最初から見ていた」
「そうか。まー、いい。お前も手伝え」
「手伝ってくださいの間違いじゃないのか? 大軍を率いる自信があんたにはないのだろう」
「それなら、お前はできるのか?」
「できる、できないじゃないんだ。やるしかないんだよ。覚悟を決めろ。オセロニア世界の未来がこの一戦にかかっているんだぞ。弱音をはくな。オテロ達が無事、天界へたどり着くために私達がやるんだよ」
アドラメレクのおかげでベルゼブブの目の色が変わる。
「ふふふ、そうだな。お前に教わる日がこようとは思わなかった。だが、おかげで目がさめた。今日は最良の戦いを見せてやろう。私に遅れるなよ。アドラ」
「ふん、バカか。アンタこそ私の足を引っ張らないでよ」
だまって聞いていたルシファーが号令した。
「それぞれの武運を祈る。いくぞ、新しきオセロニア世界を我々の手で作るのだ」
「オー!」
魔界を飛び出し、進軍を開始した。
― 一方、天界。
強情なゼルエルを説得できないミカエル。
次の一手をうつ。
「本当に強情な奴だな。もういい。暇をやる。好きにしろ!」
怒ってミカエルは飛び去った。しかし、それは罠。
ゼルエルは見抜けなかった。安心して南の空へ飛び立った。
「ファヌエル、いるか?」
「何でしょう、ミカエル様」
「ゼルエルの飛び立った方角を確認したか」
「はい。南へ飛び立ちました」
「地図は持っているか?」
ファヌエルは地図を拡げ、南の方向へ赤い線を引いた。
「そこに街はあるか?」
「何ヵ所かありますが、おそらくこの街でしょう」
ファヌエルが指差す先には城塞都市エスポワールがあった。
「なぜ、そこだと思うのだ?」
「この街には神、魔、竜がめずらしく種族の垣根を越えて暮らしております。うわさではオテロが作った街とか・・・」
「そうか、ゼルエルはそこに向かったのだな。アイツはオテロを助けるつもりか。そうなる前にファヌエルよ。オテロを倒すのだ。アイツを裏切り者にするな。これは私の命令だ。わかったら天軍の三分の一を率いて攻撃せよ。アイツには私が暇を取り消したから『戻れ』と伝えてくれ。頼んだぞ。急げ」
「わかりました。行きますよ。エスペランサ達」
ファヌエルは天軍を率いて急いで出発した。
途中、ゼルエルに追いつき、「戻れ」と伝えられた。
彼女は怒りに震え、天界へ猛スピードで戻って行った。
その判断が結果的に彼女の命を救うことになる。
後に語られることになる。「エスポワールの戦い」が今、幕をあけようとしていた。
天軍の兵士、三千。対するジェンイー達は数人。蟻の兵士は千。この圧倒的な状況で開戦した。