第10話 <プチ歓迎会>

文字数 1,233文字

「お世話になります!」

ピンクのボストンバッグを持って
萌ちゃんと時田さんがやってきた。

「本当にすみません。
何かあったらここに連絡して下さい」

そう言って時田さんとLINEを交換した。

「かしこまりました!」

私は笑顔で答え、時田さんは取材旅行に出発した。

「昼間は居間でゆっくりしてて、
夕方には上がってくるから」

「はい、勉強もしないといけないんで、集中できそう!」

そう言って萌ちゃんは笑った。

今日の夕食は萌ちゃんのプチ歓迎会をすることにしていた。

八重子も来てくれて、
二階の台所で萌ちゃんと二人で料理をしてくれるとのこと。

閉店後、私と賢斗と亨の三人が二階に上がると、
すっかり宴の準備ができていた。

骨つきのフライドチキンと、じゃがいもとミートソースのグラタン。
色とりどりのコブサラダに、カボチャのポタージュ。

「ひゃー美味しそう!!
普段料理作るばっかりだから、作ってもらうの嬉しい!!」

私は喜んで言った。

「デザートも作ったんです。
杏仁豆腐、後で出しますね」

萌ちゃんが言った。

「作ったはいいんだけどさ、私ちょっと気分悪くて……
つわりがもう始まってるっぽい」

八重子が言った。

「そう、大丈夫?」

と聞くと

「あーー だめだ気持ち悪い!!」

と、トイレに走って行った。

「先に始めちゃおうか」

4人は席に着き食事を始めた。

「賢斗くんって何年生?」

萌ちゃんが聞いた。

「2年」

「それじゃ、一個上なんだね? 高校どこなの?」

「慶英学園」

「男子校なんだ!? 私、女子校なの!
でも慶英なんて優秀なんだね!」

「いや、2年になってから全然学校行ってないし」

そう言って視線を落とした。

「学校うぜーよなー!」

亨も賛同した。

「まぁ、私もそんなに勉強好きな方じゃなかったけどね」

私も苦笑した。

「でも学校って勉強だけじゃなくて楽しい事もいろいろあるし、
私は早く学校行きたい」

萌ちゃんが言った。

「行きたくないって思ったことないの?」

グラタンを食べながら賢斗が聞いた。

「あるよ。
でも行けなくなってから行きたいって思うようになった」

その言葉に賢斗はフォークの手を止めた。

「結局自分次第だなってわかったんだ。
見るものが嫌なものだって思えば嫌なものになる。
でもそれがなくなってみたら、
実はすごくキラキラしたものだったってわかることもある。
同じものでも自分の見方が変われば変わるんだよ」

「ふうん」

賢斗はそう言って黙った。

「ふわーー! 辛いよぉーー!」

ふらふらした足取りで八重子が戻って来て、
居間のソファに倒れこんだ。

「ご飯は?」

「無理!! ぎぼじわるいーー」

ソファにうずくまってしんどそうにしている。

「子供産むには出産が試練だと思ってたけど、
その前から試練は始まるんだなーー」

八重子は手の平を額に当てて言った。

「辛そう……」

心配そうに萌ちゃんは八重子の方を見た。

「あんたたちのお母さんもこうやってあんたたちを生んだのよ!
感謝しなさい!!」

そう言って

「あ、また来た……」

と、ふらふらトイレに立ち上がった。

賢斗は黙ってその姿を見送っていた。


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