第14話 <カフェのお仕事>

文字数 1,136文字

月末になり、賢斗にバイトの給料袋を渡した。

「はい、バイト代」

「え?」

「ちゃんと働いた分のお金だよ
今月は働いた日数が少ないから少しだけど、
自分で稼いだお金、好きに使いなさい」

そう言うと、キラキラした目で

「ありがとうございます」

と頭を下げた。

初めて自分で稼いだお金。

それは嬉しいに違いない。

「それじゃ、ホールでの仕事も様になってきたし、
そろそろドリップコーヒー入れてみようか?」

と提案した。

ドリッパーに挽きたての豆を入れ、お湯を少しそそぐと、
プワーっと丸く膨れ上がる。

そして待つ事30秒。

それからゆっくりと細くお湯をそそぐ。
丸く膨らんだ豆を崩さないように。

「できるかな?」

賢斗は戸惑った。

「誰でも最初は下手くそだよ、練習練習!」

私はぽんと賢斗の肩を叩いた。

隣では亨がカフェラテを入れていた。

きれいなリーフ模様がカップの中に浮かび上がる。

「すげー」

それを見ていた賢斗が言った。

「あれができるようになるには?」

「ラテ? あれはわりとハードル高いけど」

「あれ、できるようになりたいな」

「それじゃ、まかないの時に練習したらいいよ。
豆とミルク使っていいから」

そしてまかないの時間にカフェラテの入れ方を教えた。

エスプレッソを入れたカップの真ん中に、
スチームミルクを落とし、
白いミルクが浮いて来たら
ミルクピッチャーを振って模様を描く。

しかし賢斗が入れたカフェラテは、
昔のゲームのパックマンのような形だった。

「やっぱムズいな……」

「最初はね、リーフよりハート模様から目指すといいよ。」

そうアドバイスした。

「カフェの仕事も楽しいな」

賢斗がつぶやいた。

「俺、歌がなくなって好きなものなくなったって思ってたけど、
またこうやって新しい好きができたりするんだな」

「そうそう、そうやって好きをいっぱい増やすといいよ
そういうもの達は、いつか辛いことが起こった時も
賢斗くんを救ってくれる」

そう言うと、「うん」と微笑んで頷いた。

チリン!

店のドアが開く音がして、萌ちゃんが入って来るのが見えた。

「あ! 萌ちゃん! 退院したの!?」

私が言うと、

「はい、ご心配をおかけしました、もう大丈夫」

そう言って笑った。

「今日は一人?」

「はい」

珍しいなと思っていると、

「賢斗くん…… ちょっといいですか?」

と萌ちゃんが言い、

「え? 俺!?」

と賢斗は戸惑いながらも、店の外で二人何か話しに行った。

戻って来た賢斗は、可愛い小さな包みを手にしていた。

横目でちらっとその様子を見ていると、

「こないだお見舞いに行った時のお礼に、
ドーナツ作ったからって」

と、ぼそっと言い、こう続けた。

「ねぇ、女の子がこういうのくれるのってどういう事?」

と、聞いてきた。

思わず顔がニヤニヤしそうなのを必死でこらえ、

「仲良くなりたいって事じゃない?」

と答えた。

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