第12話 <夜の海と花火とギター>

文字数 1,006文字

次の日は早めに店を閉めて、
ホームセンターで花火を沢山買い、
亨の運転で海に向かった。

「この輪っかみたいな花火何?」

萌ちゃんが聞いた。

「ねずみ花火だよ、付けてみようか?」

亨が火をつけるとシュルシュルと音を立てて、
ねずみ花火は萌ちゃんの足元に進んだ。

「きゃあ!」

萌ちゃんは賢斗の腕にしがみついた。

「あの二人、いい感じじゃない?」

私が言うと

「青春だなぁーー 羨ましい」

と亨が言った。

花火なんていつぶりだろう。
なんかあの子達を見てると、
自分も17の頃に戻ったような気持ちになる。

私と圭介と里美、いつも一緒に遊んでたっけ。

何の憂いも不安もなくて、毎日がキラキラしていたあの頃。

そんな気持ちを味わう事なんてもう二度とないと思ってたけど、
今この時間、まるであの頃を追体験しているかのような。

賢斗と萌ちゃんは手持ちの花火をぐるぐる回して
文字や星、ハートなんかを描いて遊んでいる。

その姿が何とも尊いもののように見えた。

「あんたは彼女とかいないの?」

私は亨に尋ねた。

「今はいねーー」

「姉弟そろって不甲斐ないわね……」

二人で苦笑いをした。

「あ、俺ギター持って来てんだ、ちょっと取って来る!」

そう言って亨は車からギターを持って来た。

「あいつら見てたらちょっと弾きたくなった」

そう言って砂の上に座り、弦を弾いた。

「サマーヌードか」

私がつぶやくと亨はニッと笑った。

十代の眩しいこの時を、
あの子達にとっても一生の思い出になるといいな。
そんな事を思っていると、
ギターの音に気がついた二人が近づいて来た。

「わーカッコいい!!」

萌ちゃんが言った。

するとギターに合わせて賢斗が歌い始めた。

「知ってるの? この歌」

私が聞くと

「親父が夏になると車でよく聴いてた」

「さすが上手いな、歌」

亨が言うと、賢斗はふっと笑って、続きを歌い出した。

それにつられて私も続きを歌った。

ミディアムテンポのちょっと切ない旋律は、
刹那の青春時代を駆け抜ける情景を掻き立てる。

みんなは声を合わせてサマーヌードを歌い、
ギターカラオケはその後も何曲か続いた。

「楽しかった!」

私と萌ちゃんも満足げに言った。

「決めた!」

亨が急に大きな声で言った。

「やるぞ! リサイタル、あの店で」

「え!?」

私と賢斗は驚いて言った。

「開催日は8月31日。
それまでに歌いたい曲3つくらい選んどいて!」

「な、何を急に……」

賢斗は戸惑った。

「夏休みの自由研究だ! わかったな!」

そう言って亨はさっさと車に向かった。

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