第13話 <萌ちゃん入院>

文字数 819文字

帰りの車で賢斗と萌ちゃんは眠ってしまっていた。

「可愛いじゃん、二人とも」

亨が言った。

「そうね」

私も答えた。

家に着いて賢斗を起こし、
萌ちゃんにも声をかけると様子がおかしいのに気がついた。

呼吸も荒く、熱い。
熱があるようだ。

「亨、病院!」

私は亨に言った。

あらかじめ聞いておいたかかりつけの病院に行くと、
念のための入院となったが、
大事には至っていないようだった。

海ではしゃいで疲れたのと、
体が冷えたのが響いたのだろう。

その日はひとまず病院側にお任せし、
次の日の朝一番で病院に行くと、
時田さんが早めに取材を切り上げて戻って来ていた。

「本当にすみません! 私がついていながら」

申し訳なくてひたすら頭を下げた。

「いえいえ、やめて下さい、幸い大した事なかったですし」

時田さんは恐縮して言った。

今回は良かったけど萌ちゃんの体は普通の子と違うのだ。
もっと気をつけるべきだった。

「むしろ感謝しているんです」

「え?」

「男親一人なもんで萌は遊びにもなかなか連れて行ってやれなくて。
本来なら友達同士で遊ばせてもいい年頃なんでしょうけど、
やはりあの体ですし子供だけだと何かあった時に心配で」

時田さんは視線を落とし気味に言った。

「今が一番良い時なのに、思い出もほとんど作ってやれなくて。
だからきっと今回の事は萌にとって心に残る風景に
なるんじゃないかと思っています」

「そう言っていただけると、私もほっとします」

「今日は僕が一日ついてるんで、お店に専念して下さい」

時田さんがそう言ったので、
お言葉に甘えて私は病院を後にした。

店に戻って開店の準備をしていると、
賢斗が、もじもじとした感じで近づいてこう聞いた。

「ねぇ…… 萌ちゃんは……?」

「うん、もう大丈夫よ」

賢斗の表情に安堵の色が見えた。

そしてきゅっと唇を結んだ後、

「あのさ、今日店終わったら病院行ってきてもいいかな?」

と言った。

あれ? この子もしかして……?

「行ってあげて、きっと喜ぶよ」

そう言って笑うと賢斗も少し笑った。

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