第2話 <ハリネズミ>

文字数 1,131文字

二重三重に頭を殴られたような衝撃に、返す言葉が見つからず、
しばらく身動きがとれなくなった。

えっと、何だこれは、何から話せばいいんだ?

とりあえず死ぬとか言ってたな、それは止めないとまずいだろう。

「死ぬって君…… ひとまずケーキでも食べよう!」

自分でも「何だそれは」と思うような突拍子も無い提案をして、
店内のテーブルに座るよう促した。

「お姉ちゃん…… あの子……」

八重子も怪訝な表情で私を見た。

「大丈夫? 対応できそう?」

「う、うん、ちょっと話聞いてくるわ」

そう言って、紅茶とチーズケーキをトレーに乗せ、テーブルについた。

「えっと…… どうしてここに? 私を知っているの?」

この子が私の所に来たとなると、
私がどういう関係の人間なのか知っているのだろうか?
知っているならなぜ私に会いに来たのか?

「知ってますよ、早川さんのせいでうちの家族は破綻している」

「はぁ!?」

まるで私が加害者のような!
裏切りにあったのはこっちの方なのに!

「破綻って…… どういうことかな?」

子供相手に冷静にならなければと思ったが、
自分の目つきが変わるのがわかった。

「うちの親、昔から早川さんのことで喧嘩ばかりしてんですよ」

「え?」

「俺が生まれたせいでみんな人生狂ったんだろ?
生まれて来て迷惑な人間だったんだろ? 俺は」

何だろう、思春期特有のものなのだろうか?

触れたら怪我をしそうな……
外側からの接触を身を固くして拒み自身を守っているかのような……
そう、まるでハリネズミのような小さな存在が、
必死で相手を威嚇して自分を守っているかのように見えた。

「みんなの望み通り、もうこの世から消るよ、俺。
その前に早川って人がどんな人なのか一目見に来た」

確かにあの頃、圭介に子供さえいなければと思った事もあった。
街中やテレビで仲睦まじい親子の姿を見ると、胸が締め付けられた。

今その子を目の前にして、
あの頃の忌まわしい感情が私を黒く染めていく。

ただ…… この子には何も罪はない。

「死ぬのはもうちょっと待ちなさい」

自分から死ぬと言っている人は、
本気で死にたい訳じゃないと、何かで読んだ。

死にたいと言う人たちは本当は救われたいのだ。

「君、名前は?」

賢斗(けんと)

「賢斗君、もし嫌じゃなかったら今日はうちに泊まっていきなさい。
妹が昔使っていた部屋があるから」

「は!?」

眉をひそめて賢斗は私を見た。

「家に帰りたかったら帰ってもいいけど、
このままどこかに消えられるのは私としても阻止したい」

「俺なんか家に入れて嫌じゃないのかよ!?」

「良くもないけど…… 他に行く所あるの?」

すると賢斗は口をつぐんでしまった。

私は八重子の方を向き、こう言った。

「八重子! 今晩あんたの部屋使わせてもらうわ」

そう言うと八重子は「了解」とこちらを見た。


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