平成最後の魂の10日間(4)力走、最終日の完走を目指して

文字数 4,191文字

展示もいよいよ最終日である。しかし……。
どうしたんですか? 総裁、なにか表情が暗いですよ。
賭けてこそ生命、と述べてきた。子供を残せぬ我らに冒険なき生は死と同じとも。

しかし、その賭けや冒険に、本質的な意味などない。終わればそれでおしまいなのだ。

そして、ワタクシの思いは、どちらにしろ残ることもないのだ。

ええっ、総裁、どうしたんですか!? 悪いものでも食べたんじゃないですか?

ここまで作品に残してきて何、素に帰ってるんですか!?

そうですよ総裁。私達、いろんな活躍して、それが作品にいっぱいなってきたじゃないですか。ヒドイっ。
総裁、つかれてウツになってるんだよー。暖かくて美味しいもんたべて寝ないとだめだよー。
そうかも知れませんわ。ここまで総裁、全開運転が過ぎますわ。力尽きてそれこそ轟沈してしまいかねませんわ。
疲労はてきめんに人を弱気にしますよ。総裁、休んでください。
総裁……疲れ切っちゃったんですね。
そうも行かぬ。冒険の最後の締めをせねば、ワタクシの夏は終わらぬのだ。そして、ワタクシの命もまた、終わらぬのだ。
総裁、命を終える、って、まさか、「最後の冒険」ってそういうことなんですか! そんな!
ワタクシもいろいろ考えてきた。でも、そもそもワタクシも「乙女のたしなみ・テツ道」への理解は程遠い。そして、鉄道趣味についての理解もまだまだはなはだ足りぬ。
それはみんなそうですわ。一人で何でも知ってる方なんているわけがないのですわ。

むしろ一人にそんなことを期待するほうがどうかしているのです。

鉄道について、特別な思い、という言葉を聞いた。

その特別な思いをワタクシは残していくべきだと思った。ワタクシも特別な思いを持っておるからだ。

だが、特別な思いだから、それは残らなくても良いという立場もあるのだと知ったのだ。

残し得る方法を探しもせずに。

よくわからないけど……でもなんとなくわかる。でも、それは根本的に私達とは違う考えのような気がする。

特別だから残らなくてもいい、なんて、一見ロマンチシズムみたいにみえるけど、そんなのただの自己陶酔だと思う。残す手だてを精一杯考えた上でそれならまだしも。

鉄道や産業遺産の保護についてもそういう虚無主義を気取るものが時々いますわ。どうせ残らないのだから残らなくてもいい、自分の特別な気持ちさえ残ればいい、って。

でもそれはタダの趣味の話ですわ。自分個人所有の模型ならそれでいいですけど、鉄道文化、産業遺産の継承はもっと真剣に考えるべき問題ですわ。失われたらそれでおしまいなのですから。

真剣に考えたって残せないものが多すぎて悲しいのに、真剣に考えることすらはじめから放棄するなんて。これからの時代に生まれてくる私達の後輩のことをどう思ってるんだろう。

後輩たちは何を受け継いで、何に学べばいいの? 私達の思いだけじゃなく、失敗も苦悩も何も知らず、学ぶことも出来ずにまた失敗と苦悩を繰り返させるの? そんなもの人間の歴史じゃないわ。ヒドイっ!

人間の全ては先輩の失敗や苦悩に学び、その肩を借りてさらなる高みを目指す歴史でした。そうして連綿と歴史を積み上げてきた。小さな改良がつながり、大きな発明と共に間違いなくこの世界は豊かになるように作られている。もう経済成長しなくてもいい、なんていうけど、経済は1.8%はどうやっても成長する。それに成長を停めるとしたら、停まった世界にこれから生まれる子どもたちが可哀想過ぎる。
感傷に浸るのはかまわないけど、それは自分で勝手にやって、って感じだもんー。総裁と私達はそんなこと個人で済ませて、その上で集まって何かを成し遂げようとしてるんだもんー。一緒にしないで、ってー。
そうであろうか。鉄道趣味の世界を分断して、そこまでしてでも残すべきものなのだろうかと思う。
うーん、よくわかんないなあ。なんかいろいろあべこべになってる気がするし。

好きだから残そう、じゃなくて、好きだから残らなくていい、って話? 残せるのにもかかわらず?

この時点ですでに自己矛盾なのだ。鉄道趣味を残すためには、そういう感傷主義とも和解せねばならぬ。そしてその結果、鉄道趣味の礎となる文化や産業遺産が残せなくなる。
どちらかをとるか、になっちゃいますね、これ……。つらいなあ。
目の前でそれが行われていくのはつらすぎた……。JAMコンが終わったあと、別件でこのひどい矛盾に気づいて、ワタクシはひどく困ってしまったのだ。
依代の著者さんもずいぶん寝込んでたみたいだし……。でも解決は一つじゃないかなあ。感傷主義とは和解するんじゃなくて、放置して保存のために頑張るしかないと思う。正直、感傷主義は放っておいてもなんの影響もないわけだし。
事実、感傷は表現の題材になったとしても、感傷がなにか社会を動かし何かを成し遂げたという例をわたくしは聞きませんわ。何かを成し遂げるためには決断と実行しかないのです。感傷にひたるだけで何かが成し遂げられるなんてことはありえませんわ。
総裁は、何かを成し遂げようと頑張ってきたんですよね。鉄道模型にしろ、鉄道趣味にしろ。

それが総裁の「乙女のたしなみ・テツ道」だと思ってたんだけど。

さふであるが……。
それなら、感傷主義とは決別するしかないんです。どんなに辛くても。

もともと、何かをして生きるということで、その辛さは避けられないんですから。

そうかも知れぬ……そうかも知れぬとはいえ……。
総裁、そんなときはほら!!
わたくしの胸で充電なさるとよいのですわ。
うっ、それは思いっきりKENZENから離れてしまうぞよ!!
こういうときも時には必要ですわ。
はい総裁も充電ー!!
御波ちゃんいつも充電しなれてるから手際いいなあ、ひどいっ!
しかし見る間に総裁の表情かわってくのがすごいよね。詩音ちゃんの胸って何アンペア分ぐらいの充電能力あるんだろう?
えー、「百万ボルト」って聞くことあるけど、アンペアなのー? そういう単位ってー。
アンペアは電気の流れる量だもの。家のブレーカーはアンペア大きいほどいろんな電気器具一緒に使えるでしょ? 同じボルトでもアンペアが大きいほうが電気がドバドバ流れるんだよ。
じゃあ詩音ちゃんの胸、百万アンペアだー!
100万A、1000kAか……。総裁の主電動機の端子電圧100Vとしてざっくり……100メガワット?!

DF200ディーゼル機関車52台分、あのあまりの大食らいで変電所が持たなかったEF200電気機関車ですら16台運転できちゃうの!!

普通の鉄道変電所は6000kW単位で作るから、16箇所分!?


詩音ちゃんすごすぎだよ!!

あら、わたくしとしたことが。恐縮ですわ。
はいそこ、変な計算してコーフンしたり照れたりしないー。
総裁、そろそろ充電終わりました?
う、うむ、思わぬ充電で回復してしもうた……さすが詩音くんは我が鉄研水雷戦隊の正規空母であるのう。
やだなー、もう簡単に終わるとかこれが最後とか言っちゃ駄目ですよー。そのたびに私達、総裁充電して続けさせちゃいますよ。
だってそれが私達の総裁だもん。ヒドイっ。
でもほんとうに、わたくしたちのこころの支えであり、よりどころですわ。しっかりしてもらうためには充電するのも当然ですわ。
総裁がいなくなるなんて、ぼく、そんなことあったら泣くー!
そうですよ。ぼくも総裁にずいぶん救われてきたんですから。
私も総裁いないと辛いなあ。
うむ、心配をかけてしもうたの。
じゃあ、JAM最終日の話からリスタートですね。
さふなり。JAMコン最終日。

ワタクシは早めに宿を出発した。

そして大井町駅についたとき、気づいた。

宿に鍵を返却し忘れて持ってきてしもうたのだ!!

ひいい!! いきなりポンコツじゃないですか!!
ゆえ、宿に鍵を返却してリスタートである。
HiGSEがすこしずつモーターがぐずりだしてたんです!
そこで我がフラッグシップ「あまつかぜ」の活躍である。どうしてもJAMコンは3日間の運転、耐久レースになってしまうのだ。ゆえ、3日目はなかなかコンディションがしんどい。

そのなかでももうすぐ完走なのだ。「あまつかぜ」も最後の力走なのだ。

あ、でも「あまつかぜ」の中間車、トワイライトエクスプレスの中間スイート寝台車になってる!
これが「あまつかぜ」のマルチロール能力なのだ。真ん中に挟み込む車両を変えることで様々なプランに対応できる。言うなればこれは「あまつかぜDXスリーパー編成」なのである!
「あまつかぜ」は3日間、まさに力走であった……。
そして我がパトレイバー、「俺イバー」のYAV、「壬生くれは」さんのモジュールに出動である!
壬生さんKATOのパトレイバー発売について頑張ってましたものね。応援しないと。
さふなり!!
特車2課棟に出動した我がレイバー。やはり舞台があると模型が映えるのである!!
MU支援車も出動して私達の「鉄研でいずvsパトレイバー ファストリブート」仕様になりましたね!
私達がパトレイバーのキャラクターとグッちゃグッちゃになって一緒に活躍する話ですもんね、あれ。でも二次創作だもんなあ……。
やはり物語があると模型は楽しいのである!
しかしこのAT-Z、現代装甲列車が不調で留置線待機を続けなくてはならなかったのは無念なり。
でも今年の趣旨的にはこれでよかったのかもしれませんわね。
そして、最後の力走を終え、JAMコンは閉会である。


毎年「この日このときこの場所でまたお会いしましょう」となるのだが、来年はJAMコンでビッグサイトが使えぬ。

でもどうなったんですか? 来年は中止ですか? ヒドイっ!
うぬ、それが西ホールを使っての開催になるとの放送が流れたのだ!!
じゃあ、また来年も!!
それはできぬ。我が北急電鉄はもう資金難であるからの。1年間は最低でも出場不能なのだ。
しかたないですわねえ。今年も強行出場でしたものねえ。
とはいえ、JAMコンは存続するのだ。今後我々が出店できるかどうかは別にして。


それよりも、ここからが大変なのだ。

え、なんですか?
撤収作業があるのだ!! これがなかなか大変なのだったぞ!!


それは次回につづく!!

ええっ、そんな大変だったんですか!? ヒドイっ!!
正直、なめてました……。
えええっ、どうなっちゃうの!!
つづきます!!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。

武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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