平成最後の魂の10日間(5)死闘、撤収作業!

文字数 3,769文字

そして撤収作業が始まる。いろいろな我々の展示についての感想が寄せられたが、全て好評であった。じつに嬉しいことであった。やってよかったと思った。


だが、撤収作業がある。

え、だって終わったあとは終わるだけでしょ? 片付けてJITBOXに詰めて発送して終わりじゃないの?
それが、よりによってJAM閉会後に予定したことがあったのだ!
あっ、それは前回のジャパリカフェみたいなアフターJAMお茶会しようとしちゃったとか!
さふなり……。
私達、撤収作業に時間がとてもかかるのをナメてました……。
でも、お店だったら少しずらしてもらえばなんとかなるんじゃないですか?
それが店ではなかったのだ。
店じゃないところでお茶会って……ええっ、まさか!!
そう、「走る喫茶室」だったんです……!
ええっ、ロマンスカー乗りに行くつもりだったの? この時間ないのに! ヒドイっ!!
町田往復で夕方の便のGSEとVSE前展望を楽しもうという計画を立ててしまったのだ……そしてきっぷも前展望席をとってしもうておった。
間に合うわけないじゃないですか! バカだなあ! ヒドイっ!!
でもミエくんにGSEとVSEの前展望を体験させたかったのだ……。今思えば無謀であった。しかし、その最高の宴のために車内販売の予約までしてしもうた。
えええっ、それで間に合ったんですか!? 間に合わなかったんですよね……。
懸命の撤収作業を行った。できる手順は省いた。頼めることはできるだけ頼んだ。

そして新宿駅へタクシーで間に合うリミット時間も計算していた。

秒読みの撤収作業となった。

私は途中で無理だと思ったんです。だからあきらめよう、って総裁に言ったのに。
ワタクシは諦めるわけには行かなかった。諦めても良かったのかもしれないのだが、諦めたらもっと大きなものを諦め、無にして終わる気がして、諦めることが出来なかったのだ。
もっと大きなもの……。それは、いったい何でしょうか?
ワタクシにも今となってはわからぬ。ただ、ワタクシにとって、JAM出展参加はこれが最後だと思うておったのも事実。
でもムリなものはムリですわ。はやめに諦めたほうが良かったような気がしますわ。
しかし、それでも諦めきれなかったのだ……。
総裁、必死に片付けてて、ちょっと怖かったです……。
諦めたら全てを失う、と何故か思うておった。そして、いくつかのもののうち、消耗品扱いのものは持ち帰ることを諦めた。
ええっ、そっちを諦めたんですか! なんて……ひどいっ!!
それでももう絶望的な残り時間。ワタクシは小田急のサイトでキャンセルの手続きをした。

でも、まだ必死に片付けた。少しでも早く、と。

どうしちゃったの、総裁ー!
ワタクシも何が起きていたのか、自分でもよくわからぬ。

もうアフターで町田往復しないのなら、のんびりと片付けて、全てのものをJITBOXに詰めてもよかったのだ。

その冷静さすらワタクシはその時失っておったのだ。

総裁いつも冷静なのにー。時々ポンコツするけど悪知恵働くのに、なんでー?
わからぬ……。自分でもわからぬ……。
総裁、もしかするとその時、もう人生で二度とまたここに来ることはない、って思ってませんでした?
うっ、そんな……。
総裁、そこまで覚悟して、この強行出展してませんでした?
総裁、そこまで思いつめてたんですか!!
どうしちゃったんですか、総裁! 総裁はこれからもテツ道を追求していくのは変わんないはずですよ!
総裁の思いつめ方、もう見てられないほどでしたもの。

まるでこれで人生も命も潰えさせてしまうかのような思いつめた表情でしたから。

総裁……これからも私達と一緒ですよね……私達と一緒にテツ道やっていきますよね。
ワタクシには……もう、なにもないのだ。

お金も、体力も、運すらももうないのだ。


ワタクシには、その終りが見えていたのだ。

総裁!!
すべての終りが見えていたのだ。我が著者の行き詰まりも見えていたし、ワタクシの無理もここまできた。

もう破綻しか見えなかった。

そんな、破綻なんて!! あんなにいろんなひとに褒められて、喜ばれたのに!!
現実はそれだけ惨憺たるものだったのだ。

だから、このJAM出展は、最後の戦い、北急電鉄の最高の舞台にして、ラストランだったのだ。

駄目ですよ! どこまでも続いていくから線路なんじゃないですか!

私達のレールはどこまでも続くんですよ! ヒドイっ!!

ムリなものはムリだったのだ。
それでも、撤収作業は終わったんですね。
キャンセルし忘れたものもいくつかあった。メーワクをかけた。でも、リミットと考えていた時間から20分後、撤収は終わった。JITBOXの発送も終わった。ワタクシは、すべての力を使い果たし、閉会後、撤収作業も終わっていく東1ホールのコンクリートの上に擱座してしまった。
轟沈しちゃったじゃないですか! 総裁ー!!
遠くにミエくんの声が聞こえた。ミエくんが元気そうだった。それでよいのだ。

それでワタクシのJAMは終わった。

終わったのだ。全ては無理であったが、多くの使命は果たせた。


もう、終わったのだ。

総裁……そんな悲壮な……。「この胸のAXIA」の曲のような、劇的で切ない終わり方ですわ。


でも、総裁は終わってはなりませぬわ。

終わっては……いけないのであろうか。

ワタクシにこの後のことがなにかあるのだろうか。

少なくとも発送した復路のJITBOXの受取もしなくちゃいけないですよね。

そのあとのお家での荷解きもある。

それに、JAMできてくれたいろんな人と交わした約束もいっぱいありますよね。

交わした約束……。しかし守りようがないと思っておった。

ワタクシはそこまで、もたないのだ、と。

でも、守らざるを得ないですよ。でないと、ぼくも総裁と共に、いなくなるしかなくなっちゃうんですから。
カオルくん……。
いなくなるって、どこから? まさか、ここから?!
命を燃やしてがんばるのはいいことです。でも、燃え尽きさせて、消しちゃ駄目です。

それは人間にはどうすることも出来ないことです。ぼくも何度かそうなりかけてきて、戻ってきましたから。

ワタクシに未来や希望などあるのだろうか。
総裁がそれを言っちゃ駄目ですよ。総裁は一人でもその未来や希望を掲げて戦うことにしたんじゃないんですか。

それがこの苦しい時代に、テツ道の旗を掲げるってことですよね。

……そうかもしれぬ。だが、ワタクシにはその……。
もう! 駄目です! 私達の総裁はそんなことでくじけちゃ駄目です!!

体力とか運とかお金が足りないのは著者に補填させればいいだけの話じゃないですか!!

ええっ!!!
総裁のテツ道、ぼく楽しみについてきたんだもんー。総裁はテツ道にもっと邁進しなきゃー。
総裁はテツ道を頑張ればいいんですよ。他のことは著者がなんとかしますよ。ヒドイっ!
えっ、私ももう力ないんだけど……。
そうですよ。きっとなんとかなりますよ。なんとかならなければそれはその時考えればいいんです。
「明日は明日自身に思い煩わせるが良い」ですわ。
そうも言っておられぬ状況にあるのだが。
それでも今このときはこうしていられるのですから。そのことに感謝しましょうよ。

そして、今のこの時を、テツ道に費やしましょうよ。

それが最後までテツ道に邁進するという意味ですわ。

そう、なのかもしれぬ……。
撤収は終わったんですよね。そして擱座しても、また歩き出したんですよね。
……さふなり。ミエくんを大崎バスターミナルに見送りに行ったのだ。
どこかで夕食を食べようとしてたんですけど、なかなか見つからなくて。

でもGoogle Mapに載ってないファミレスがあったんです。

JAMの3日間を走り抜けた、フラッグシップ・HiGSEを見ながらの宴となった。
幸せな宴であった。
しあがったインレタの出来を見ながら、ワタクシは深く満足していた。

終わった、と。

料理も素晴らしかった。でも、もう胸が詰まっていたワタクシは、ほとんど味を感じることが出来なかった。
そして、別れのときがやってきた。バスはもうターミナルで待っていた。
総裁がそんな気持ちだったなんて……。
ワタクシはこれでいいのだ。これでよかったのだ。十分幸せであったのだ。これ以上ないほど幸せになれたのだ。ゆえ……。
ゆえ、今後のこともあまり考えられなかった。来年も、その次も、次回の出展も。

幸せであった。でも、この幸せは大きく、私にとってはもう限界であった。


バスのドアが閉まり、ブレーキランプが点く。ミエくんの乗ったバスが出発していく。

フィナーレである。
バスがもう一度経路の都合上、ワタクシの前を通り過ぎていく。

これでよかったのだ。


そして、これでもう終わりなのだ。

一人大崎から帰るワタクシの目の前をこの列車が通り過ぎていった。この列車ももうすぐなくなる。

月日は万代の過客。ゆく水もとどまることなく。

ワタクシの気持ちは、とめどなくさまよった。

そしてテールランプが去っていった。
帰りの列車の中。このとき聴いた『ラヴァンディーア』はこころに強く焼き付いた。
車窓が雨でもないのに滲んで見えた。
そして横浜駅。長い旅が終わる。
列車のジョイント音が遠ざかっていく。
そして、海老名に向けて、ワタクシの乗る列車も発車する。
最後の旅の、最後が始まる。
総裁、そんな……。
総裁の最期だなんて……! いやー!!
……つづきます。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。

武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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