マイペース、マイレール

文字数 5,132文字

ところで、ミエくんの方の進捗が気になるところであるが、ミエくんも懸命の工作をしておった。いささかマイペースにすぎるようだが、もともとシーナリー(情景)工作ビギナーな上に車両工作の技法でシーナリーを作るという常識から外れたことに挑戦しておる。その結果は目標未達か、あるいは? というギャンブルであった。

ワタクシはミエくんに賭けることにした。伸るか反るか、運否天賦の勝負となった。

ええーっ! 私、そんなに心配かけてたんですか!?
ひいいいい!! 自覚なさすぎてヒドイっ!!
ミエさんほんとマイペースだもんなー。それもあって総裁、マクロスΔの「この胸のAXIA~ダイスキでダイキライ」をヘビロテで聞きながら工作してたんだと思うの。総裁の依代の著者さんも実家とうまくいってなかったみたいだし。総裁、孤立しかかってたのよ。
斯様なことは些細なことである。ワタクシは一人でもテツ道の旗を掲げるつもりであった。たとえ孤立し孤軍奮闘の結果刀折れ矢尽きても、限界まで行くしかないのだ。ここまでやって中途半端はできぬ。燃え尽きるまで完全燃焼しかないのだ。
そんな悲壮感持ってたんですか? 私、一生懸命やってて全然気づかなかった。
ミエさん! 総裁は! あなたのことを!!
御波くん、よいのだ。よいというておる。
だって総裁、そんな……。
御波くん、君の思いもわかっておる。君も大事なワタクシの僚艦であり、副総裁であるのだ。頼りにしておるのだ。君を蔑ろにする気は毛頭ない。でも君がそうされていると思っていたのなら、心からすまないのだ。
総裁……!
御波くん。君はワタクシの胸の中をいつも暖めてくれる大事な灯であることは変わりないのだぞ。
総裁!
さふいえばワタクシの誕生祭、鉄研諸君、とくに御波くんが祝ってくれたのはとても嬉しかったぞ。6月6日、もう過ぎてしまったが。


ワタクシは、本当に幸せであったのだ。

総裁、総裁はこれからもきっと幸せなのですわ。総裁が何かを成し遂げなくても、総裁がいてくれることはわたくしたちの勇気と希望そのものなのですから。ですから、総裁、くれぐれも御身お大事に。
総裁、ほんと頑張ってるわよ。こうしてるときにも著者の愚痴も聞いたりして七面六臂の大活躍だもの。これ以上ないほど、すごく頑張ってる。
ぼくもそう思う。いつも総裁なんでもできてすごいなー、と思ってるよー。
総裁って、稀なギフテッドってことで大学病院の研究室のモルモットになりながら学校に通ってるぼくと、どっか同じ匂いがする。総裁がどういう辛い目にあってきたか、何となく分かるし、その傷もわかる気がする。ぼくと総裁はどこかで同じなんだよ。でもぼくは総裁をそれ以上に尊敬してる。だって、総裁の引き受けた責任は、僕にはとても耐えられないもの。
うむ……恐縮なり。しかし、まだまだであるのだ。
総裁……総裁には仲間がいて、いいなあ、羨ましいなあと思ってたけど……。
ゆえ、ミエくんも孤立させたくないのだ。我々は仲間であるぞ。一人でも欠けることはありえないのだ。ワタクシはこのみんなを、ちゃんと無事にこのJAMコン出展作戦という甲作戦の航海を突破させ、一人の沈没艦もなく帰還せねばならぬ使命を持っておるのだ。
去年は総裁もミエさんも最後に轟沈しちゃいましたね……。それでも帰ってこられたけれど、危なかったなあ。
さふなり。それ故に、今年はそうならぬよう頑張らねばならぬのだ。


しかし、ミエくんの様子がわからぬ。せっついてプレッシャーを掛けても仕方がないし、かといって放置でも良くない。しかし、進捗を見ていると、どうにも大きい面積を先に解決するというシーナリーづくりの基本の逆を行っておる。

定石では大きい面積をざっくり解決して、そこから詰めの工作ですわね。大きな風景であればあるほど、あとから大きく解決するのは困難になりますわ。
渋谷駅を作るのにハチ公像1/150しか完成しなかったら悲惨ですもんね。それよりヒカリエの概略とか、地面とか作っちゃったほうがいいと思う。それだったら途中でだめでも渋谷には見えてくれるから。ヒドイっ。
ワタクシの風祭駅は先に小田原方の庭園、そして小川などの塗装をしたのだ。舗装の方は後回しにした。それは庭園と小川のほうが解決の難易度が高いからである。舗装は比較的ラクに解決できると見込んでおった。
総裁はほんと、定石通りですね。大崎高校にペーパーレイアウトの講習受けに行っただけあって方法論がしっかりしてますね。
だから、ミエくんが風祭駅モジュールの歩道の解決を急ごうと強く言ってくるのは理解できなかったのだ。でも、その中で理解したのである。ミエくんなりに焦っておるのだろうと。ワタクシはそこでミエくんの制作状況を察して、あえて進捗を突かぬようにしたのだ。
えっ、そうだったんですか!
そう思いながら、送られてくるメッセージの添付写真でなかなか地面の解決がなされぬのもみて、正直「ううむ」と思っておった。しかしそれを言うとミエくんは更に焦り、ミスでドバっと時間を失う。

このマネジメントは、著者がやったNovelJAMの編集者と同じ心境であった。担当したアーティストを急がせてもだめ、サボらせてもだめ、という。これは実に奥深く難しい。

総裁、そこまで配慮してたんですか……。
ミエくんなりの奮闘も理解していた。弾丸ツアーで大洗に行ったのも素晴らしい行動力と敢闘精神である。それゆえ、資料協力してくれた人の気持もわかるのだ。
え、あのなんかやることが危ない人だなー、と思った資料協力の人のことですか?
さふなり。ワタクシはその時、もしかするとその危なさは実は理由があるのではないかと察しておった。
ええっ、なんでそんなことわかるんですか!
ワタクシを誰と思うておる? 他ならぬエビコー鉄研総裁であるぞよ。
そんな……。でも……。
ワタクシは嘘が大嫌いだが時間と約束は守る女であるぞ。
それ、「シンカリオン」の主人公みたい……。
めずらしく現在放送中のアニメのネタやってるなあ、総裁。ヒドイっ。
それはひどくありませんわ。
総裁、そんなに心配かけてたなんて……。ごめんなさい!
謝らずともよい。ワタクシはこの状態を楽しんでおったのだ。途中弱音を吐きたくなったことも、また吐いてしまったこともある。が、ワタクシはみなのこの鉄研総裁であることを、幸せに、嬉しく思うておったことは間違いないのだ。
総裁……。
まあ、別に出展が失敗したところで、これは仕事でもなく命がかかっていることでもない。命は取られぬのだから、楽しんだほうがヨイに決まっておる。


そんなとき、ミエくんからメッセージがきた。大洗駅の駅名レリーフとブラインド作成依頼である。

ミエさん、その時どんな進み具合だったんですか?
うむ、それはミエくんが焦っておるかもしれぬので聞かなかった。たまたま風祭駅モジュールの工作でクラフトロボを使うフェーズになったため、ワタクシはそれに着手することで、間接的にミエくんの工作を加速することを考えた。

ちなみにミエくんの友人からは、大洗駅舎に「ようこそ!」と窓に張り紙をしてあったときの写真が届いた。ミエくんはその再現は無理だと思ったようだが、ワタクシはそれも作り込むこととした。

ミエくんに寸法を測ってもらった。幸いにしてワタクシが感覚的に作図したアスペクト比との誤差は少なかった。ゆえ、作図は楽であった。
そしてテストプリントアウトである。
あ、左側の大洗高校の看板に総裁が!
実際ここの看板にはその時々にいろいろな看板があるようだが、せっかくなので鉄研仕様にしたのである。また窓の張り紙はこの駅名の上、中央の窓に行われていたようだ。それはミエくんの工作にお願いすることとしたのだ。
クラフトロボによるテストカットである。「洗」の字がばらばらにならぬよう、輪郭を太らせて一体化しておる。

出力はここまで成功したので、あとは青い「大洗駅」の字を印刷し、それを縁取るようにカットさせればよい。カットと印刷の位置合わせのためにはクラフトロボの「トンボ」機能を使う。ちょっと久しぶりなのでまごついたが、少しずつ思い出していったのである。

そしてこのようにきれいに大洗駅の文字のレリーフができた。
しかし出来にばらつきがどうしてもできてしまうのだ。ゆえ、30組カットし、ミエくんにそのすべてを送っていいのを選って使ってもらうことにしてもらった。丸投げになるが、ミエくんのほうがそういう眼の力が優れておるからの。
張り紙はこうした。キャラクターは流用であるが、非売品であるから許してもらえるであろう。本来はなんとかオリジナルで作図したかったのだが、その時間はなさそうであるからの。その下の「ようこそ」はポップ体に見えたのでそれを使った。
印刷してもこの程度しか出ない。だが、何かが書いてあるのはわかる。それが大事なのだ。


そしてミエくんから荷物が届いた。塗料であった。

大洗駅のトイレ前の植え込みにツツジが咲いてたんです。それを再現するのにちょうどいい色がウィラー・トラベルのバスのピンク色だった。風祭駅も同じツツジが咲いているから、同じ色使ってもらえればと思って!
いささか手順は前後するが、こうして風祭駅前、かまぼこの里の植え込みにも同じ色のツツジが咲いたのである。
でも……ミエさんの進捗が心配です。
さふであろう。でも、ミエくんも経験少ないシーナリーづくりの不安と戦っておるのはよくわかっておる。ゆえ、あまりせっつくよりも、不安を取り除けるようにしたのだ。


そのため、ミエくんの大洗駅の輸送ケースの製作を我が著者の実家の工房に頼み込んだのである。

ええっ、総裁、すごくもめてたじゃないですか! それなのに頼んだんですか!
まあ、いろいろあったが、なんとか頼み込んだ。
寸法図を書いて説明したのだが、著者の実家は理解しようという気がサラサラない感じであったので、一晩でペーパーのモックアップを作って持っていって、これが収まる箱を作って欲しいと頼み込んだ。

正直、全く取り付く島もない感じであったので怒りゲージは満タンになっておったのだが、そこをこらえたのである。

総裁、そんなことを……。
だがこのペーパーモックアップはこのあと思わぬ活躍をするのだ。結果的に良い方向になったので、作ってよかったのである。
意外と手間かかってませんか?
そこがザクザク作れる方眼入り学校用工作用紙の威力である。怒りゲージパワーを使ってザクザク作れたのだ。やはり現物の説得力は大きいのだ。


実家も動き出したら行動は早い。早速ケースが出来上がったのでミエくん宛に発送しようとしたのだが、何かに包まねば心配である。

そこでクロネコの営業所に行ってダンボールを買って、それをその場でカットしてケースを包む箱にしたのだ。当然誰も手伝ってくれない。隣で発送の受付をしておるロビーで頭を捻り、借りたカッターとガムテープで苦闘してなんとか箱を整形したのだ。正直心が折れかかったが、この程度で心が折れるようではテツ道の成就など望めぬ。「AXIA」の曲を頭の中で思い出しながら、奮闘して発送した。

モックアップはしっかり収まり緊締できることも確認した。あとはモックアップとミエくんのモジュールの間に大きな差がないことを祈るばかりである。
総裁……。そんなことが。
無事、ミエくんから到着、格納試験成功の連絡があった。この箱と共にブラインドやレリーフも送ったので、これでワタクシのできることは尽くした。

あとはミエくんが奮い立ってくれることを期待するのみである。

ミエさん……。
そのとおり、私は奮い立ちました! 輸送の不安をはじめとしたいろいろなものが解決して、これに応えなければ女じゃない! と思いました!
そしてMP(モデラーズパフォーマンス)ブースのIDと配置図が届いた。自由環状線(まぼろしライン)のN先生の手配である。まさに戦いの出場通知、滲んだ文字東京行、である。
中島みゆき「ファイト」の歌詞みたいですね。でもほんと、それぐらい勝負かけてますね。
さふなり。安逸に勝負を避けて怯えて暮らすより、伸るか反るかの勝負にかけて赤い血を流し牙を剥いて生きてこそ命であると思うのだ。たとえその結果倒れたとしても、生きた証を残せることは幸せであろう。それこそこの世に生まれてきたことの意味である、とワタクシは思うのだ。
アツい……総裁、アツいなあ……。でも、その気持ち、ステキだと思う。
それもまたわたくしが総裁に強く惹かれる理由ですわ。
そしてワタクシの風祭駅モジュールの工作も進み、そして第2のチェック、最終リハーサルを迎えるのである。そのエピソードは続くのだ。
アツいなあ……というわけで続きます!!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。

武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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