「嶺咲先輩、お久し振りです。こんな所で逢えるなんて…!」
嶺咲 ウルスラ
「大学で看護実習を受講する事になりまして、赴任地を探すため、こちらに戻って参りました。学校の保健室などで働く事になると思いますので、これからは『嶺咲先生』って呼んで下さいね♪」
「じゃあ、素直な顯様にお願いがあります。これは、あなた様にしか話せない相談かも知れません…」
再会の歓喜とは対照的に、その日の天空は、雷雨を降り注ぐ積乱雲に覆われていた…。
「先日お伝えした通り、今後の総力戦に備えて、東海道の十三宮教会からも、増援軍が派遣される事になりました。それでは各位、自己紹介を…」
「はぁい♪ ピッチピチ19歳JDの看護実習生、嶺咲ウルスラと申します。『先生』って呼んで欲しいなぁ♪ 心身のケアは、ぜ~んぶ先生に任せてね♪」
「考えてみれば、ボク達サイドワインダーってアタッカーばっかりだから、回復要員は助かりますねー」
「皆の力を合わせて、悪い子さん達を殺処分しちゃいましょうね~♪」
黒沢 俄勝大姉 蓬艾
「な…なんたる忌まわしき謀議、私は反対です! 代替の校舎を建立し、そちらに移転して頂ければ、それで済む話ではありませんか?」
曽我部 社長
「すまんが、これは既に決定事項だ。言う通りに実行してくれなければ、罰として君を生□□ホールにしなければならない…」(迫真)
「あのー、私が人間を犯すサキュバスだという事をお忘れでしょうか…と言うか、私と交わりたいならば、素直にそう仰って頂ければ、私はいつでも大歓迎ですよ///」
「私も東山様も、ほかの手段を考えた…だが、こうしなければ『会長様』が許してくれないのだよ…」
ある日のサイドワインダー伊予松山基地司令官室、そこにサイドワインダー伊予松山基地司令石本ユミカ准将が居た。
その時、隊長の鵜久森ミナトが老夫妻を司令室に連れて来た。
司令室に通された絵に描いたような老紳士と老淑女を見て、ユミカは驚いた。
「えぇ、この御夫妻は私だけでなく私の亡き両親とも親交があった『潮風保育園』の園長先生とその御夫人です」
「そうでしたか…お茶とお茶請けのお菓子を持って参ります」
「ユミカちゃんが大好きなお饅頭を持って来たの♪ のぞみちゃんにも食べさせて♪」
ユミカは一礼して菓子折りの饅頭を受け取った。
そして、ミナトが緑茶を園長夫妻とユミカの前に差し出すと、園長夫妻は少し俯き気味になった…どうやら松山基地に来訪した目的は、「ある衝撃の出来事」を伝える為だった…。
「実はな…私達の潮風保育園が全焼してしまったんだ…」
ユミカの両親は駒鳥児童院の前身である白鷺保育園を運営していた。
老夫婦が運営する潮風保育園とも交流があり、ユミカにとって掛け替えの無い場所でもあった。
ユミカが松山に帰省した際には、老夫婦が運営する実家の白鷺保育園と息子夫婦が運営する潮風保育園へと出向き、子供達と触れ合っていた。
実の両親を初等学校5年生の頃(2655・光復七年)に亡くしたユミカにとっては、保育士をしていた息子夫婦には実の両親同様、感謝の言葉しかない。
園長夫妻から聞いた話によると…潮風保育園は全焼し、保育士と児童合わせて18人が負傷、死者は息子さん夫婦を含む保育士と児童、合わせて14人が犠牲または行方不明となった。
犠牲となった児童の中には、ユミカの愛娘である石本のぞみ(年中生)と同い年の児童も居たという。
しかし、捜査に当たった警察や消防は設備の老朽化が原因の火災であるとして事故と判断した…が、本当に事故だとすれば園長夫妻がこちらを頼るはずが無い…。
「園長先生…私達の火災調査報告書によると、これはどうやら放火による火災なんです…」
その後、サイドワインダーが派遣した事故調査チームによると、火災の原因は放火によるものとの結果だった。
「園長先生、御夫人も最近土地に関する話があると噂で聞いたのですが…」
「あぁ…最近『海門重工業』の社長がやって来てな…」
「ふむ…(海門重工業…確か虚人東山軍と裏で繋がっていると噂の強い会社ね…)」
園長夫妻曰く、事を仕込んだのは…海門重工業の社長を務める曽我部という男だった。
曽我部は新規に物流センターと社員寮を建設するべく、土地を安く買い上げていた。
そしてその予定地のど真ん中に潮風保育園があったのだという。
そして…ユミカが睨んだ通り、虚人東山軍と裏で繋がっていたのだ。
しかし、その計画に待ったを掛けた人物が居た…それが潮風保育園の二代目園長である園長夫妻の御子息だったのだ。
「どうでしょう、これだけの値段を出すのは私くらいですよ?」
園長の御子息「ここはこの街の未来を育て支える場所です、売る気は微塵もありません」
(だから…ああいう御方はお金だけじゃ釣れないって、何度も申し上げたのに…)
潮風保育園は文字通り保育園としてだけでなく、虚人東山軍に親を殺害された孤児や、東山備中に孕まされ産まれた子供達が寝食を共にしていた。
ここが無くなろう物ならば、子供達が行き場を失う事を御子息は知っていたのだ。
潮風保育園は曽我部が社員寮付き物流センター予定地と目を付けた敷地の真ん中に位置していた、だからこそ曽我部はその土地を是が非でも手にする必要があったという。
そして、奴は東山備中と共にある事を提案する…それは、潮風保育園を物理的に消し去る事だった。
その曽我部と東山備中は黒沢俄勝を使い、潮風保育園に火を放った…。
潮風保育園は難燃化が為されているとは言え、木造建築…火はあっと言う間に建物全体へ広がった。
更に最悪な事に、火災が発生した時間帯は大半の児童達が就寝していた夜10時過ぎ。
その為に、3階建ての寄宿舎の2階と3階に居た児童達が逃げ遅れてしまった。
息子夫婦は一人でも多くの児童を避難させるべく必死だった…しかし最期は児童を守りながら炎に巻かれ果てたという。
「愚鈍なる人間達よ、良く聴け! 我が名は黒沢俄勝、世界と神への復讐を誓いし怨霊である!」
「…と言うわけなの…折角ここまで頑張って来たのに…なんであんな死に方をしなくてはならないなんて…」
「ユミカちゃん! どうか息子達の無念を晴らして欲しい!!」
「あの保育園は私達の生き甲斐であり子供達の家同然だったんだ!」
「私達が居なかったら…あの保育園が無かったら…沢山の子供達が悲しむ未来しか無かったの…」
「はい…分かります、私もその中の一人でしたから…」
「もうユミカちゃんにしか頼れないの! 私達はどうなってもいいからみんなの仇を!」
「…分かりました、園長先生…園長夫人…是非お力にならせて下さい」
我欲の為だけに、幼い子供までも火焔地獄に突き落とす畜生が…。
「…(地獄の業火すら生温い…この私があなたを煉獄回廊へ直行させる!!)」
そんなに場所取り合戦がしたいならやればいい…地獄の閻魔大王を相手に!!
曽我部の居場所は割れている、偵察用ドローンの成せる技だ。
「司令、今回の任務の依頼者は司令の恩人の方々なんですよね?」
「えぇ、あの人達が居なければ今の私は無かったわ…でも、任務に私情は一枚も挟まない…私達の任務は曽我部の悪行を暴き断罪する…そして園長夫妻と犠牲者の無念を晴らす…それだけよ」
曽我部は、高浜町の自身の邸宅に居た。
ユミカとミナトは偵察用ドローンを回収し、曽我部邸へ潜入すると、唾棄すべき会話が聞こえた。
「いやぁ、良くやったもんだ! 東山様の部下だけあって実行力はあるもんだ!」
東山 備中「部下を見縊ってはいかんでしょ~さぁ飲もう飲もう!」
曽我部はあろう事か東山備中と黒沢俄勝を交えて昼間から酒を飲んでいたのだ、幼い命までも奪っておいて酒を飲むなど外道にも程がある。
それに黒沢俄勝は潮風保育園への放火の実行犯…捕縛は必然的である。
「そこのド畜生達、子供達を殺しておいて飲むお酒は美味しいのかしら?」
「調べは付いてるよ、海門重工業が虚人東山軍と深く繋がってる事を…そしてそれをマスコミにリークしておいたからね」
「さ、サイドワインダーの…司令官と隊長!?」
(…石本様、誠に申し訳御座いません…)
「あなたにもだけど、そこに居る腐れド畜生に裁きを下す為に来たの」
「きょ…虚人東山軍1番隊パートタイム総長(日雇い派遣)黒沢がs…いやぁんっ!」
「はいはい、縄が喰い込んじゃうから暴れないでねー」
曽我部が声を上げても(俄勝の喘ぎ声が響く以外)何も起きない…それもそのはず、ビッチはユミカがすれ違い様に始末し、黒沢俄勝はミナトが既に捕縛していたからだ。
「お前らこんな事をしていいと思っているのか! 俺は海門重工業の社長だぞ!!」
「とんだ寝言を…不正と犯罪で大きくした会社に価値も何も無いわ…」
人間はビッチと違う…悔恨の念の有無を訊く為、問うた。
「あなたは我欲の為に虚人東山軍を使い保育園に火を放ち…多くの罪の無い人達と子供達を焼き殺したわね…?(威圧)」
「全て調べは付いているんだよ…白を切るなら地獄を見せるよ…!!(威圧)」
「あんな餓鬼共の寄り合いが何だと言うんだ! 人口が増え過ぎないように調節しただけだ!」
「だから例の火事も乱数調整だ! ゴミを片付けただけなんだよ!!」
曽我部には悔恨の念がある、と思ったユミカの考えを切り捨てた返答だったのだ。
人間でも畜生なのは変わらない…反省を促しても無駄骨だった。
「それなら此方もそうするまでよ…ミナト…!」
曽我部容疑者を瞬時に無力化し拘束したユミカ達は、サイドワインダー伊予松山基地へと帰投した。
後は軍事裁判の法廷を兼ねた地下監獄にて、曽我部被告人の死刑判決と執行を済ませれば全てが終わる、予定だったのだが…。
「ご…御遺体の数が合わない? つまり、まだ行方不明の子供達が居るって事!?」
「逃げ延びた園児達を、どこに監禁したの!? 答えて! 言わなきゃ中本未玖さんの『シチリアの雄牛改』に放り込んで、エタノール噴射で灰にするよっ!」
(…どうしてサイドワインダーの皆様は、こういう野蛮な刑罰ばっかり思い付くのだろうか…?)
「無理だ、それだけは教えられない! もし言ったら、私も子供達も皆『会長様』に殺される!」
「それって、まさか…東山備中とは別の、黒幕が居るという事…!?」
「…あっ! 行方不明者らしき生命反応を受信しました! 今、座標を特定中です!」
「事件発生から長時間が経過し、子供達の心身は極度に衰弱しているでしょう! 医学の専門知識が必要ですので、先生が現場に向かいます!」
「ありがたいけど、四国の地形に慣れてないと足手まといになりかねないから、ミナトが先導して!」
「…ですから、惨事を止められなかった責めは甘受します! しかし、私は実行犯ではありません! 北東京総督府に『虚人東山軍の内情を探って来なさい』と命じられ、潜入していただけです!」
「鳥羽魅兎に確認したが、俄勝が総督府の工作員である事は確かなようだ。けれど…事件発生時刻に、現場であなたの犯行を見聞したとの目撃証言があって…」
「私を陥れるための、偽者です! 恐らくは、備中様が私に擬態していらっしゃったのでしょう…」
「潮風保育園へと通ずる道路の防犯カメラに、がーたんの姿は映っていなかったよ! それに…そもそも豊乳が敏感な弱々がーたんに、こんな悪い事をする度胸は無いと思うよ!」
「僕達も、あまり俄勝様を疑いたくないんですが…でも一応、俄勝様は有能な妖魔だから、証拠を残さずに行動する事もできそうだし…何か、もっと確実なアリバイは無いのですか?」
「…あ、ありました! 犯行時刻に私は(空腹だったので)社長室で曽我部様を食べておりました! 社長室に仕掛けた盗聴器を調べれば分かります! 私が誘って襲って犯したのです、信じて下さい!」
「…いや、そんな行為を堂々と報告されましても…まあ、一応アリバイにはなる…かも知れませんね」
「どうも曽我部様は、備中様以外の御方とも密談されていた様子でした。御本人に直接、確認なされたほうが良いかと思います。曽我部様も、どなた様かに脅されていたのかも知れません…」
「分かりました。もう一度、あの社長を問い詰めます!」
「曽我部様は、確かに許されぬ罪を犯されましたが、すぐ隣に居ながら止められなかった私にも、重き責任が御座います…どうか、曽我部様だけを厳しく責めぬよう、お願い申し上げます…遊火様!」
「その名前は『あの日』に捨てたはずなのに、どうして知っているのですか…?」
「か…会長様! 助けに来て下さったのですね! はい、全て命じられた通りにやりました!」
「最高でしたよ! あの『俄勝』とか名乗ってやがる淫乱ノーパン売女、只でやらせてくれる上に、パンツ代わりに濡れ衣を着てくれました!(笑)さあ、早く司法取引に持ち込んで解放して下さい!」
「は~い♪ 社長閣下が楽になれるように、今から最善を尽くしますね~♪」
「それで、どれぐらい待てば自由の身になれますか!?」
「もうすぐですよ、曽我部社長閣下…いえ、私達『MS会』の、特別賛助会員様…ふふっ♪」
【会則】第445条
会長は、その天命を終えた会員に「救済」を授ける。
「…お願い、どうか間に合って…! 行方不明の園児達を全員、必ず助けるからね…!」
室内の電線で首吊り自殺を図り、感電死した曽我部死刑囚の遺体が発見された…。
「あと少しで黒幕に辿り着けたのに、真相は社長の死で封じられてしまいましたね…」
「陽あらば陰あり…光と闇、善悪は表裏一体という事です」
「黒幕の狙いは土地ではなく、私にとって家族同然の人々を殺める事、それ自体だったとしたら…ならば真犯人は、私の生い立ちを知り、そして私を怨んでいる者…!」
「ええ…そして、嶺咲さんを始めとする十三宮軍の皆様、このたびは協力ありがとう御座います」
「いえいえ…人々の幸せを成し遂げるためならば、お安い御用ですよ~♪」
「我が父上様の仇、石本ユミカ…奴の憎らしき家族らが、私の眼前で生き長らえた挙げ句、この私に…あんな幸せそうな笑顔を晒すなんて、絶対に許せない…私がこの手で、燃やしてやる…!」
結成以来、ほとんど連勝無敗を誇って来たサイドワインダーが今、恐るべき罠に蝕まれつつあった…。
「私は、東山あずさ…我が偉大なる誇らしき父上、東山備中様の長女。その血と業の継承を以て、誰よりも父上様に愛される世界を約束されし者…」
その後、ユミカは私財を投じ、潮風保育園を木菟児童院として再建した。
また、倒産した海門重工業は、医療法人「嶺咲会」に買収され、社会福祉事業に取り組む事となった。
「園長先生、園長夫人…息子さん達の遺志は受け継がれていますよ」
これはユミカにとって、思い出の場所を失いたくない自身のワガママでもあった。