九州伝承篇 龍宮の呼び声
文字数 4,956文字
十三宮 瀨紲
「琉球諸島での修学旅行、御苦労様でした。本日は事後学習として、皆さんのレポート課題を発表して頂こうと思います」
「はい! 私達は沖縄島の儒艮と、世界の人魚に関する伝説を調べました!」
「儒艮は海牛類(哺乳綱 海牛目)に属し、浅海に棲息する動物ですが、人魚との関わりが深い海獣の一つとも考えられていますね」
「そうなんです。人魚は、オリエント西アジアのフェニキア・バビロニアや、ヨーロッパのギリシャ神話、東アジアの中華・日本など、世界に広く居ります。特に、フェニキアのダゴン様は、海の民ペリシテ人に信仰されていた神様で、古くは『旧約聖書 士師記』に登場され、現代の幻想文学でも知られています」
「また、ギリシャ神話のトリトン様という御方も、半人半魚の神様です。海神ポセイドン様の御子であり、海王星の第一衛星にも名付けられています。そして、琉球王国の儒艮は、波浪を操り、津波を予知する海の精霊、龍宮の人魚であり、その肉体は人間に長寿を授ける…と謡われています」
「さすが(我が最愛の)仁さん、意欲的に調べてありますね」
「私もいつか、人魚さんと話してみたいなって思いました。そのためにも、水の自然環境を保全する事が大切です。以上です、ありがとう御座いました^^」
「では次に、西日本からオンライン参加の学生さん達に、中継を繋ぎます。カメラ配信のチャンネルを、瀬戸内海に切り替えて…あれ、映らない?」
橘 真琴「ナビリアストラ! 非常事態だ!」
「どういう意味? 最近、九州沿岸の船舶が、原因不明の海難事故に遭っている、という情報は入っているけれど…」
「人工衛星のレーダーに、九州が映らない! 通信も全て、圏外になっている! 島自体が海に水没でもしない限り、こんな事にはならないはずだ!」
「そんな…西海道には、私達の大切な仲間が、何人も居るのに…!」
「かげっちゃん! もう時間がありません! 早く撤退しましょう!」
瀬笈 緋夏麗
「恐らくは、巨大な津波が九州に直撃したのでしょう…ですが、事前に津波警報が全く無いなんて…」
「琴浦さん、あなたは水に詳しいのだろう? 何か、分からないのか!?」
琴浦 雫「この津波…普通の地震や火山じゃないし、台風でもなさそうね。大きな隕石が海中に落ちたか、水上ジャンヌが本気で暴発したか、あるいは…」
「…駄目です! 大宰府にも、四国にも無線が通じません! とにかく高い所、できれば九州山地のほうに避難しましょう! 総員、退却です!」
「…ん? 今、向こうにエルンストが居たような…!」
「何をしているんですか!? 戻っちゃ駄目だって防災訓練で習ったでしょう! このままじゃ、あなたまで逃げ遅れて…って、なんですかあの波は!?」
「あんな大きな津波、物理学的にあり得ないはず…こうなったら、あの空間それ自体を斬撃するしかない! お願い、間に合って…!」
「斜め上から、大きな水塊が降って来る…! かげっちゃん! 避けてっ!」
私、花月地院陽成はとても不思議な体験をした。ざぱーんっと、海水が波を立てた。実際に濡れた感触もあるし、いつも着ている法師の格好だ。
取り敢えず濡れたままで居ると風邪を引くと思い、近くの洞窟に入った。
呪符は濡れていなかったので、落ちていた木々を集めて火を起こした。
幽閉されていた期間が長かった為、地理に疎い陽成であった。
暫く、焚き火を点けたまま服を乾かしていると何かが近くに寄って来た。
身の危険を感じ、呪符を取り出した。
実物を見るのは初めてだが、こんなに美しい者なのかと感心していたら、
「それは火だよ。触ると手が痛いから触っちゃダメだよ」
人魚はちゃんと忠告を聴き、火を眺めながら問い掛けた。
人魚が話すにはここの集落の人間は、人魚の鱗を加工してそれは幸せを運ぶ物として売っているらしい。
だが、利益欲しさに乱暴に剥いだり、乱獲をしている人が現れているらしい。
「でもわたし達もね、漁船襲ったりとか網破いたりとかして人を困らせているの」
「こうやって話ができるんだ! 話し合えばきっと。。」
「じゃあ考えてあげる。。。。んと。。。。えーーっと。。。」
「海星、人間って悪い人かも知れないけど、ちゃんと向き合えばお互い悪い事はしないんじゃないか。。。?」
「陽成。。でもね、もうやってしまった事は変わらないんだよ。。。。」
「集落に案内してくれ。海星は危なくない範囲で大丈夫だ」
長い時間話していたのだろう、波は緩やかになっており晴れていた。
沖沿いを歩いて行くと、集落を見付けた。
「陽成、わたし来られるのここまで。。。じゃあ待ってるね。。。」
「花月地院陽成だ! 鱗を売っている所を知りたい教えてくれ。。!」
「こんな所まで御足労頂きありがとう御座います。加工場と販売店はこちらです」
(いつどの時代でも花月地院は残り続けてるんだな。。。。いやな者だな。。)
少女の道案内に従い付いて行った先に、繁盛しているお店があった。
当たり前のように鱗を加工してネックレスや、ブレスレットにしていた。
「か、花月地院様、一つお願いがあります。聴いて頂けないでしょうか?」
「その幸せを運ぶ鱗が最近取れなくなっており、このままでは集落が持ちません。。。」
「人魚は漁船や海産物をめちゃくちゃにして困っているんです!!」
「おおおーい!! 大物が取れだぞ!!! 人魚だ! 鱗剥げ!!」
「何を仰います! 人間を襲うのですよ! 丁重になど扱っておられますか!」
「黙れ。。やめろと言ったらやめろ。。この私を誰だと思っている!」
捕まえられる時に乱暴に扱われたのであろう、ところどころ怪我をしていた。
「そう友達とは助け合う者だ、だから私は海星を助けた」
「それでは集落は成り立たんと言いたいのか? 確かに人魚も人魚でやり過ぎな所はある」
「やったらやり返すを繰り返すからお互いを貶めてしまうのだろう?!」
「特産物を売りたいなら、人魚が嫌な思いをしないよう譲り合えばいいじゃないか。。!」
「確かに。。人魚は脱皮をするからその鱗なら痛くないし加工し易いと思う。。」
「えっと。。。脱皮した鱗なら大きさも全部揃うし。。脱皮中は鮫とかに襲われ易いから、その時助けてくれたら嬉しいかも。。。」
「陽成が言ったでしょ、今脱皮の時期だからわたしがしてみせる」
「海辺まで行って見ていよう。それなら文句ないな?」
浅瀬に行くと海星の肌に皹が入った、冷や冷やしながら見ていたが綺麗に尾鰭まで剥けると売り物と同じく光り輝く鱗が付いていた。
「ピンクの鱗は少なくて、それに縁に緑はもっと数少ない鱗の一種なんです!!」
「でも、匿うってどうやるんですか。。。?」
「浅瀬に網を貼ればいいだろう、そうすれば浅瀬で取れる食料は確保できるだろ」
そうやって海星が体を張ってくれたお蔭で、集落の存続や人魚の乱獲はすぐに減っていった。
暫く海星の調子を見た後、私は人魚に人間ともやって行ける方法を見付けたからお互い助け合って生きて行こうと提案した。
中には私を襲おうとした人魚も居たが、海星が止めてくれた。
海星は、この群れの中の長だったようだ。
お互い憎まずに済んだら、こんなに幸せなのかと海を見ていた。
すると、浅瀬まで来ていた。
「でもね、陽成はまだ居なくちゃいけない所があるんだよ」
「陽成がこれからも幸せで居ますように! またね!」
手を開くと、ピンクの鱗に縁が緑になっているネックレスがそこにあった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)