鵜久森 ミナト
文字数 7,419文字
あの頃のボクは"強さ"の意味を履き違え、粗暴に振る舞い、皆から嫌われていた。
2666(光復十八)年、一学期。
当時、中等学校2年生だった鵜久森ミナトは、同い年の双子、松山なつき・いつき姉妹と出逢った。
弱肉強食の鬼畜生地獄を戦い抜いて来た彼女らは、盗賊の襲撃などで混迷する四国の平和を取り戻すため、義勇兵チーム「サイドワインダー」を結成した。
やがて彼女達は、南海道を代表する陸海空軍へと成長し、鵜久森ミナトが、その空戦隊長を務める事になった…。
「…っ!(刀も折れた…銃も弾切れ…能力再使用まで時間がっ…もうダメ…私はここで…っ!)」
その後、例の提督は、ミナトちゃんの手でサイコロステーキにされましたとさ。
通常のサイレンでは、空襲警報・緊急発進と誤認される恐れがあるので、サイドワインダー伊予松山基地などの時報には、楽曲を自動演奏する「音楽サイレン」が採用されている。
この音楽サイレンによる時報は、普段は6時・12時・15時・17時の4回に流れる事が多く、それぞれ異なる曲が再生される。
例えば、朝6時の音楽サイレンは、
「…と言うわけで、ようこそ新任士官ちゃん! キミも今日から、我らサイドワインダーの隊員だよ! 基地での一日を教えてあげるから、一緒に付いて来てね! 最後まで頑張ってくれたら、ボクが褒賞をあげるかも…♪」
午前6時、音楽サイレン『野薔薇』の音色が響き渡る頃、サイドワインダー伊予松山基地の朝は始まる。
訓練生・士官・幹部らは2分以内に遅れず、正面玄関前に集合しなければならない。
総員点呼の後、準備体操、そして隊旗の掲揚、最後に"掛け声"を全員で叫び、サイドワインダーの一日が始まる。
2669(光復二十一)年4月、瀬戸内海は未曽有の大きな戦禍に襲われた。
国際関係の激変により、九州の「日本帝国」と、中國地方の「山陽軍閥」が武力衝突し、全面戦争へと突入したのである。
九州・山陽の双方と交流して来た四国は、中立を宣言した。
ところが…開戦の混乱に乗じて、例の盗賊「虚人東山」が(また)出現し、伊予
日課の朝礼を早急に済ませ、指令室へと移動したサイドワインダーの皆を前に、鵜久森ミナト大尉が作戦を説明する。
「作戦を説明するよ、今回の任務は伊予
伊予松山・
早期警戒機は常に4機が飛んでいて、残り4機はトラブルシューティングに備えて待機している。
このうち松山基地の早期警戒機は九州と西中國地方の空域、高松基地のは東中國地方と近畿の空域を監視する事もある。
鵜久森ミナト隊長の「
四国4県が2機ずつ保有する早期警戒機8機のほかに、 松山基地と徳島基地は「
空中管制機とは、旅客機を改造してレーダーを搭載し、 上空から戦闘を解析・指揮するシステムを持つ機体である。
この管制機は高額なので、日本帝国総督府や国際刑事警察委員会の機体を共同利用し、 四国のみならず九州と中國・近畿の任務にも出撃している。
サイドワインダーに入隊し、 士官になった隊員は必ず遺書を書かなくてはならない。
例えば訓練や任務、 東山備中との戦闘などで命を落としたり、 東山備中に穢され最悪自ら命を絶つ事もあるからだ。
各基地には、任務や戦闘、そして東山備中に穢され、志半ばで命を絶った隊員の慰霊碑が
『悲劇に遭った魂よ、健やかに天に昇って下さい』
サイドワインダー伊予松山基地 戦没者慰霊碑
『悲劇の御霊よ、どうか安らかに眠って下さい』
サイドワインダー讃岐高松基地 戦没者慰霊碑
四国は、中央構造線の四国山地で南北に分けられるが、 北四国(伊予・讃岐)の犠牲者が多いのは、瀬戸内海に面し、盗賊の襲撃を受け易かったからである。
その受難を堪え忍んだ末に、本州連絡橋の再建を成し遂げた今、伊予松山と讃岐高松は、サイドワインダーで1・2位を争うほどの、高い練度を誇る基地へと成長している。
険しい地形に阻まれた南四国の阿波徳島・土佐高知基地は、北部よりは復興が遅れているものの、実力が拮抗している。
午前課業終了時刻を知らせる、正午12時の音楽サイレンには、
「…(。・・。)ぼぉ~」
【ミナトの回想】
「うー…」
【現時点】
「あ、ミナトさんっ…」
「あ、ありがとう御座います…///」
サイドワインダーの隊員達は、四国の初等学童(特に女子)達の憧れである。
「私、松山なつきさんに憧れてるの! かっこいいしキレイだし!」
「私は…隊長の鵜久森ミナトさんっ! レーザー剣の二刀流で、あのBIT達を一人で倒しちゃうんだもんっ!」
基地のイベントでは、各隊員のサイン入りブロマイドが販売されており、松山姉妹と鵜久森ミナト隊長が一番の売れ筋だそう。
「…えぇっと、それは…///」
敵軍の侵入は、未然に阻止できれば最善だが、万が一にも上陸されてしまった事態を想定し、四国の集落(特に都市)は、ある種の総力戦体制を構築している。
具体的には…電柱に対空砲を装着したり、ガトリング搭載バットを持参させたり、ランドセルやバッグにミサイル発射機を仕込んだり…等々。
初等学校の児童達も、敵襲に備えた防空教育を受けている。
虚人東山の盗賊提督東山備中容疑者(略称BIT)は、初等学童の(可愛い見た目に反した)エグい迎撃により、その場で死刑執行され、無事に即死した。
なお、週末のrespawnには間に合う模様。
サイドワインダー隊員に聞いてみた!
ハーブキャンディー・ガム篇
サイドワインダーの基地は、実戦に出撃するだけでなく、寮生活しながら軍隊教育などを修める「士官学園」であり、所属する学徒は候補生・士官・幹部に大別される。
「訓練候補生」はセーラー服を着用し、初等5・6年~中等1年生が多い。
「士官」は灰色ブレザーで、主に中等2・3年生。
そして高等1~3年生には、黒ブレザーと「幹部」資格が与えられる。
20歳未満の学徒隊員が圧倒的に多く、飲酒・喫煙は少年兵の健康に悪いので、彼らも飲食できる嗜好品が人気である。
例えば…お酒の代わりに炭酸飲料、煙草の代わりにキャンディー・チューインガムという具合。
サイドワインダー基地の購買部で販売されている、名物の一つ「ハーブキャンディー」は、蜂蜜味で数種類のハーブエキスが配合されており、少なくとも26種類の銘柄がある。
もう一つの売れ筋「ハーブ・ミントガム」は、ミント味を始め10種類のハーブエキスが配合されており、ハーブキャンディー同様に複数の銘柄があり、特に風船ガムバージョンが人気。
訓練生(セーラー服)や、一部のグレーブレザー士官には、ハーブキャンディー・ハーブガムが苦手な子達も居る。
「私は…キャンディーだと『インパルス』。純粋にハーブの風味を楽しめる、10種類のハーブエキスが配合されたキャンディーかな。ガムだと『ソニックブームバルーン』。レモン味で、10種類の風味が強いハーブを配合した風船ガムだよ」
隊旗降納時刻である17時、最後の音楽サイレン『夕焼け小焼け』が鳴り響く中、基地の軍旗を降ろし、 サイドワインダーの一日が終わる…と思いきや、民間人(中等1年生と初等5年生の姉妹)から救援要請!
懲りずに復活しやがった某BITに追われ、身を震わせ隠れているとの電波無線を受信し、現場に最も近い鵜久森ミナト大尉が救助に向かった!
上陸した某BITに追われている姉妹、二人はスーパーのバックヤードの物置に隠れていた。
両親は二人を逃すためにBITの犠牲となり、「どこか隠れられる場所があるはず」と思い、近所のスーパーのバックヤードにある物置へと飛び込み、隠れる事にしたのだった。
「…大丈夫、私達はずっと一緒だから。もしあの海賊達に見付かっても…最期まで一緒だよ」
ガンッ!
ガンッ!!
「っ…!(う、嘘っ?! 開かないようにしているのに…
「お姉ちゃん…怖いよぉっ…私達…あの怖い海賊さん達に…!」
その刹那、誰かが何者かを蹴り飛ばす音が聞こえた。
そして、ドア越しに声を掛けて来た。
声の主が分からない中、姉は勇気を出し、扉を少し開けて問い掛けた。
姉妹はドアを開けてミナトに駆け寄った。
そして二人はミナトの腕の中に飛び込み号泣した。
「もしお姉さんが助けに来てくれなかったら…私達…今頃…っ」
かくしてBIT海賊は、無事サイコロBITに転生した。
なお、もう間に合わん模様。
鵜久森大尉が友軍に合流すると、関東の軍需産業から四国に派遣された参謀の土御門綺音が、やや機嫌の悪い猫みたいな顔で歩み寄って来た。
もちろん、非番の時は外出も許可されているし、外出も門限までに戻れば大丈夫だが、最低限の武器の携帯は必須。
「ミナト隊長っ…わ、私と…一緒に
「私…隊長と一緒に外出したくて…ダメ…ですか?」
「やった!」
「ふえっ…/// み、ミナト隊長っ…///」
「はい…///」
「はぅぅ…///(わたし…ミナト隊長に抱かれてる…/// なんだかあったかくてふわふわする…/// このままミナト隊長に溺れたい…///)」
12月31日の23時50分には、手動操作の音楽サイレンとして、
「どうも、サイドワインダー伊予松山基地隊長の鵜久森ミナトです。士官ちゃんと相部屋になってますが、任務や訓練のほかにも、夜になると士官ちゃんが、『抱いて』と迫って来てタヒんでます。でも、頑張れるし頑張ります。何故なら□□□が好きだから」