鷺原 イズミ
文字数 19,233文字
※このエピソードには、やや生々しい津波災害などの描写が含まれています。
PLANET BLUE SIDEWINDER
鷺原 イズミ
サイドワインダー零
旧日本国家の壊滅後、瀬戸内海に出没している犯罪組織「虚人東山軍」と、彼らと戦い続ける四国の義勇軍「サイドワインダー」。
これは、本篇の3年前に起きた戦争と、そこに参陣した少女達の軌跡を中心に、サイドワインダー結成の歴史に迫る物語である…。
2649年(光復元年)6月に日本列島を襲った、太平洋巨大津波。
分裂した小惑星の破片が、隕石雨として地表に降り注ぐ中、太平洋などの海にも隕石が落下し、大きな津波を引き起こした。
この巨大津波により、高知平野の集落は完全に壊滅し、徳島平野も半壊。
当時、四国を独裁的に支配していた山田主席は、逃げ惑う住民達を見捨て、私物化した財産を持ち去り、真っ先に逃亡してしまった。
この日「高知県」は消滅し、県民の大半が亡くなり、辛うじて逃げ延びた人々にも、苦難の歳月が待ち受けていた…。
こんな「怖い話」がある。
ある時、虚人東山軍の一味が土佐地方(旧高知県域)を襲撃した…のだが、何日経っても、誰も帰って来なかった。
後日、全員の遺体が発見された。
不毛の土佐に攻め込んだものの、そこには襲う人間も、奪う食糧も無く、飢えに追い詰められた彼らは、仲間割れの果てに、全員が餓死したのであった。
こんな『死国』に人々が安住できるはずも無く、未来ある子供達を優先的に、本州や九州へと避難させる作戦が進められていた。
その土佐で戦い、決死に生き残っていた住民達の中に、鷺原家の姿があった。
「…もう、これ以上は乗れません! お子様を優先して下さい!」
「ママぁ! パパぁ! どうして、一緒に来てくれないの!?」
「東山の増援軍が接近中ですって!? もう時間がありません! 出航します!」
「このまま土佐に踏み留まっても、皆が死んでしまうだけです! 子供達だけでも、疎開させるしかありません! さあ、脱出します!」
敵襲の警報が鳴り響く中、轟音と共に急発進し、手を伸ばした先の土佐湾が、見る見る遠くなって行く。
それと共に、幼き少女の僅かな記憶も、置き忘れたように薄れてゆく。
少女の心に残ったのは、土佐に踏み留まった両親の面影と、「土佐を離れ、海の彼方に別れても、強く健やかに、幸せに生きて」という、最後の言葉だけであった…。
「それが…言葉を覚えるには幼過ぎる上に、眼前で両親を襲われたショックで、記憶が錯乱しており、とても会話できるような状態では…」
「分かりました。ならば本日より、あなたの御名は…」
嶺咲 ウルスラ
「…カナタ様、十三宮カナタ様! 大丈夫ですか?」
十三宮 カナタ
「…あ、ウルスラ先輩…」
「睡眠不足は、若い乙女の敵ですよ。睡眠薬と、必要ならば精神安定剤を処方させます。カウンセラーにも、話しておきますね」
十三宮 瀨紲
「そうですね、用意しておきましょう」
「先輩はね、カナタ様のような、可哀想な弱き者を救済できる大人になるため、この教会で修行しているのです。だから、何でも相談して下さいね…!」
「カナタ様を棄てた御両親など、もう生きてはいないでしょう。辛い過去など、忘れなさい。天主の神様と私達を信じ、未来への現在を…今を生きるのです!」
あの日、土佐湾から太平洋に「放流」され、黒潮海流に乗って東海道へと漂着した少女は、現地の教会孤児院に保護された後、その僅かな記憶から「十三宮カナタ」と名付けられ、この日に至っている。
比較的、平穏な生活を送ってはいるが、記憶の彼方に眠る両親の面影を、どうしても忘れる事ができない…。
「一人で眠るのが寂しい夜は、めぐちゃん達も一緒に寝てあげるよ! 明日は、念々佳ちゃん達も遊びに来るよ! カナタちゃんは、一人じゃないんだよ^^」
「仁さんの言う通り、困った時は助け合うよ!」
(※この黄色い吹き出しが「夢小説主人公」の台詞なので、ここに感情移入する事を推奨します。名前・性別などは、御自由にどうぞw)
そんな十三宮カナタの人生に、大きな転機が訪れようとしていた…。
時は、2665(光復十七)年。
無政府状態の四国を防衛し、壮絶な全滅を遂げた義勇軍「旧ハンター中隊」の、唯一の生き残りである石本ユミカ中佐(大学3年生)が、旧愛媛県域を制圧し、松山市を臨時首都とする軍事政権、伊予軍政府を樹立していた。
そして翌年、2666(光復十八)年。
軍備を固めた石本大佐(大学4年生)は、分裂・内乱状態の四国を統一するため、最終段階の作戦に着手した。
伊予軍政府は、北四国(伊予・讃岐)をほぼ平定しているが、南四国(土佐・阿波)には、未だ虚人東山軍の占領地域がある。
特に、土佐で繁殖している「東山備中T型」は、女性を襲わなくても無性生殖できる変種であり、人間への感染力は低いが、脳容積が大きくて悪知恵が働き、社会に対する重症化リスクは甚大である。
石本 ユミカ
「…この部屋、大昔は天守閣だったそうよ。今は見ての通り、事故物件みたいな廃墟だけれども」
大城 エリザベス 椿姫
「城だったと分かるだけ、まだ良いではありませんか。讃岐高松などは、もっと酷い情況ですよ」
石本大佐は、税を私物化していた山田主席とは異なり、自らの権力を誇示せず、住民の福祉を優先しようと心掛けていた。
伊予軍政府の臨時基地である松山城跡地も、総司令官の「城」とは思えぬほど質素で、荒廃したままである。
倹約して浮いた予算を、将兵と軍需品の確保に充当していた。
「…さて、既に話した通り、高知の虚人東山軍を南北から挟撃し、土佐を奪還するわ。特に北部戦線は、シスターリズの協力が必要不可欠よ」
「はい、最善を尽くします…ただ、私達のダイバー中隊も再建途上ですので、人員が…やはり、例の鵜久森ギャングを動かさざるを得ないのでしょうか…?」
鵜久森団、正式名称「高松十字会」とは、虚人東山軍に対抗して、北四国の中等学生らが結成した、武装不良集団である。
「弱肉強食」「毒を以て毒を制す」という価値観に基づき、虚人東山軍への報復テロ行為を繰り返している。
しかし…敵の死体を切り刻んで晒し者にしたり、手柄のために味方を見捨てたり、第三者を巻き込む無差別攻撃など、あまりにも猟奇的な「正義」を執行しているため、住民からの支持を得られていない。
その団長と目されているのが、鵜久森ミナトという血気盛んな女学生(中等学校2年生)である。
「鵜久森団の子達が、東山軍の奴らを殺してやりたいって思う気持ちは、痛いほど分かるけれど…」
鵜久森団の中には、東山備中の「血」を憎み、彼(彼女?)に襲われた女性や、その間に生まれた子供を敵視する者も居た。
そのため伊予松山を統治する石本大佐は、鵜久森団の活動を規制したが、彼女らは讃岐高松に逃れ、暴力的な活動を続けている。
「敵の敵は味方、とも言います。鵜久森ギャングと虚人東山軍、両者を潰し合わせ、共倒れになって頂くのが、良いのかも知れませんね…」
「そうね…これは戦争、利用できる者は利用するわ。でも、いつか…」
「鵜久森ギャングの者達にも、回心の機会を与えねばなりませんね…エイメン」
若い女子学生だらけの鵜久森団が暴れ回れば、欲望の塊である虚人東山軍を陽動できる。
その隙に、土佐高知へと進撃できれば…!
「そこで重要になるのが南部戦線、土佐湾から高知平野への上陸! これには海軍艦艇など、多大な兵力が必要ね」
「こればかりは、四国だけでは足りません。日本中・世界中から義勇兵を集めると共に、軍需産業にも支援を求めましょう」
土佐高知では、虚人東山軍に誘拐された住民らが、人質として強制労働させられている…との情報もある。
国内外あらゆる勢力に助けを求め、速やかに準備を整え、一刻も早く作戦を決行・完遂せねばならない!
「恐らく、少なくない犠牲が出るわ…死傷者を一人でも減らすため、救護活動を担ってくれる人達も大切ね」
「そういう事ならば、私達のネットワークにお任せ下さい。人道に関しては、熱心な教会が多数、御座います。早速ですが、信頼できる所に連絡しますね…」
そう言って、讃岐高松の大城エリザベス大佐は、胸元の十字架を握りながら微笑んだ。
「…はい、畏まりました。では、土佐に教会騎士団を派遣致します。大城様にも、どうか天主の御加護がありますよう…エイメン」
遂に、この時が来てしまった…と、その司祭は思った。
司祭は、自分の妹として今日まで育てた十三宮カナタに、全てを話した。
「十三宮カナタ」は仮の幼名で、真の実名は、土佐に残った御両親と再会した時に、名付けられる約束だったという事。
その土佐を奪還するための上陸作戦が、間も無く始まろうとしている事。
そして、カナタの両親は…死亡している可能性が高いものの、土佐の地で生存している可能性も、僅かながらゼロではない…という事。
全てを知らされた十三宮カナタは、予想通りの反応を示した。
「…聖お姉ちゃん、私…土佐に帰りたい。お母さん・お父さんに、逢いに行きたい!」
「カナタさんの気持ちは分かるけど、今の土佐に向かうのは危ないよ! 連合軍が高知を制圧した後のほうが、安全なのでは…」
「それじゃ、間に合わないかも知れない! 私は、この手で両親を助けたい! お姉ちゃん、お願い! 私に、土佐奪還の先陣を切らせて下さい…!」
「…止めても無駄でしょうから、止めません…が、これは大規模な戦いであり、命懸けの任務になります。私達が全身全霊を以て、カナタちゃんを護ります!」
禅定門 念々佳
「私も一緒に行くよ、カナタちゃん!」
「勇とウルスラ様も、此度は宜しくお願い申し上げます」
「実戦経験を積めるなんて、私としても好都合よ。やってやるわ!」
「そして…あなたは分隊長として、常にカナタちゃんと行動を共にして下さい」
17年前の巨大津波で壊滅し、復興せぬまま放置されていた高知城下町。
その地下に、虚人東山軍のアジトが張り巡らされていた。
山田 ランスロ 玉子
「うぅ…何故、こんな所に某が監禁されねばならぬのだ…ママぁ、助けて~!」
夢宮 魅咲
「…私達、このまま死ぬのかな…」
黒沢 俄勝大姉 蓬艾「お二方、お静かに。御膳を持って参りました」
「お前は、東山軍のサキュバス…さては某に、あんな事やこんな事をするのだろう! エロ漫画みたいに!」
「はい、その方向で前向きに検討しております…が、もう少し揉み応えが欲しいですね~」
黒沢俄勝は、周囲に自分以外の一味が居ないのを確認してから、静かに口を開いた。
「…間も無く、反東山連合軍が土佐に総攻撃を仕掛けます。この場所も、混乱状態に陥るでしょう。その隙に、お逃げ下さい…」
そう言って食膳を置き、囚人達の凍えた体を(自慢の爆乳で)癒した俄勝は、立ち上がって着衣を整え、廊下の奥へと戻って行った。
東山 備中
「俄勝、御苦労だなぁ!」
「そんな淫乱な格好の癖して、礼儀だけはお上品なんて、抜け目ねぇ女だなぁ」
「んふふっ…お褒めの御言葉、ありがとう御座います。ところで備中様、近頃は女遊びが御無沙汰のようですが…宜しければ今宵、私を抱きませんか?」
驚くべき事に、その「東山備中」は、サキュバスである黒沢俄勝に誘惑されても、全く動じていない様子だった。
「おいおい…この俺を、あんな頭わりぃ『オリジナル』と一緒にしねぇでくれ。俺達は『タウ型』だ。衝動的な情欲じゃなくて、冷静に知能で勝負するんだ!」
(…東山備中タウ型は、女人と交わらぬ無性生殖で一味を殖やす。色欲が衰えた分、頭脳が強化されている…)
「俺達が直接、女共を犯したりするよりも、奴らを遊郭で奴隷労働させてよ、そこの客から金を巻き上げたほうが、遥かに効率的な商売だと思わねぇか?」
(うわぁ…これは、元の備中様より質が悪いかも…)
「なるほど…では、囚人への配膳、並びに食後の回収が残っておりますので、そろそろ失礼致します…」
「貴様が、敵に内通している事は分かっている。余計な真似をすれば、人質の命は無いと思え」
山陽道 周防県 長門郡 宇部市
﨔木 夜慧
「…うわぁっ! また負けたよ…未玖ねーちゃん、お前は本当に強いな!?」
中本 未玖
「え、そうかな…?」
「次は何しよっか? 人狼ゲームなら、負けないぞ!」
「ごめん…そろそろ安芸(広島)に帰らないと、彼に怒られちゃう…」
「そう…今後こそは、私を殴ったりしない人だから…」
(フラグ)
「俺は別に、気が合えば誰でも良いんだけどさ、たまに思うんだけど、いっそ女同士のほうが楽なんじゃね?」
「それはそれで、きっと本人達にしか分からない悩みがあると思うよ」
「私、飛行機に乗るの好きだから、宇部空港かな。工学を専攻したのも、機械に関心あるからだし」
「大学4年、確か…四国の偉い人と同い年だったはず。来年には、就職かな?」
「未玖ねーちゃんも俺みたいに、戦闘機の免許を取らないのか? てかさ、そんなに飛ぶのが大好きなら、空軍にでも入れば良くね?」
「私に軍人なんて、向いてないと思うけど…私は、どちらかと言えば、強さを求めるよりも、弱い子達を守る人になりたいな」
「じゃあさ、弱い奴らを守るために、強くなれば良くね?」
「ふふっ…まだ一年生なのに、最近の中等学生って鋭いね」
3年後には、﨔木夜慧と共に早期警戒機などで活躍している中本未玖も、当時は就活生の一人に過ぎなかった。
「…ん? あれ、知らない奴からメールが届いた…なんだこれ、アメリカ軍が…とか書かれているけど、何か事件でもあったのか?」
美保関 大宰少弐 天満
「あーあ…海路での長旅は、豊かな胸が凝っちゃいますね~。分隊長さーん、ちょっとあたしの爆乳を揉み解してくれませんかぁ~? お願いしますぅ~♪」
「あー、もう! さっきから人使いが荒いな…立場の違いを分からせてやる!」
「あははっ♪ ざーこ! こんな事でしかイキれない隊長、かわいそぉ~♪ でも、そんな隊長が好きですよ(はぁと)」
(じーっ…このカップリングは、ちょっと賛否が割れそう…)
私達、十三宮カナタを先陣とする十三宮教会に、義勇兵の禅定門念々佳らが加勢した連合軍は、相模(神奈川)横須賀市からアメリカ連邦の航空母艦に搭乗し、四国へと向かう事になった。
この艦隊は、表向きには横須賀から琉球諸島に帰る設定だが、途中で四国方面に急北上し、土佐湾の虚人東山軍に奇襲攻撃を仕掛ける。
当然、この作戦は極秘なのだが…。
「…警報! 敵戦闘機の接近を確認! あの機影は、ロシア製…ターミネーターよ!」
別ルートで四国に向かっている嶺咲先輩(高等教育学校1年生)の部隊にも、この事を無線通信で報告し、助言を仰いだ。
《情報が漏れているという事は、艦隊の中に敵のスパイが潜んでいるかも知れません。警戒して下さい!》
「了解です!…あれ、敵機の通信が混線している? この声は、まさか…!」
ターミネーター
《おい、鬼畜アメリカ軍! 東京・沖縄・広島・長崎だけでは飽き足らず、また俺達の国、日本を焼き尽くす気か!? 舐めんのも、いい加減にしろ!》
「夜慧ちゃん、何を言っているの? 私達は、日本の仲間を助けるために…!」
《黙れ! お前達の野望は分かっている! 俺の故郷、長門を無差別爆撃するんだろ!? 俺に密告してくれた奴が居たんだ!》
《あぁ…どうやら、何者かの偽情報に、まんまと踊らされているようですね。これは、交渉しても無駄でしょう。逃げるか、戦うしかなさそうですね…》
《本来なら、私が今すぐ戦闘機に乗って迎撃したい所なんだけど、あいにく今は陸路で嶺咲ちゃんを護衛中だから、あなた達でどうにかして!》
「総員、戦闘配置! カタパルト起動! 艦載機、発進準備!」
「困ったな…この段階で空戦なんて、想定外だ…あ、美保関さん! 緊急発進できる?」
「あたし、空軍の戦闘機は操縦経験ありますけどぉ、海軍の艦載機は『処女』なんですよぉ~。あぁ駄目、あたしの初めてが…///」
「駄目よカナタちゃん、あなたはまだ操縦士免許を修了してないでしょ? ここは、私に任せて! 至急、スーパーホーネットを出して!」
スーパーホーネット
「アプリコーゼン中隊ポタージュⅢ、出撃します!」
こうして禅定門念々佳が、広大な太平洋の上空で、﨔木夜慧との空戦を繰り広げる…しかし!
「…くっ! またレーダーから瞬間移動した! さては、あのスペックを発動したわね!」
「夜慧ちゃんの戦闘機が、瞬間移動している…一体どういう事!?」
「いえ…夜慧様が速いのではなく、私達が止められているのです…」
「はい…﨔木夜慧様は、時間を停止する超能力をお持ちです。真正面から堂々と戦っても、勝てる相手ではありません…」
「やっぱり、念々佳ちゃんを放っておく事なんかできない! 私も一緒に戦う! 格納庫は、どこ!?」
(…夜慧の特殊スペックは、彼女自身にも大きな負荷を掛ける能力でもある。夜慧が疲弊するまで、どうにか持ち堪えられれば…!)
「さあ…お尻をロックオンしてやったぞ、念々佳! バックに挿入されたくなきゃ、さっさと降参しやがれ! さもなくば…!」
「お、念々佳ヤラれちゃう? 種付けされちゃう? やばw」
(他人事)
しかし、次の瞬間…﨔木夜慧のコックピット内に、ミサイル急接近アラートが鳴り響く!
急旋回して振り向いた﨔木夜慧の瞳に、見慣れぬスーパートムキャットが映った…!
スーパートムキャット「…背後に気を付けなきゃいけないのは、あなたのほうだよ…夜慧ちゃん!」
「お…お前、無免許だろ!? 操縦できんのかよ!?」
「十三宮カナタのスーパートムキャット、発艦を確認! 交戦を許可…って、もう既に交戦しているわね…」
「姉さん、ごめん…止めようとしたんだけど、カナタさん勝手に出撃しちゃって、もう手遅れだった…」
(…被弾したし、1対2だし、そろそろ燃料が尽きるし、これ以上の時間停止はリスクが大きい…畜生、ここまでだな…)
﨔木夜慧は降伏し、ターミネーター戦闘機から降りて、私達の空母に出頭して来た。
艦上に出迎えた私達は、彼女を捕虜として拘束する…と思いきや?
「よう、さっき振りだな! お前ら、元気にしてたか?」
降伏して捕虜になる、という自覚が全く無さそうな﨔木夜慧と…。
「夜慧、前よりも強くなったわね! さすがの私も、あのまま犯されるんじゃないかと思ったわw」
「あたし爆乳だから~、貧乳の気持ちとか理解できないんですけどぉ、あたしも貧乳なら、夜慧みたいに高速移動できるのかな? 貧乳って凄~い!」
「夜慧様、先程は見事な武芸でしたね。後で私にも、時間の止め方を教えて下さいね。ぎゅ~^^」
﨔木夜慧を捕縛するどころか、お客さん待遇で大歓迎する皆様であった。
「あの人達…さっきまで殺し合っていたのに、どうして、あんな優しい態度を…?」
「試合が終わればノーサイド、体育競技と同じです。戦争が終われば、敵も味方も、同じ人間として愛する…それが十三宮の、私達の信ずる道です」
「なんか、熱い友情系のバトル漫画にありそうな展開…かも知れない」
「きっとそこから、百合と薔薇の花が咲き乱れちゃったりするんですよね!? 嗚呼…分かりみが深い!」
ギャーギャー騒ぎ回っていたら、そろそろ作戦決行の時刻が迫ってきた。
南西に航行していた艦隊が、一斉に北へと舵を切り、土佐湾に突入する!
「…私と嶺咲ちゃんが居ない時に、﨔木夜慧が奇襲しに来た…やっぱり、ちょっとタイミングが良過ぎるわね…さーて、私達も合流して戦うわよ!」
古墳・寺院・城下町など、数多くの遺跡が広がる讃岐高松。
その門前に結集し、拳を突き上げる女学生達…そして、その先頭に立つのは…!
鵜久森 ミナト
「すぅ…叫べっ! 一揆団結! ボクらは無敵の『高松アベンジャーズ』だよ! このボク達に倒せない敵など、多分あんまり居ないよねっ!?」
作戦計画に基づき、讃岐高松の大城エリザベス大佐に煽動されて決起した鵜久森団は、南四国を占領する虚人東山軍に宣戦布告し、彼らを四国山地に誘き出して殲滅するべく、行動を開始した。
「弱者に死を! 悪には悪を! 弱さの象徴である虚人東山軍を、今日こそ皆殺しだ! 東山備中なんか、盗んだバイクで轢き殺してやるよっ!」
語彙力が20世紀で止まっているとか、そういう事を突っ込んではならない。
「全隊、進め! 東山備中の血という血を、根絶やしにするまで戦えっ! 弱い奴、足を引っ張る奴、敵に背を向ける奴は、ボクが斬り捨ててやるよっ!」
同じ頃、石本ユミカ大佐が率いる伊予軍本隊は、伊予・土佐を結ぶ予土鉄道を奪回するため、伊予宇和島から土佐へと侵攻した。
また、義勇兵に志願した松山なつき少尉(中等学校2年生)は阿波徳島に、双子の松山いつき准尉は淡路島へと出撃している。
四国全体、広大な南海道を作戦区域とする、歴史的な一大決戦の勃発である。
そして、私達は…!
「…備中様、敵襲です! 土佐湾に、敵方の水軍が来寇! 十字架を掲げし異国の黒船です!」
「おのれ、鵜久森の決起は陽動か! 虚人東山軍、戦闘開始だ!」
総大将である東山備中タウ型の指揮に基づき、量産型の東山備中達が次々と起動・開眼し、戦闘形態にトランスフォームする。
同じ顔をした敵軍の群れに困惑しながらも、土佐湾に着岸した私達は、遂に四国への第一歩を踏み出し、上陸と同時に激戦の幕が開かれた!
「東山備中タウ変異株は、男性ホルモンが退化しており、精細胞も少ないので、襲われても着床・妊娠リスクが低く、女性も安心して戦えますね。では、交戦」
安心できるのか分からない合図と共に、降り立った海岸から北へと疾走する!
瀬笈 緋夏麗
「神・救世主・聖霊の御名において、サタン東山を討ち、愛すべき隣人を救出する! 全軍、進め!」
「高知エルダー中隊4番、十三宮カナタ! いざ、参ります!」
「めぐちゃんも一緒だよ! 十三宮仁、戦わせて頂きます!」
私達の眼前に広がる戦場、それは想像を絶する光景であった。
巨大津波で堆積した泥土の中に、かつて「高知市」と呼ばれた街の残骸が埋もれ、突き刺さっている。
数多の瓦礫、社寺の鳥居、英雄の彫像…そして、誰の物かも分からぬ人骨の山。
それらが散乱した泥土の上にあるのは、まさしく「滅んだ世界」である。
しかも、私達を待ち受ける敵は、同じ顔をした東山備中の大群。
「人間と人工知能が戦争する未来」とは、今この瞬間ここにあるのかも知れない。
敵・味方の弾幕が飛び交う中、量産型の東山備中を一体ずつ片付け、陣地を確保しながら前進して行く。
3月に生まれた十三宮カナタの戦陣を彩る、両親の形見である二つの誕生石。
父親から貰った髪飾りの血石は、十字架の救世主を語り伝え、その紅は敵の照準を狂わせ、弾道を逸らす。
そして、母親から貰った珊瑚は、極楽浄土への解脱を導き、それを埋め込んだ剣が、迫り来る東山備中を、その罪と共に業火へと斬り裂く!
「…地形解析完了! 高知平野東部の南国海軍航空基地(高知空港)に、まだ使えそうな滑走路が残っています。それを確保すれば…!」
「南国…長宗我部の岡豊城があった場所で、確か戦時中には…いや、了解! 念々佳さん、南国飛行場を制圧してくれ!」
再びホーネットに飛び乗った禅定門念々佳が、南国市に展開する虚人東山軍を掃討し、航空基地遺構の飛行場を確保する。
この滑走路を使えば、空母艦載機以外の戦闘機も離陸できるが、問題は、機体を滑走路まで運搬する時間だ。
「時間が足りない、だと? だったら、俺に任せな!」
﨔木夜慧が時間を止めている間に、戦闘機を南国飛行場へと運ぶ。
胸も軍事費も肥大している美保関天満は、この時を待っていたという顔で、世界最強のステルス戦闘機ラプターを持って来たのだが…。
「旧海軍航空基地…この滑走路って昔、特攻隊が出撃した場所だよね…」
「アメリカと死闘するために建設された飛行場から、アメリカ製の戦闘機を飛ばす日が来るとはな…」
操縦席に跨がった美保関天満は、眼を閉じて深呼吸しながら、雌餓鬼らしくない事を考えた。
(…あなた方が護ろうとした未来は、あたし達が必ず…!)
「アプリコーゼン中隊ポタージュ初号機、イキます!」
(…物凄く格好良い場面なのに、美保関さんが言うと、何故か「行きます!」が卑猥に聞こえてしまう…)
ラプターに続いて、ステルス攻撃機ナイトホークも離陸し、十三宮カナタを上空から援護する態勢が整った。
(激痛と共に、意識が遠のいて逝く私…と思いきや、何かをプシュッと刺された感触と共に、嶺咲先輩の膝枕で目を覚ました)
「はーい、嶺咲先輩特製の鎮痛剤、お注射完了~♪ これで暫くは、痛みを気にせず戦えますから、死なない程度に頑張ってね~♪」
「は…はい!(副作用が物凄く心配だけど)頑張ります!」
「チッ…歩兵だけじゃぁ、押し返せねぇか…俄勝、戦車を出せ!」
「戦車って、あれですよね? 馬に車輪を引かせる、古代地中海の…」
「馬車じゃねぇよ! 戦車だって、現代の戦車! チャリオットじゃなくて、タンクのほう!」
「すいません…私、江戸時代の亡霊ですので、近頃の流行りには疎い者でして…」
「あれは…虚人東山軍の戦車隊を確認! 気を付けて、タンクには銃が効かないよ! めぐちゃん先輩、雷撃を!」
巫女服の少女が、両手に構えた2本の庖丁から、紫色の雷電を放つ…しかし!
「駄目かな…装甲が厚くて、内部にまでダメージが入らない!」
ラプター「マルチロックオンミサイル、発射準備!」
ナイトホーク
「誘導貫通爆弾、投下!」
一進一退を繰り返しながらも、戦況は少しずつ有利に…!
「…この上は、やむを得ねぇ! 俄勝、城を燃やせ!」
「もう構わねぇ! どうせ地獄に堕ちるなら、人質も皆殺しだ!」
「どこかに、お母さん達が幽閉されているはず…手遅れになる前に、早く助けなきゃ!」
「俺が時間を止めている間に、備中の脳内ハードディスクをハッキングして、地図データを抜き取った! 人質が監禁されているのは、高知城天守閣だ!」
「天守閣って、お城の上階にあるはずじゃ…この辺りに、それらしい城郭は見当たらないよ?」
「いや、それがな…津波で倒壊した高知城は、横転した状態で、この泥土の真下に埋まっているんだ! 今、出入口の座標を送る…あっちだ!」
レーダーに表示された、救出地点の位置座標…それは、参謀の黒沢俄勝と、総大将である提督の東山備中が待ち構えている、敵軍本陣の方向と一致する…!
「仲間を助けるには、彼らと決着を付けるしかないって事か…!」
「分かった…これが、最後の攻勢だね。神様・仏様、どうか御加護を…いざ、尋常に勝負です!」
「…まだだ、まだ終わらせねぇよ! 俺達は、誇り高き虚人東山軍! 例え玉砕しようとも、最期まで戦うぞ! 撃て! 撃てーッ!」
前方から、弾幕の暴風が…いつ死んでも不思議ではない。
けれど…ここまで来たからには、もう後戻りはできない!
「「提督へのレーダー照射を確認、防御陣形に至急移行する」」
「量産型が、提督を囲む盾のように布陣を変えた! 最期まで、しぶといな…」
庖丁を握り締めた両手に力を込め、思い切り飛び跳ねた空中から放つ雷撃が、前方に密集しつつある量産型を、次々と連鎖的に感電させる!
「「エラーが発生しました。原因、感電による熱暴走。トラブルシューティング中…再起動不能、強制シャットダウンします」」
「﨔木さん、大丈夫? あんなに時間停止能力を使ったら…」
「いや、大丈夫じゃない…俺の能力は、時間を止め過ぎると、俺自身の心臓が止まるかも知れn…うっ!」
(バタッ)
「夜慧様は、私が搬送します! 皆様は、とにかく前進して下さい! 本陣を攻め落とすのが最優先です!」
﨔木夜慧を回収する嶺咲ウルスラと擦れ違うように、戦闘とは無縁な平和主義者…であるはずの司祭が、前線に出て来た。
「…私には、自らの呪術を見せびらかす趣味は御座いません…ですが、最愛なる妹達を、家族を守るためならば…」
「聖様! この先は戦場です、お戻りになって下さい!」
「ケルト十字展開! 女帝・皇帝・戦車・太陽の正位置! 以上のアルカナにより、敵方からの攻撃は…全て無効です!」
「えー、それは禁止カードですよ~! さすがの聖様でも、そんなチートを使えるわけ…」
「聖姉様は(本気になると)とっても強いんだよ^^」
「だったら最初から、姉さんが戦えば良かったんじゃ…」
「…では、私は戻ります。ウルスラ様、後は宜しくお願い致します。私、戦争は苦手ですので^^」
「え…あ、はい。全軍、カナタ様の最終攻勢を援護します! 銃撃部隊、撃ち方用意…放てーっ!」
背後から嶺咲先輩の怒号と共に、今度は味方の援護弾幕が、私達の上下左右を掠りながら直進して行く。
その弾道の延長線上に待ち構える、黒沢俄勝と東山備中に照準を定めた私達は、とにかく走り(馬みたいな耳が生えてきそうなぐらい)我武者羅に走り抜けた。
「愛する者を救うために、自らの命を賭する…十三宮カナタ様、あなた方の勝ちです。これ以上の戦闘は無益ゆえ、撤退致します」
「俄勝、どこに行く!? 貴様やっぱり裏切るのか!? おい、待てってば!」
そして、私達は遂に…眼前に残る敵将は「提督」こと東山備中タウ型だけだ!
「東山備中! 私を育て、愛してくれた人達のために…私、十三宮カナタは今、あなたを討つ! 焔纏の構え、いざ覚悟!」
「覚えているぞ、お前は…あの日、逃げた餓鬼だな。そして今、親御の仇を討つべく舞い戻って来た…と。悪くねぇ度胸だ、来い!」
この東山備中は、従来型のような小者ではない…悪党を率いる者たる矜持、独特の威圧感を持っている…だが、それを私達は乗り越えねばならない!
十三宮カナタと東山備中は、どちらも火属性である。
義の焔と、偽の炎…二つの膨大な熱エネルギーが衝突した刹那、天地を斬り裂くプラズマが放電し、増援の量産型備中を次々と破壊した。
「魅咲…待たせてごめん! もう大丈夫だよ! 味方艦隊が迎えに来ている、脱出しよう! 皆さん、こっちです!」
「よーし、捕虜の救出に成功! 後は、乗艦まで護衛するだけだ…あれ、誰か足りないような…?」
高知城址に突入した十三宮軍は、強制収容されていた捕虜を全員、救出する事に成功した…が、その中に十三宮カナタの両親は居なかった…。
プラズマ放電が収まり、戦場の視界が回復した時、この決戦に勝ち残り、最後まで大地に立ち続けていたのは…。
満身創痍の十三宮カナタ、その眼前には…致命傷を喰らった東山備中の姿が。
「…お前の、勝ちだ…だが、俺が死んでも…虚人東山軍の実験は、終わらない。新たなる変種が、貴様らを苦しめ続ける…その行く末、地獄から見ているぞ…」
敵軍総大将、東山備中タウ型提督は、体内(何故か股間)に仕込んでいた自爆プログラムを起動し、自ら命を絶った。
同時刻、土佐に展開していた量産型も一斉に自爆し、遂に土佐は解放された。
「…私達、勝ったんだ…もう駄目、おねんねする…」
(バタッ!)
土佐奪還・四国統一作戦は、数千人もの死傷者を出す、壮絶な戦いであった。
しかし、この決戦で連合軍は、虚人東山軍に誘拐されていた捕虜を全員救出し、敵の総大将、東山備中タウ型と、その量産型を全滅させる事ができた。
だが…私達には、最後の戦いが残っていた。
虚人東山軍という共通の敵が消えた結果、一時的に協力していた連合軍と鵜久森団が、再び対立する事になった。
鵜久森ミナト中尉は、自らが四国の支配者に成り上がる野望を目論見、石本ユミカ大佐の首級を狙って、伊予松山への進軍を開始した。
鵜久森中尉の野望を阻止するため、四国に駐留していた十三宮軍が、最後の最後の決戦に向かった…!
「目指すは、石本ユミカの首級だけだ! キミ達のような弱者に、用は無いんだよ! 消え失せろ!」
「鵜久森先輩…あなたは何故、こんな虚しい闘争を続けるのですか?」
「弱き者、石本ユミカは、かつて東山備中に純潔を売り飛ばし…忌まわしくも、奴の餓鬼を産み落とした…許せない! 東山の血は全て、淘汰されるべきだ!」
「…東山の血を引く子供には、生きる権利も、この世に生まれる価値すら無いと、そう言いたいのですか!?」
「ボクは、この世界に選ばれた、唯一最強の人間なんだ! 見せてあげるよ、ボクの力を…奥義『実像鏡面』万華開放!」
「分身を操る超能力者…これが、鵜久森団の正体か!」
「慌てずに、一体ずつ片付ければ問題ありません。今回は、私も前衛で戦います。出て来なさい、我が忠実なる傀儡達よ!」
嶺咲ウルスラは、自身をデフォルメした縫い包みを取り出し、それを鵜久森ミナトの分身に投げ飛ばすと、分身の一体が感電しながら消えた。
こうして私達は、鵜久森ミナトの分身を、一体ずつ撃破していった。
しかし、最後に残った本体には、なかなか攻撃が届かない…!
「障礙の分際で、調子に乗るなよ! キミ達は、ボクの幸福追求権を侵害した! もう二度と、ボクの悪口を言うな! 破滅の瞬間まで、しばき倒してやるっ!」
その時、見慣れぬ水色のレーザー剣が、鵜久森ミナトの足元に突き刺され、周囲の地面が凍結した!
松山 なつき
「…徳島での任務が終わって、伊予に帰ってリラックスしようと思ったら、アンタ達…さっきから元気そうに喧嘩しているわね。特に、そこの不良さん?」
「誰だ!? キミまで、ボクの夢を邪魔するんだね!?」
「はぁ…アンタの意味不明な妄想になんか、興味ないよ。それよりも…アンタは自分が最強だとか、そんな事を言ってるんだっけ?」
「ああ、そうだよ! ボクは今まで、誰にも負けた事が無い! だから誰も、ボクの苦しみを理解してくれない! ボクは、弱い奴らなんか…大っ嫌いだ!」
「そういう寝言はさ、せめてアタシに勝ってから言ってみたら? そんなに自慢したいなら、アタシが教えてあげるよ…本当の強さってのをね!」
その女学生…松山なつき少尉の水色と、鵜久森ミナト中尉の黄色、二振りのレーザー剣が鍔迫り合い、火花を散らした…!
「…本日、私達は土佐の奪還を果たし、四国の統一を成し遂げました。莫大な犠牲の上に築かれた勝利を、決して無駄にしてはならないと考えます」
遂に四国統一の夢を成就させた、伊予軍政府の石本ユミカ大佐は、全世界に生中継する記者会見を開き、建国宣言を読み上げた。
鳥羽 魅兎「…今日は、歴史に残る記念日ッスね~」
「2666年、今日この時を以て、私達は…四国4県の同盟に基づく中立国共同体、南海コモンウェルスの結成を宣言致します! そして、その義勇軍の命名は…」
仲間達と共に鵜久森ミナトを撃破し、全ての戦闘を終えて疲労困憊の十三宮カナタが、最後の務めを果たしに来た。
かつて土佐高知の行政府があり、今は瓦礫と化した県庁舎の廃墟。
津波の泥土に折れて埋まっていた国旗ポールを立て直し、そこに新しい旗を掲揚する。
「さ…サイドワインダー土佐高知基地の建設を、い…今この場所に、宣言します…! わ…私達は、四国の義勇軍『サイドワインダー』です…!」
「…これは、歴史的な瞬間だ…カナタさん、撮影するよ!」
瀬戸内海の平和を象徴するオリーブ、四国の天空を駆ける戦闘機に準えたペガスス、純潔などの花言葉を持つ百合。
南海コモンウェルスの義勇軍として、四国・瀬戸内海を守護する「サイドワインダー」の軍旗であり、その結成と、土佐高知基地の建設が宣言された瞬間である。
軍旗を掲げる十三宮カナタの姿は、全世界中に「リョーマの国、自由を取り戻す」というタイトルで報道され、絶大なる「いいね!」を集めた。
切望した両親との再会は、遂に叶わなかったが…それでも、今の自分にできる最善を尽くし、その名を歴史に刻んだ十三宮カナタ。
「これで…やっと、全ての任務が終わった…カナタさん、お疲れ様…」
「はぁ…ん、ありがとう…今日は、本当に…長くて、辛い…そんな、一日だったね…」
それは十三宮カナタにとって、決して忘れられない声だった。
「…! 分隊長さん、一生のお願い! この瓦礫を退かすの、手伝って!」
「分かった! 中に誰か、閉じ込められているかも知れないからね!」
そうして瓦礫の下を探すと、そこには…かつて旧時代に、アメリカとの戦争に備えた防空壕が掘られていた。
古くて壊れかけてはいるが、数人が避難できるスペースだけは残っていた。
そして…中に居た生存者二人の顔を視認した十三宮カナタは、滝のような涙を流しながら、満面の笑みで叫んだ…!
「…お母さん! お父さん! ただいま! 私を、産んでくれて! 育ててくれて! 待っててくれて! 生きててくれて! ありがとう…!」
かくして十三宮カナタは、実の両親である鷺原夫妻との再会を遂に果たした。
今回の大活躍で、一人前の戦士として認められたカナタは、若き中等学生でありながら元服(成人式)を迎える事を許され、両親から「鷺原イズミ」という新しい実名を与えられた。
十三宮カナタ改め鷺原イズミは、父母と共に四国で暮らし、仲間達を護るため、サイドワインダー基地の将兵を養成する士官学園に転校した。
「聖お姉ちゃん・勇お姉ちゃん・ウルスラ先輩・めぐちゃん先輩、それに天満ちゃん・念々佳ちゃん、そして分隊長さん…お世話になりました!」
「何か御座いましたら、いつでも連絡して下さいね。カナタちゃん…いえ、イズミちゃん。あなたは、これからもずっと…私の可愛い妹なのですから^^」
「お手紙、たくさん書いて送るよ! お休みの日に、またいっぱい遊ぼうね! イズミちゃん、大好き! むぎゅ~っ^^」
「めぐ先輩、そこは私のポジションですよ! イズミちゃん、いつでも電話してくれて構わないし、暇なら戦闘機で直行するからね(笑)」
「いつか自分も、そのサイドワインダーってのに入隊しようかな…?」
傷病者の救護を終え、鷺原イズミの旅立ちを見届けた十三宮軍らは、四国からの撤退を開始した。
かくして四国の命運は、鷺原イズミらサイドワインダーを始めとする、現地住民の手に託される事となった…。
そして、それから3年後…2669(光復二十一)年。
タウ型が死の直前に予言したように、東山備中の変種が次々と発生し、虚人東山軍との戦争は終わるどころか、むしろ激化している。
「…ボク達の任務は、伊予・安芸を結ぶ西瀬戸連絡橋の多々羅大橋を、虚人東山軍から防衛する事だよ! では、ハンター中隊の編成を確認するよ!」
南海コモンウェルス及びサイドワインダーの中枢である、伊予松山基地。
立派な中隊長に成長した鵜久森ミナト大尉(高等教育学校2年生)と、鷺原イズミ訓練生(1年生)らの姿が、そこにあった。
「空戦隊の編成だけど…今回の任務から、イズミちゃんにはハンターⅣとして、実戦に参加してもらうよ。ハンターⅤの新任士官ちゃん共々、頑張ってね!」
鷺原 イズミ「はい、最善を尽くし頑張らせて頂きます!」
「思えば3年前は、キミ達と敵対した事もあったのか…懐かしいね。あの頃のボクは未熟で、物凄く迷惑を掛けたと思う…情けないよ、ごめんね…」
「あの時…キミ達がボクを止めてくれたから、ボクは変わる事ができたんだよ。イズミちゃんにも、なつき達にも、もちろんキミにも…感謝しているよ!」
「さて…新生ハンター中隊、できれば6機編成にしたいんだけど、誰かハンターⅥを務めてくれる人、居る?(人員不足だから)居ないよねー?」
「イズミちゃん、正式入隊おめでとう! 無二の親友として、私もハンターⅥに加入します!」
「百合の間に挟まるのは罪ですが、胸の谷間に挟むのは正義です! その事を証明するために、あたしがハンターⅥを務めます! おねがぁ~い♪」
「ん…え、私ですか? いや、さすがに不味いですよ(苦笑)私、表向きは虚人東山軍に属する、悪い女幹部なので…まあ、裏方程度でしたら…」
「誰でも良くね? あ、なつきが軟派した未玖ねーちゃん、早期警戒機の訓練、もう終わったのか? 必要なら、俺もアドバンスホークアイ乗ってやるぞ!」
「…あたし達のために、再び伊予まで来てくれるなんて…皆、本当にありがとう!」
「…あら、綺麗な飛行機雲…イズミちゃん達、元気にしているでしょうか?」
「あの子達は皆、強く優しい騎士へと成長されました…きっと、大丈夫ですよ! 今年から短大生なので、実習などで四国に行きたいですね…」
「イズミちゃん達の、天空への航路に…どうか幸せがありますように^^」
「…ハンターⅤからハンターⅠに、間も無く今治市 大三島に到達。また、併せて虚人東山軍の接近を確認! 中隊長、交戦許可を!」
「…3年前の記憶を胸に、改めて問う! ボク達は誰だ!? キミの名前は?」
「あたしは…サイドワインダー伊予松山基地ハンター中隊4番機、鷺原イズミ! ハンターⅣ、いざ交戦します!」
飛行機雲を臨む南の大地には、未来都市として復活した高知城下町が広がっている。
再建された天守閣の展望台からは、何歳になっても元気そうな夫婦が、雲のカナタを駆け抜ける機影に向けて、大きく手を振っていた。
「…そして、あたしは…この世界で一番、幸せな4番機です!」
「…おい、団長! 基地を偵察していたら、この『鵜久森団語録ノート』を拾ったのだが、強そうだから読んでも良いか!?」
「あー! そ…それは絶対に読んじゃ駄目! ボクの黒歴史だから…!」
「あの頃のミナトは…んー、若気の至りだとしても許されなかったね(苦笑)」
「えっと、何々…団長、この『死への誘い漂う罪なる香水』って、なんすか?」
松山 いつき
「あ…あれ、私の出番は…?」
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