第94話 『見えない未来を変える「いま」』①「はじめに」抜粋

文字数 1,542文字

 最近読んだ本の抜粋です。

『見えない未来を変える「いま」』
 〈長期主義〉倫理学のフレームワーク
    ウィリアム・マッカスキル著

 はじめに

 これまでに生まれてきた全員の人生を、生まれた順に生きると想像してみて欲しい。ひとり目の人間の人生はおよそ30万年前のアフリカに始まる。その人生を最後までまっとうしたあと、時間を巻き戻し、ひとり目の直後に生まれたふたり目の人間に生まれ変わる。ふたり目が死んだら3人目、次に4人目……と続ける。1000億回生きると、あなたは現在のもっとも若い人間に生まれ変わる。あなたの ”人生” は、連続するすべての人間の生涯からなる。

 当然ながら、あなたの歴史体験は、ほとんどの歴史書に描かれているものとは似ても似つかないものになるだろう。クレオパトラやナポレオンのような有名人の人生は、あなたの体験のごく一部を占めるにすぎない。代わりに、あなたの人生の中身は、食事、労働、社交、笑い、不安、祈り、などの日常に満ちた、平凡な生活で構成されるはずだ。

 あなたの生涯は、合計4兆年ほど、その時間の1割を狩猟採集民、6割を農耕民として過ごす。人生のまるまる2割を子育て、さらに2割を農作業に費やし、およそ2パーセントを宗教的な儀式に費やす。人生の1パーセント以上を、マラリアや天然痘に罹患して過ごし、15億年を性交渉に、2億5000万年を出産に費やす。そして、44兆杯のコーヒーを飲む。

 あなたは残酷さと優しさを、双方の立場から体験する。入植者として新たな土地に侵攻し、被入植者として自分の土地を奪われる。虐待する者の怒りを感じ、虐待される者の痛みを感じる。人生の1割を奴隷所有者として過ごし、同程度の時間を奴隷として過ごす。
 
 やがて、あなたは現代の異常さを肌で実感するだろう。劇的な人口増加により、あなたの人生のたっぷり3分の1は西暦1200年以降、4分の1は1750年以降で占められる。ここまでくると、技術や社会は前代未聞のスピードで変化を始める。蒸気機関、工場、電気が発明され、幾多の科学革命、破滅的な戦争、急激な環境破壊のなかを生き抜いていく。人生はどんどん長命になり、過去の王や女王たちの人生でさえ味わえなかった贅沢を享受できるようになる。うち、150年間を宇宙で過ごし、1週間を月面歩行に費やす。あなたの体験の15パーセントは、今、生きている人々のものだ。

 これが、ホモ・サピエンスの誕生から現在に至るまでのあなたの人生だ。しかし、次は、未来のすべての人生を想像してみよう。あなたの人生は、きっと、まだ始まったばかりにすぎないだろう。(中略)それだけ、未来は巨大なのだ。

 あなたがそうした未来の人生すべてを生きるとわかっていたら、現在の私たちにどのような行動を望むだろう? 大気中への二酸化炭素排出量をどの程度にしてほしいか? どれくらい研究や教育に投資してほしいか? あなたの未来を破壊したり、未来の歯車を永久にくるわせたりしかねない新技術に、どれくらい用心してほしいか? 現在の行動が及ぼす長期的な影響に、どれだけ注意を払ってほしいか?

 私がなぜこの思考実感を提起したかというと、相手の身になり、相手の利益を自分の利益と同等に扱うことこそが、道徳性の基本だからだ。それを、人類の歴史全体というスケールで行うとすれば、最優先されるべきは、ほとんどの人々が生き、喜びや不幸の大半が息づく場所、つまり未来なのだ。
(後略)


◇◆◇◆◇

 長々と引用してしまいました。

 実はこの本が気になったのは、奴隷制廃止が歴史上「必然的だったのか」「偶発的だったのか」について述べたパートがあって、確認しておきたいと思ったからです。

 ちょっと長くなったので、次回に続きます。



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