その3のつづき 初心者のヒツジが「私」で書くか「彼女」で書くか迷ったお話

文字数 1,291文字

「小説は向いてないかもなぁ」
と、あきらめてから、約2年。
仲間たちと、『ハムレット』を朗読劇に作っていました。
主人公の王子ハムレットは、ある真実を知ってしまいますが、
それを誰にも言えません。
言っても誰にも信じてもらえないとわかっているから。
そして一人で苦しみます。
ああ、これ、わかるなぁ……と思いました。
しみるなぁ。
刺さるなぁ。

レベルは違うけど、いっしょにしちゃハムレット殿下に失礼だけど、
パワハラを受けて泣き寝入りさせられた私と同じだよ。
こういう気もち……
きっと、抱えている人、たくさんいるよね。
私だけじゃないよね。

気がついたら、『ハムレット』の二次創作を書きはじめていました。

それも、ハムレット=私じゃなくて、
「ハムレットさま、おいたわしい」

と泣いている、別の人物の声で。
今度はヒロインを美人にすることに、何の抵抗もありませんでした。
だってオフィーリアなんですから。
思いっきり素敵な子でないと!

自分がモデルだったとき、美化しないようにセーブしていたのとは、
180度、方向転換。
逆の方向に振り切れちゃったんです。
自分に似た主人公だったときは、
「これ私のことだと思われたらどうしよう」
って、びくびくして、
素敵すぎないように、でもダメすぎもしないように、

あっちこっち調整して、結果きれいごとになっていたのが、

オフィーリアにしたとたん、
一気に書けたんです。

自分ではうまく流せなかった涙が、
オフィーリアの涙としてなら、思いっきり流せたんです。

オフィーリアとしてなら、
「私」は言いたいことを思いっきり叫べました。
せせこましい現実から解き放たれて、広い場所へ出られたからです。
ファンタジーという広野へ。

同じ題材でも、オフィーリアを「彼女」と呼んでいるかぎり、
語り手の「私」はきちんと、礼儀正しく、
現実の側にとどまったまま、
だったろうと思うんです。
だけど……

ちょこちょこっとした美化や修正じゃなくて、
「私=オフィーリア」
なーんて、とんでもない大ウソをついた瞬間、
なんかもう、いっきに!
オフリミットでした。わーい!!
ちょっと、あの体験に似てました。
高校のとき、傘忘れたのに、帰り、雨降ってきちゃって。
はじめは
「あー、服濡れる、靴濡れる、カバン濡れちゃう……」

って気にしてたんだけど、

途中で
「もう、いい!」
ってひらきなおって、どしゃぶりの中、ずぶ濡れで歩いて帰ったんです。

あの、解放感。

人が「書きたいのに、書けない」ときのハードルって、
大きく分けて二つありませんか。
一つはもちろん、スキル(書く技術)の不足。
もう一つは……

メンタルブロック。


メンタルブロックをはずす、ということは、
とにかく、自分の思いこみを、はずしていくことです。
ヒツジの場合は、
「地の文が『私』でも、この私本人(=ヒツジ自身)のこと書かなくていいんだ」
というね、
「私に似てない『私』で書いていいんだ」
「別の『私』になりすましていいんだ」
ということにしちゃったら、解放されました。
楽になれました。

そういう
「リミッターはずし」
「メンタルブロックくずし」
って創作にとって、ほんとに決定的に大事。
ですよね。
ひきつづき、その話をしていきます。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ミミュラ


このチャットノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。
紅茶もコーヒーも、ココアも好き。(下戸)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色