その6 クールな一人称小説もあるし、ホットな三人称小説もあります

文字数 1,019文字

クールな一人称小説があるなら、
ホットな三人称小説もあるのか、というと、
あります。
良い意味で。

私の創作論、いつもメロスが出てくるので、「またか」と思われるの承知で、

(だってすごくわかりやすいんだもん)

ふたたびメロスにご登場いただいちゃいます。

早押しクイズ。
『走れメロス』って、一人称小説でしたっけ、三人称小説でしたっけ……?
メロスは激怒した。
三人称ですね!
三人称なんですけど……
地の文に、メロスの「心の声」がたっぷり入ってます。

私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。

セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。[…]いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、セリヌンティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。

地の文の何割かが、メロスの心の中の声です。
だから読者は、自分がメロスになった気分を味わえるんですね。

でもね。
やっぱり、
『武器よさらば』が、がっつり一人称なのと同じくらい、
『走れメロス』はどこまでも、三人称なんですよね。

『武器よさらば』の「けっこうです」というくりかえしが、
語り手の「ぼく」の押し殺した怒りと悲しみを表して、
ひしひしと心にせまってくるのと同じくらい、

「君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。
というくりかえしって、
どこか芝居がかってて、大げさで、おちゃらけてると思いませんか。
太宰節、全開ですよね。
ヒツジがとくに好きなのは、ここ。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
わあメロスかっこいい! と思う瞬間、
――と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄[しわが]れた声が幽[かす]かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
笑笑笑
かっこわるー!笑笑笑笑笑
『走れメロス』って最初から最後まで、こういう、
メロスがクールに決めるはずのところで
かならずスベってる

シーンが満載で、大好きです。

メロスの心情にかぎりなく寄りそうふりをしつつ、
要所要所で
膝カックン
をかましてくる三人称の地の文。
本当いい味出してますよね。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ミミュラ


このチャットノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。
紅茶もコーヒーも、ココアも好き。(下戸)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色