その3 初心者のヒツジが「私」で書くか「彼女」で書くか迷ったお話
文字数 775文字
その迷えるヒツジの失敗談、お話ししますね。
まず、小さな地方自治体の文学賞を見つけたんです。
ちょうどヒツジの勤め先のある区で、なじみの深いエリアだから、
そこを舞台にした小説を書いてみようと思い立ちました。
「初心者は『私』で書いてみるといい」
というアドバイスをする先生も、
そのとおりに「私」を主語にして、自分をモデルに書ける生徒さんも、
きっと、「ちゃんとした」人々なんだなぁと思いました。
ヒツジと違って。
ヒツジには無理だったんです。
ダメな自分を、正直に書けなくて、
どうしても美化しちゃうんです。
その美化が自分ではずかしくて、
けっきょく、「私」から「彼女」に変えて、
「これは私じゃない。
私によく似た、もっと素敵な人のお話」
ということで無理やり自分をなっとくさせて、完成させました。
最初に書こうとしていた気もちも、
どこか「きれいごと」になってしまいました。