ショートストーリー「誰が見ている」(13)~(15)(終)

文字数 533文字

(13)
 もう誰も信じられない、と広瀬奈央は思った。

 息ができない。

 後藤さん――

 あなたの言ったとおりだった。
「広瀬さん。
 辛いと思うけど、目をそむけないでね。
 大丈夫。私は、あなたの味方だから。
 放課後、教室に来て。そしたら何もかもわかる」

 後藤さん。
 後藤さん。

 樫尾さんの肩越しに、私と目が合ったとき、
 あなたは、あんなに、哀しそうに微笑みかけてくれた。
(大丈夫。私は、あなたの味方だから)

 後藤さん。助けて。
(14)
 そう、きみは思うはずだ、広瀬奈央。
 もう誰も信じられないと。

 私しか。

 きみにはもう、私しかいない。
 私だけだ。
 奈央。
(15)
 放課後の教室に、もう誰の声もしない。

 女子生徒が一人。後藤亜依だ。
 黙って、金色のリボンを、自分の指に巻きつけている。
 ふざけるふりをして樫尾まりなから奪ったリボンだ。

 陽の光に透かすように、目の高さより高く持ちあげ、そこで止めた。
 くるくるとリボンはほどけて、手首まで流れ落ちる。

 窓の外には、二月の白い空。
 この空はどこへも行かない。広がらない。
 垂れこめても来ない。

 後藤亜依の背中を――

 その薄い、もろい背中を、誰も見ていない。



―「誰が見ている」 完―



(参考:ウィリアム・シェイクスピア『オセロー』)
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登場人物紹介

ミミュラ


このチャットノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。
紅茶もコーヒーも、ココアも好き。(下戸)

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