ショートストーリー「誰が見ている」(8)~(9)

文字数 609文字

(8)
 窓の外には、二月の白い空。
 この空はどこへも行かない。広がらない。垂れこめても来ない。

 放課後の教室で、樫尾まりなと後藤亜依が話している。

「樫尾さん、もらったよね」
「何」
「チョコレート。女子から」
「もらってないよ」
「うそ」
「もらってないし」まりなはうつむいて、頬を染めて笑っている。
「見た」亜依がたたみかけた。「いま鞄の中入ってる」
 まりなは声を立てて笑いだした。
「誰」と亜依。「知らない」とまりな。

「女子だな」と亜依。「だってもてるじゃん樫尾さん、男子からも女子からも」
「ほんと知らないから!」まりなは鞄から小箱をとり出した。金色のリボンのかかった、小さな、黒いきれいな箱。
「名前とか書いてないの」
「わかんない。見えない」
 陽の光に透かすように、目の高さより高く持ちあげて、いろいろな角度からながめている。
「椅子に置いてあったの。知らないで座っちゃうとこだった、やばかった」

 亜依がまりなの耳に口を寄せて、ささやいた。
「上辺[かんべ]くんじゃない?」
 とたんに小箱を机の上に投げ出すまりな。
「やっば! やめて」亜依と二人で笑いころげる。
「カンベは無理」
「なんで。仲良いじゃん」
「保育園の、ときから」笑いにむせながらまりなが言う。「保育園のときからいっしょだよ? おへそ出して昼寝とか。いまさら無理」
(9)
 広瀬奈央には、話の内容は聞こえていない。
 泣きながら廊下を遠ざかっていく彼女の背中を、誰も見ていない。
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登場人物紹介

ミミュラ


このチャットノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。
紅茶もコーヒーも、ココアも好き。(下戸)

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