ショートストーリー「誰が見ている」(5)~(7)
文字数 1,079文字
(5)
樫尾さんは笑っていた。
金色のリボン――あの箱。
「やっば! やめて」
ゴミのように。
どうして? 樫尾さんが?
どうして?
頭の中をいろいろな映像がかけめぐる。記憶が。想像が。
入学してまだ誰も友だちがいなくて一人だった私に、声をかけてくれたのは、樫尾さんだった。
消しゴムを貸してくれたり、いっしょにお弁当を食べてくれたり……
「広瀬さんの髪、きれいだよね」
まっすぐな目でそう言われて、どきりとした。私のこの赤い癖っ毛、生まれつきなのに、染めてるとかパーマかけてるとかさんざんいじめられてきたから。
髪のことでいじめないでくれたのは、樫尾さんだけだった。
もちろん、後藤さんも。そして――
泉くん。
樫尾さんは笑っていた。
金色のリボン――あの箱。
「やっば! やめて」
ゴミのように。
どうして? 樫尾さんが?
どうして?
頭の中をいろいろな映像がかけめぐる。記憶が。想像が。
入学してまだ誰も友だちがいなくて一人だった私に、声をかけてくれたのは、樫尾さんだった。
消しゴムを貸してくれたり、いっしょにお弁当を食べてくれたり……
「広瀬さんの髪、きれいだよね」
まっすぐな目でそう言われて、どきりとした。私のこの赤い癖っ毛、生まれつきなのに、染めてるとかパーマかけてるとかさんざんいじめられてきたから。
髪のことでいじめないでくれたのは、樫尾さんだけだった。
もちろん、後藤さんも。そして――
泉くん。
(6)
「泉くんさ、奈央ちゃんのこと好きだよね」
最初に言いだしたのはあなただよ、樫尾さん。
「そんなことないよ」
「泉くんさ、奈央ちゃんのこと好きだよね」
最初に言いだしたのはあなただよ、樫尾さん。
「そんなことないよ」
「あるよ」はしゃいでたのはあなただよ。「言っちゃえ言っちゃえ。告れ」
「無理」
「無理じゃない。脈ありまくり! と見た」
「私なんか」
「その自己評価低いのまじやめて」上気したときの樫尾さんは本当にきれいだ。頬が薄紅にそまって、大きく開きかけた白い薔薇みたいになる。「応援するから。がんばれ奈央ちゃん」
クラス中の女子を敵に回しかけた私の恋が成就したのは、ひとえに樫尾さんのおかげだ。泉くんがみんなの前で「おれが好きなのは広瀬さんだけだから」って言ってくれて、教室中がどよめいて、私は、気が遠くなりかけながら思わず樫尾さんをふりかえったら、樫尾さんは男の子みたいに腕組みして満面の笑みでうなずいてくれていた。あれは――
何だったの?
どうして、あなたが。
どうして。
私が泉くんにあげたチョコレートを、持ってるの?
(7)
「知らない」って何。「知らない」って。
「やばっ」て何。
どうして笑ってたの。
いつから?
私が泉くんにあげたチョコレートを、あなたが、泉くんと二人で。
笑ってたの? 「やばっ」て。「やめて」って。
私なんかを。けしかけて。その気にさせて。最初から笑いものにするつもりで。あんたなんか泉くんにふさわしくないのに何舞いあがってんのバカじゃないって。でも泉くんはみんなの前で、泉くん――あれも芝居? どうして? 私も思ってた、最初から思ってた、泉くんにふさわしいのは樫尾さんのほうじゃないのかって、だって私は、
どうして気がつかなかったんだろう、いままで。
やっぱり、
そうなんだ。そうだったんだ。やっぱり、私が、
付属中出身じゃないから。
私だけが。
貧乏な、奨学生だから。
私だけが舞いあがってた。一人で。
もう誰も信じられない。
「知らない」って何。「知らない」って。
「やばっ」て何。
どうして笑ってたの。
いつから?
私が泉くんにあげたチョコレートを、あなたが、泉くんと二人で。
笑ってたの? 「やばっ」て。「やめて」って。
私なんかを。けしかけて。その気にさせて。最初から笑いものにするつもりで。あんたなんか泉くんにふさわしくないのに何舞いあがってんのバカじゃないって。でも泉くんはみんなの前で、泉くん――あれも芝居? どうして? 私も思ってた、最初から思ってた、泉くんにふさわしいのは樫尾さんのほうじゃないのかって、だって私は、
どうして気がつかなかったんだろう、いままで。
やっぱり、
そうなんだ。そうだったんだ。やっぱり、私が、
付属中出身じゃないから。
私だけが。
貧乏な、奨学生だから。
私だけが舞いあがってた。一人で。
もう誰も信じられない。