ショートストーリー「誰が見ている」(1)~(4)

文字数 769文字

(1)
 窓の外に、二月の白い空。

 放課後の教室で声がする。
 女子生徒が二人。樫尾[かしお]まりなと、後藤亜依[ごとうあい]だ。同じクラスの。
 顔を寄せてささやきあって、面白そうに笑っている。
 話の内容までは聞こえない。

 きゅうにまりなが、声を立てて笑いだした。
「知らない」と言う。「ほんと知らないから」と言う。そして鞄から何かとり出した。金色のリボンのかかった、小さな、黒いきれいな箱。
 陽の光に透かすように、目の高さより高く持ちあげて、いろいろな角度からながめている。

 亜依が、ひとこと耳打ちした。とたんに小箱を机の上に投げ出すまりな。まるでゴミのように。
「やっば! やめて」
 笑いころげている。亜依と二人で。

 今日は二月十四日。バレンタインデーだ。
(2)
 放課後の教室で声がする。
 女子が二人。樫尾さんと、後藤さんだ。同じクラスの。
 顔を寄せてささやきあって、面白そうに笑っている。
 話の内容までは聞こえない。

 きゅうに樫尾さんが、声を立てて笑いだした。
「知らない」と言っている。「ほんと知らないから」と言っている。鞄から何かとり出した。金色のリボン――あの箱。あの黒い箱。
 陽の光に透かすように、目の高さより高く持ちあげて、いろいろな角度からながめている。

 後藤さんが、ひとこと耳打ちした。とたんに樫尾さんが箱を机の上に投げ出した。まるでゴミのように。
「やっば! やめて」
 笑いころげている。後藤さんと二人で。

 私は、そっと教室を離れ、廊下を歩きだした。
(3)
 樫尾さんは笑っていた。
「知らない」と言っていた。「ほんと知らないから」と言っていた。
 金色のリボン――あの箱。
「やっば! やめて」
 ゴミのように。

 どうして?

(4)
 広瀬奈央[ひろせなお]の足は小走りになる。
 泣きながら廊下を遠ざかっていく彼女の背中を、誰も見ていない。

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登場人物紹介

ミミュラ


このチャットノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。
紅茶もコーヒーも、ココアも好き。(下戸)

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