ショートストーリー「誰が見ている」(10)~(12)

文字数 666文字

(10)
 そのころ泉真斗[いずみまなと]は自宅の自室で、
 全身から血の気の引く思いで、広瀬奈央にもらった金色のリボンの小箱を捜していた。
(11)
 いまごろ泉真斗は、この小箱を捜しているにちがいない。
 全身から血の気の引く思いで。
(12)
 広瀬奈央。
 入学してまだ誰も友だちがいなくて一人だったきみに、最初に声をかけたのは、私だよ。

 きみの落とした消しゴムを拾ってあげたのも私。風邪で休んだときノートを貸してあげたのも私。
「広瀬さんの髪、きれいだよね」
 樫尾まりながぬけぬけと真正面から言うのを、唇を噛んで聞いていたのも私。言えばよかった。私が先に。

 広瀬奈央。きみはね。
 気もち悪いよ。
 何。その自己評価の低さ。
 わかれよ。きみはね。きれいなんだよ。飛び抜けて。樫尾まりななんか、この頭からっぽのバカ女なんか足もとにもおよばないくらい。
 夜空に音もなく流れ落ちる花火みたいなきみの髪。きみの横顔。
 何なんだよ奨学生って。特待生[とくたいせい]って。授業料免除ってうちの高校だと入試でトップか2位だけだよね。どんだけ頭良いんだよ。天は二物を与えずって、うそだ。親が離婚? 関係ないし。

 きみの髪にさわりたい。
 死ね。泉。

 見なくてもわかった。広瀬奈央。きみは……
 泣いてた。
 廊下を遠ざかっていきながら。
 ふふ。

 バカばっかり。どいつもこいつも。
 笑える。
 不審な箱は拾わないようにしましょうねーまりなちゃん。あと泉くんも、自分の鞄から目を放さないようにしましょうねー。大事な大事なチョコレートを誰かに抜き取られたりしないようにねー。
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登場人物紹介

ミミュラ


このチャットノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。
紅茶もコーヒーも、ココアも好き。(下戸)

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