第7話 5D

文字数 972文字

鉄橋音頭という作品がある。
極めて文字数の少ないものだ。
僕は純文学が好きなのだけれど、それを具現する実力は持たない。
努力も不足している。
そして、日銭を稼ぐ事に追われ、書いては校正している時間がない。
実際に書き始めて数ヶ月、無限に書いていればそのうち美しい話が書けるかもしれないという、感触は掴めて来ている。
しかし、時間がない。
そんななかでも、考える事は出来る。
そして、文学とは「人間」が生活の中から穿り出すものだと考えている。
僕の作品が荒んで切羽詰まってるのは、僕の生活がそうだからだ。
あたらしい作品の構想、書きかけのもの、書いたもの。

鉄橋音頭に話を戻すと、これは唄である。
意図したわけではなく、そうなった。
一読してのイメージは、引用もとそのままの「トンネルテッキョー」のリズムのリフレインが思い浮かぶだろう。
しかし、ここからは意図が発生し、この作品は既に曲として成立している。
primal screamの「siip inside this house」。
その時点で13th floor elevatorsのカヴァーであるこの曲が、僕は大好きだ。
その素晴らしいイントロからAメロの演奏に乗せて、鉄橋音頭は歌われていく。
イントロ部をリピートさせたサンプリングに乗せて、ヒップホップ的な言葉を詰めたライム。
ベースがドライブするAメロ部に展開し、「トンネルテッキョー」は、ゆったりと男声セクシーボイスで重なっていく。
合間に、「アハ、アハ」とか、「イェー」とか、入りつつ。
その繰り返し。
それで、あの大好きで、自分にはとても生み出せない素晴らしい曲を、僕のものに出来る。
けれども、読者は好きな節をあてれば良いと思う。
勇ましいのも良い。
もの悲しいのも良い。
コミカルなのも、良い。
万が一メディアミックスが叶って、僕の意図した通りに録音され世に出た時、この作品は完成する。
と、同時に、ひとつのイメージに限定される。
それまでは、自由だ。
引用に次ぐ引用、引用の引用。
そこに、これまた別の引用。
誰かから産まれた僕らは、そうしてイノヴェイションを起こしていく。
どうせ日の目を見る事はないだろうけど。
そんな意図を知ったうえで、あなたなりの鉄橋音頭をもいちど、いや、2度3度、何度となく、うたってみて欲しい。
思わぬ拾いものがあるかもしれないし、やはり、何もないかもしれない。


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