◆第四章◆ 存在意義 -レゾンデートル-(1)

文字数 800文字

 ――許して…………。必ず……また迎えに…………。どんなに時が経とうとも、私はあなたを…………。必ず――!
 景色が歪み、音が遠のいていく。
 薄れていく意識にしがみつき、抗おうと力を込める。
 かろうじて腕を伸ばすが身体は重く、すぐに崩れ落ちた。
 全身から力が抜けていく。
 必死に何かを叫んでいたはずの自分の声すらも霞のように、かき消えていた。
 意識が世界から切り離され、暗闇の奥に深く深く沈んでいく。そして――
 …………
 次第に目の前が白く染まっていき、浮かび上がるような感覚に包まれる。
 うっすらと目を開くと、梁の剥き出しになった天井が見えた。
 差し込む光に目を細め、ディーンはベッドの上で寝返りをうつ。
 日当たりのよい南の角部屋。窓の向こうの太陽はわずかに傾きかけていた。
 白壁をぼんやりと見つめ、眠気の纏わりついた頭で記憶を掘り返す。
 ――遡ること数時間前。
 見込みより少し遅れ、ディーンたちは夜明けと共にミドガへと辿り着いた。
 ホークと別れ、エマを連れてディーンは宿へ戻った。
 早朝にも関わらずエレナは嫌な顔ひとつ見せることなく、二人を快く迎え入れてくれた。
 さすがに夜通しで山を越えた疲労は大きかった。ディーンは説明もそこそこにエレナにエマを任せ、自室のベッドに倒れ込んで――
 覚えているのはここまでだ。その後は泥のように眠っていたのだろう。
 ディーンはシーツを引っ張り、頭まで被ってくるまると甘い眠気の余韻に浸る。  
 けだるい身体を包む柔らかな感触がこの上なく心地よい。
「…………」
 このままゴロゴロしていたいが、そうも言ってはいられない。
 休息を済ませた後は、再びホークと合流し今後の事について話し合う手筈だ。
「……っ、んんー……っ……!!
 快適な寝床との別れを惜しみつつ。疲労が抜け切れていない身体を伸ばし、ディーンは起きあがった。
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