第3話 ヨキナ困惑
文字数 1,664文字
「会いに来たのではない……それは聞いていませんでした。しかしそれは」
ヨキナは困惑を表した。
「いえ、私はそのつもりだったのですが──会えるとは聞いていなかったもので。会えるのなら会わせてください!」
「ちょっとお待ちください」ヨキナはかなり困っていた。
「なんと言われましたか」
「課題をこなしなさいと、それははっきりと覚えています」
「課題をこなしなさい……ふむ、課題ですね。では、すべての望みを受け入れられたわけではないのですね」
「そう、なの、かもしれません」
「なるほど。ところで誰とお会いになりましたか」
「最初は女性の方でした。さっきまでそばにいたような気がしますが……今はいません。よく覚えていないのですが」
「彼女はコンタクトをとる存在です。その後です」
「ム……いや、ミ……だったかな。ん……マ?」
ヨキナが首を傾げた。
「あ! 思い出しました。キリストだったと言いました」
ヨキナの驚いたような気配がした。
「ミシュアですね!」
「ああ、確かそう名乗ったような気がします」
「ミシュアにお会いになりましたか。あの方は、なかなか会えない存在です。しばらくお待ちください」ヨキナは天を仰ぎ見た。
私はUFOと思われる乗り物の窓辺へ寄った。大きな地球が圧倒的な存在感で迫っている。これが本当に目に見えているのか、それとも夢なのか、分からぬまま、その景色を呆然と見ていた。
ふと気がつくとヨキナが背後に立っていた。
「太陽があるのにどうしてこんなにも暗いのですか」
「不思議ですか?」ヨキナは他愛のないものに興味を示した子供に対する、老いた祖父のように、ふっと笑った。
「はい」
「あなた方の目に物が見えるというのは、光が当たってそれが反射して目に届くからです。宇宙空間はほとんど何もない真空。何もないと言っても実際は人類が検知していないもので満ちているのですが、要するに太陽の光を反射する物がないからです。ですから光はまっすぐに通過して行くのです」
「通過して、いく」
「ええ、目に戻ってくる光がないので、宇宙空間は黒く見えるのですよ。自ら発光していないのに、地球も明るいでしょう? もしもその宇宙空間にあなたの手を出したら、太陽の光を反射してちゃんと明るく目に映ります」
なるほどそうだ。写真などで見るシャトルや宇宙服を着た人は光って見える。
「つまらない質問でした」
「いえいえ、興味を持つことはいいことです。坂上さん、あなたはここへ来る必要はなかったようです。ロサが、あ、ロサというのは最初にコンタクトをとってきたあの女性の名前です。
彼女ですらなかなか会えないミシュアを目の前にして、きっと舞い上がってしまったのでしょう。テレポテーションした先に、予想外の彼がいたのですからね。そのせいか内容を誤って伝えてきたようです。ミシュアの指示通りすぐに戻しますのでご心配なく」
「だ、ダメなんですか? 会えないんですか」
「はい、ここでは。あまり覚えてはいないでしょうがミシュアの言ったとおりです。それはおいおいと思い出してゆくはずです」ヨキナはゆっくりと何度か頷いた。
「チロチロと染み出た水が、やがてコンコンと湧く清冽な流れになるように」
「どういうことでしょうか」
「やがてわかります」
「今は教えられないということですか」
「そうです。ですから、ミシュアと交わした言葉も記憶から薄れつつあるのです。ひとつ、ミシュアからヒントです。目覚めたあなたは忘れているはずだから、もう一度伝えてくれと。あなたは何をしますか、ということでした。愛を学んでくださいということでした」
「何をしますか?」
「はい」
「愛を学んでください、ですか」
「はい」
「私が、ですか」
「その通りです」
ヨキナは困惑を表した。
「いえ、私はそのつもりだったのですが──会えるとは聞いていなかったもので。会えるのなら会わせてください!」
「ちょっとお待ちください」ヨキナはかなり困っていた。
「なんと言われましたか」
「課題をこなしなさいと、それははっきりと覚えています」
「課題をこなしなさい……ふむ、課題ですね。では、すべての望みを受け入れられたわけではないのですね」
「そう、なの、かもしれません」
「なるほど。ところで誰とお会いになりましたか」
「最初は女性の方でした。さっきまでそばにいたような気がしますが……今はいません。よく覚えていないのですが」
「彼女はコンタクトをとる存在です。その後です」
「ム……いや、ミ……だったかな。ん……マ?」
ヨキナが首を傾げた。
「あ! 思い出しました。キリストだったと言いました」
ヨキナの驚いたような気配がした。
「ミシュアですね!」
「ああ、確かそう名乗ったような気がします」
「ミシュアにお会いになりましたか。あの方は、なかなか会えない存在です。しばらくお待ちください」ヨキナは天を仰ぎ見た。
私はUFOと思われる乗り物の窓辺へ寄った。大きな地球が圧倒的な存在感で迫っている。これが本当に目に見えているのか、それとも夢なのか、分からぬまま、その景色を呆然と見ていた。
ふと気がつくとヨキナが背後に立っていた。
「太陽があるのにどうしてこんなにも暗いのですか」
「不思議ですか?」ヨキナは他愛のないものに興味を示した子供に対する、老いた祖父のように、ふっと笑った。
「はい」
「あなた方の目に物が見えるというのは、光が当たってそれが反射して目に届くからです。宇宙空間はほとんど何もない真空。何もないと言っても実際は人類が検知していないもので満ちているのですが、要するに太陽の光を反射する物がないからです。ですから光はまっすぐに通過して行くのです」
「通過して、いく」
「ええ、目に戻ってくる光がないので、宇宙空間は黒く見えるのですよ。自ら発光していないのに、地球も明るいでしょう? もしもその宇宙空間にあなたの手を出したら、太陽の光を反射してちゃんと明るく目に映ります」
なるほどそうだ。写真などで見るシャトルや宇宙服を着た人は光って見える。
「つまらない質問でした」
「いえいえ、興味を持つことはいいことです。坂上さん、あなたはここへ来る必要はなかったようです。ロサが、あ、ロサというのは最初にコンタクトをとってきたあの女性の名前です。
彼女ですらなかなか会えないミシュアを目の前にして、きっと舞い上がってしまったのでしょう。テレポテーションした先に、予想外の彼がいたのですからね。そのせいか内容を誤って伝えてきたようです。ミシュアの指示通りすぐに戻しますのでご心配なく」
「だ、ダメなんですか? 会えないんですか」
「はい、ここでは。あまり覚えてはいないでしょうがミシュアの言ったとおりです。それはおいおいと思い出してゆくはずです」ヨキナはゆっくりと何度か頷いた。
「チロチロと染み出た水が、やがてコンコンと湧く清冽な流れになるように」
「どういうことでしょうか」
「やがてわかります」
「今は教えられないということですか」
「そうです。ですから、ミシュアと交わした言葉も記憶から薄れつつあるのです。ひとつ、ミシュアからヒントです。目覚めたあなたは忘れているはずだから、もう一度伝えてくれと。あなたは何をしますか、ということでした。愛を学んでくださいということでした」
「何をしますか?」
「はい」
「愛を学んでください、ですか」
「はい」
「私が、ですか」
「その通りです」