こんなことってあるの

文字数 1,096文字

 気持ちが上がるのって、こんなのかなって思うけど、少し違うんじゃないかと冷静に考えて落着き振り返れば、お気に入りのトリプルテールの髪先に五月の海風が嬲るのが不快に感じないのはアイツのせいだから、嬉しくてそわそわして、別れ際の言葉を想い返してみたりして、やっぱ、これってラッキーなのかな、アイツ考えて喋らないから、でもでも、別にいいじゃん、何気ない一言が刺さるって救うってこともあるし、ああぁ、週明けの最悪な朝がこの流れに繋がる予兆だったのかと納得しているけど、あれって、えっと、定めって運命に直面しているのかな、それなら十五年の人生を見直してしまうから楽しくなって、来てるかなって複雑に考えてしまうけど、そんなこと今はどうだっていいよって、笑顔で自分に言い聞かせながら下校の海岸通りを次のバス停まで進める足取りも軽いのが分かるから、背中に羽が生えているのを誰かに二度見させたりしてほくそ笑む、今ってこの姿はカミって思いたくなる気持ちが先走って叫んでみたい衝動に、堪え切れずに短めのスカートの裾が跳ねてしまうけど、キュンとする心のどこかで欲張っているのかもしれない、それでも幸せって疑わないぐらいに心が駆けるのが分かるから、海に続く道は幻だった?

 「マジ、落ちたし。」
 「飛ぼうとしてたとか?」
 「いゃいゃ、駆けてるとね。道がなかったわけよ。」
 「なに、それ。」
 「海岸通りを走ってたんだ。」
 「えっ? 逃げてたってとか。」
 「ちょい、違うかな。時々、駆けだしたくなるってあるじゃん。嬉しい、悲しい、楽しい、辛い、とか。うーん、理由がなくないってこともあるけどね。」
 「解らんし……。」
 「ええええっ……、この気持ち届いていないとか。」
 「だから、理解なし。」
 「アンタが原因でしょう。」
 「はぁ、マジ分かんない。」
 「嬉しかったよぅ。」
 「なにが、どれが、どうして。」
 「憶えてないなんて、最悪。」
 「ボク、同性ダメだよ。」
 「それって、このご時世、ダメだぁ。」
 「幼馴染だけでいいじゃん。」
 「アンタが、他と仲良しなんて考えるだけでも泣いちゃう。殺意抱くよ、屈折ラブ。」
 「それ、マズいでしょう。」
 「そんぐらいね。好意してるわけ。」
 「だから、困るよ。それに、スカート変だよ。止めなよ。」
 「それ偏見すぎ。」
 「ボク的に正しい見方だけど。忠告したよ。」
 「あっ、先行こうとした。許さないし。」
 「置いてけぼりはしないよ。」
 「もぅ、駆けださないで。」
 低い段差を踏み外して、暫くは足首の固定だけど、これがダブルチャンスと期待すれば嬉しくて笑顔になってる。
 こんなことってあるから、楽しい。
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