星空に雪が降る

文字数 1,195文字

 同じ星空を見ている。
 今夜も、彼からの動画が届く。
 スマホに映る星空は、とても遠い。
 梅雨明けの空港で見送って一ヶ月が過ぎた。
 男友達、年下の学生。
 夢を探して必死にあがいている。
 その真摯な姿は、息苦しくさせた。不器用な昔の姿を見ているように感じるから。

 女友達のマリナは、意見に遠慮がない。
 「ワタシたちって、もうすぐ二十九だよ。」
 先週、男と別れたマリナの忠告が重い。
 「年下なんか、ムリっでしょ。学生、絶対ダメって。」
 頭では、分かっている。
 「それに、あの子。何か隠しているよ。オジサマラブ。だったりして。」
 マリナの勘は、当たっているかもしれない。不味い嗜好を持っていても、それなりに許してしまうだろう。彼を知りたい思いが募りながらも、憶病に傾ぐ。

 彼が、バイトの面接に来た日を覚えている。
 目立たない静かな学生だった。気遣いができるのに驚かされた。余計な言葉を使わないからだろうか。何を考えているのか理解されずに勘繰られてしまう。
 気が付けば、意識する存在になっていた。
 「十九って、子供だし。実家のバカな弟より、ガキじゃん。」
 マリナの見方は、正しいだろう。
 「遊びなら、いいけど。それはそれで、結構辛いよ。覚悟してったりしてもね。」
 マリナは、自身の過去と重ねているのだろうか。他人に言えない苦い思いを引き摺っているのは知っている。
 「初めてが、アレですか。愛される方が、幸せだよ。その複雑な性格知らずに、言い寄る男、多いと思うけどな。」
 辛辣にマリナが挑発する。
 「まぁ、いいけど……。次の合コン、行くよ。お嬢を、撒き餌にしたいから。」
 「そうね。協力しますか。」
 長い髪がうっとうしい。切ってしまえば楽になるのは分かっている。自慢のストレートを気にする彼の顔が思い浮かぶ。背伸びする子供のように盗み見る仕草が、いじらしかった。
 そのような気分に躓いて、心の中で幾重にも積もる想いをなどってしまう。
 『見守ってあげたい。出来ることってあるかな。分からない。……たぶん。ワタシも捜しているから』
 それなのに、出会った頃から口喧しく接した。
 ──バカ、ですね。どうでもいいでしょう。君の悩みなんか、ちっちゃいですよ。
 伏し目がちな視線で訴える年下に胸が熱くなる。気持ちを隠して言い放つ。
 ──それ、止めなさい。気持ち悪いです。傾いていたっていいのですよ。自信を持つ。立ち止まっている時間は、どこにあるのでしょう。今は、進みなさい。
 冷たく一方的に叱る。密かに感情が昂ってしまう。彼に向ける無軌道な言葉が、心の中を引っ掻いている。
 一人っ子だから、弟が欲しかったのかもしれない。そう思えば納得できる。
 『寂しいだけのワタシは、この先も素直になれない。』

 今夜も、同じメッセージを返す。
 【ちゃんと食べましたか。暖かくして、お休みなさい……。】
 南半球の八月、星空に雪が降る。
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