雑談・熊のおはなし・Ⅱ
文字数 1,365文字
まあ理由を聞かれたって、聞く人に納得できるように説明出来ないわよ。
行きたいから行く、でしかないんだもの。
せいぜい自分に出来る用心をして行くだけだわ。
いざとなったらパニクって、自分に向けて噴射する自信が120%あるわ。
まあでも、常備していた時期もありました。使わんで済んでヨカタ。
でもね、所詮、非力な私に出来る一番の用心は・・
いや今だったら考えられないけれどね、
当時、山ってそこまで人口密度が高くなかったのよ。
実際、マイナーでもない山なのに平日に登って、
スタートから下山まで、誰一人会わなかった事もあるわ。
蜂やカラスに追い掛けられただけでも山だったら命の危険を感じるし。
単独がメインの私に出来る用心は、周囲に人間がワラワラ居る状況で登る事、だった。
裏側一面雪渓で道が埋もれてて、モヤがすごくて、
「これは独りで行っちゃダメな奴だ」と、誰か来る迄ずっと待っていた事があるわ。
四十分ぐらい。吹きさらしで。
そしたら、ナンチャラツーリズムのバッジ付けた数十人の団体さんがやって来て、
「こんなんすべり下りたらいいんだわさーー」って、
ワイワイと、てんで勝手に尻滑りで下りて行っちゃって。
あと一息って所で、最後の沢に出た時、
すごく、におった、の・・!
狐の匂いじゃない、全然違う。
もっと濃厚で、生臭い。
それこそ、今吐いたばかりの息のような。
全方位からじっと見られているような気がして。
足がすくんだすくんだ。
どっちに行く? 進むか、戻るか?
多分考えて立ち止まっていた時間は十数秒だけど、えらく長く考えて、結局登った。
もう九割がた来てて、あとちょっとで人の多いロープウェイ駅って分かってたから。
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