イージー・ライダー

文字数 1,600文字

ズドン!
くせ者め、何奴じゃ!?
王妃様の猟銃が火を噴き、赤い帽子を吹き飛ばしました。
ちょっ……お、お待ちを! 怪しい者ではありません。ご覧くださいこの格好を! どう見てもサンタ……
……。
ズドンッ!

再び、銃口から硝煙が立ち昇ります。
怪しくないわけがなかろう。そのサングラスはなんじゃ!
そう。そのサンタさんは一か所だけ(?)間違えておりました。

不思議なもので、サングラスをかけているだけで、サンタというより悪者に見えてしまうのです。

これはホールドアップ不可避というもの。

ただえさえ、住居に不法侵入するお仕事なのですから、コスチュームは一分の隙もないようにしておきたいものですね。
次は狙う。
アパム、弾をもて。
私はアパムではございません。
お待ちを! どうかお待ちを!
身じろぎもせずに、しっかりを照準をつける王妃様に、サンタさんは慌ててサングラスを外しました。
王妃様、憶えておいでですか、私です。
おお、そなたは……。
その青い顔には見覚えがありました。
それは、かつてアリスちゃんの星で出会った上司様だったのです。
ご無沙汰しております。
サンタクロースとはそなたのことであったのか!
いえ、これはちょっと余興をと思っただけで……。
危うく殺される所でしたけれども。

誤解も解け、上司様は再びサンタクロースの扮装に戻りましたが、王妃様は残念そうでした。
なんじゃ、フリをしておるだけか。今年こそはと思ったというのに……。
ふと見れば、庭にはトナカイでもソリでもなく、ハーレーダビッドソンのバイクが停まっておりました。

物凄いチョッパーなのが若干トナカイっぽかったですが、それはさておき、こんなマシンでサンタの格好をして突然ふらりと現れるというのはいかにも酔狂です。
いったいどうしたというのじゃ?
はあ、それが……あの、ひとつよろしいですか?
なにかえ?
銃を降ろしていただけますか? 必要ありませんので。
そうか。
ありがとうございます。
それで、一人で参ったのかえ? アラサはどうしておる?
アラサではございません。アリスでございます。
上司様は訂正をいたしました。

愛する女性の名前ですから、たとえ王妃様のような身分の高い方に対してでも、間違いを正さずにはおれなかったのです。
アリスマス?
クリスマスっぽいですね。
いえ、アリス……
おお、そうじゃ。アリスーであったな。
違います。
伸ばすのはやめてあげてください(あと、イントネーションも)。


ですが、今度の間違いは微妙な間違いだったので、上司様もそれ以上は言えませんでした。

それに実は少し、それ以上強く訂正を求めるには……問題があったのです。
アリスは……まあ、その……。
……!
上司様らしからぬ歯切れの悪い様子に、王妃様はピンときました。
ははーん。
王妃様に限らず、女の人というのは勘が鋭いのです。
それは女性ホルモンにそういう働きがあるからです。

そして、男の人というのは、ときどき、わけもなく放浪の旅に出たり、一人の時間を欲しがったりします。
これも男性ホルモンにそういう働きがあるからですが、この場合は……。

そう。これはもう、二人の仲に何かあったに違いありません。
遠路、ご苦労であったろう。どうじゃ、中で菓子など。
いえ、そこまでは……。
よいよい、旅の土産話でもしながら、わらわの心ばかりのもてなしを受けてたもれ。
本当に興味があるのは旅の話ではなくて、アリスちゃんとの仲の話なのですが、それはおくびにも出さず、しかし、丸わかりの態度で、王妃様は上司様を強引に引き留めようといたしました。

女の人というのは、そういう話に目がありませんからね。

上司様は上司様で、それを察して大人の撤退モードです。
いえいえ、もう本当に玄関先のご挨拶だけで……。
トリック・オア・トリート!
メリークリスマス!
上司様は考えなおして、おもてなしを受けることにしました。
……。
色々と思う所もありつつ、口を挟まぬパイナップルでした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

ダイレクトメール

素晴らしい思いつきを、あなたへ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色