パイナップルの提案

文字数 1,866文字

なんじゃ? 申してみよ。
お殿様は身を乗り出しました。

パイナップルは家臣の中でも知恵者と評判だったのです。
実は、先日このようなダイレクトメールを受け取りました。
パイナップルが殿さまに見せたのは一通の封書でした。
ふむ。なんだそれは?
遠くの星のご婦人からの便りでございます。
……!
それを聞いて、殿様だけでなく、その場にいたフルーツたちは全員顔色を変えました。

「ご婦人」と聞いては心穏やかではありません。
今まで誰も本物の女性に触れたことはおろか、目にしたことすらなかったのですから。

皆、固唾を呑んでパイナップルが話を続けるのを待ちました。
こういったことは女性に決めて頂くのが一番公平だと思います。この女性をお招きして裁判をしてもらうのです。
なんと……!
これはとんでもない、大胆な提案でした。
この星始まって以来のことです。
そ、そんな大それた……前例のないことだぞ?
ジャックフルーツは貴公子然とした対面を保つよう、精一杯動揺を押し隠して尋ねました。
他に方法はありますか? 我々だけではお互い自分が一番だと言い張るばかりでしょう。
パイナップルの言う事はまさしく正論でした。

しかし、他のフルーツたちは、お殿様も含めてモジモジとするばかり。

こういう、正論を堂々と言っちゃう人っていますよね。そして、そういう人は一般の人々の気持ちがわかってないというか。

なんというか、その……そうじゃないんだよなあっていう。
(ううむ、言いたいことはわかるんじゃが……)
(そ……そりゃあ……女の人に決めてもらうというのは公平だろうけど……)
(でも、だからこそ、取り返しがつかないってこともあるんじゃないのか……?)
(一番になれれば良いが……)
(そうですね。一番なら良い……しかし)
(もし自分が選ばれなかったら……!)
(万一、俺の「ちょんまげ」が否定されてしまったら……)
(それも、仲間内ではなく、女の人に、直接!)
(クリティカルすぎるざます!)
誰もそんなこと望みはしてないなのです。

場には果実の甘い香りに混ざって「余計なこと言いやがって」という空気がめっちゃ漂う感じでした。

かといって、誰も、それを表立って言う事もできないのでした。

「チキン野郎」
になってしまいますからね。
彼らはフルーツですから、肉呼ばわりされてしまうのは屈辱だったです。
その……失礼にならないでしょうか? 女性はこういう下品なことはお嫌いなのでは?
控え目な口調でパパイヤが言いました。

普段は軽んじられがちな彼でしたが、このときばかりは皆、「上手いこと言ってくれた!」と感謝しました。

しかし、空気を読まない奴が約一名。
それは心配ないと思いますよ。
この内容をご覧ください!
そう言って、パイナップルが便りの文面を皆に見せました。
「おちょろちょろ」
意味不明な内容に、殿さまをはじめ皆がハテナという顔となりました。
……すいません。間違えました。同じ方から1000通ほど似たようなものが届いていたもので。
パイナップルは気を取り直して、見せたかったほうの便りを取り出しました。

するとそこにはこう書かれていたのです。
「わらわのオナニーを見てくれる人、この指とーまれ♪」
「……!」
またしても全員の顔色が変わりました。
(み、見たい……!)
なんという「童貞を殺すダイレクトメール」!

この誘惑は青い果実たちにとっては、どうでも抗いがたいものだったのです。

女の人のオナニーですよ!

「自分が選ばれなかったら」という先ほどまでの憂慮と天秤にかけても、これには欲望のほうが勝ちます。

差出人は『王妃』とありますから、きっと間違いのない裁定をして下さると思います。
これがとどめとなりました。
決め手は「間違いのない裁定」ではなく、当然「王妃」という部分です。

王妃様のオナニーですよ!

プレミアつきです。この機会を逃しては、次はいったい何年後……いいえ、きっともう二度とこんなことはないでしょう。
……俺は賛成だな。
最初にそう言ったのは龍の形の「ちょんまげ」をしたドラゴンフルーツでした。

彼は格好をつけるのが上手なフルーツで、どういうタイミングでどんな言い方をすれば見透かされないかをよく心得ておりました。

そして、内心、選ばれるのは自分だという自信もあったのです。

ああ。いい考えのように思う。
次に、キワーノがもったいぶって頷きました。

その「ちょんまげ」はゴツゴツとしたイボつきでした。彼もまたけっこう自信があったのです。

そうなってしまえばあとは雪崩のようなものです。
この方を国賓としてお招きましょう!
フルーツたちは一斉にお殿様に詰め寄りました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

ダイレクトメール

素晴らしい思いつきを、あなたへ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色