フィールド・オブ・ドリームス

文字数 1,634文字

女性はその気になれば、どんな話でも聞き出すことができます。

王妃様の御殿に上がってものの五分も経たぬうちに、上司様は悩みを打ち明ける流れになっておりました。
実は……アリスが最近おかしいのです。
ほうほう。
僕のことなどそっちのけなのです!
他人様の悩み事というのは聞いているだけでコラーゲンが増えてお肌がツルツルになるものです。
それは気の毒なことにのう……。
彼女が何を考えているのか、もうさっぱりわかりません……。
そして、愛する人のことで心を千々に乱される男の人の姿というのは、どうしてこうセクシーなのでしょう。

目にしているだけでアンチエイジング効果があります。

王妃様はもう、よだれを垂らさんばかりとなっておりました。
あれほどそなたにお熱であったというのにかえ。
今風に申せばゾッコンであったというのに!
そう思いたいのですが……。
あれほどアツアツであったというのに。
今風に申せばアチチであったろうに!
ごめんなさい。アンチエイジング効果はないみたいです。
二人で仲良くゴルフをしておるのではないのかえ?
ゴルフ場は……もうありません。
なんと!
アリスが野球場にしてしまいました。
……?
これはどうしたことでしょう。

あれほど立派に整備されていたゴルフ場を潰して、今度は野球場を?
それはまたどうしてじゃ? 旗の抜き差しに飽きたのかえ?
わからないのです。お告げを聞いたのだと、ある日突然……。
なんだか、そんな映画が昔あったような気がします。
して、どのようなお告げじゃ?
それを作れば彼が来る――と。
いよいよもって『フィールド・オブ・ドリームス』です。

しかし、王妃様が反応したのはそこではありませんでした。
彼――じゃと!?
他の男の影……!

これはいけません。本命以外の他の男というのは、基本、アテ馬に限ります。

ヒロインが本命といい感じになると何故か突然告白してきて、結局「本命の方が好き」と振られるのが役割です。

惨めったらしく涙を流してヒロインにすがり、たまにストーカーに変質したりして、逆に本命に撃退されるとか、そういうのです。

なのに、その「彼」とやらを招くためにゴルフ場を潰してまで野球場を作るとなるとこれは――
……やりすぎであろう! 不埒な!
聞き捨てなりませんでした。
うっとりとしてばかりもいられぬ話題でした。

女の人はこの手のあやまちにとても敏感です。そして手厳しいのです。

ウワキ。ダメ、ゼッタイ。
うわき、カッコ悪い。

(※但し、自分を除く)
他に男がおると申すか! 今風に言えばゲス不倫であるというのか!
王妃様は、上司様もタジタジの勢いでまくしたてました。
まったく、アリスーも堪え性のない……玉の輿であろうに! のう、こういうのはシンデレラ・ストーリーと言うのであろう?
そうですね。
王妃様に同意を求められたパイナップルでしたが、返事はそっけないものでした。

シンデレラはカボチャが活躍するので、あまり好きな物語ではなかったのです。
あいわかった!
王妃様は上司様に向かって胸を張ってみせました。
わらわが出向いてアリスーに淑女の嗜みのなんたるかを説いて進ぜよう!
……。
なんだか大事(おおごと)になりそうな予感に、上司様は喋りすぎてしまったことを後悔しました。
いえ……王妃様のお手をわずらわすようなことでは……
しかし、王妃様はノリノリです。もう完全にその気になってしまわれておりました。
よいよい、遠慮をするでない。わらわがしかと……!
え……と、その……。
王妃様。夫婦喧嘩は犬も食わぬと申しますが。
見かねたパイナップルが、助け舟を出します。
わかっておる! 食すのはバターであろう!
説得は失敗に終わりました。
あの、王妃様。本当に、その……。
苦しゅうないぞよ。トリック・オア・トリートの心意気じゃ!
意味が分かりません。
ていうか、その心意気は問題があると思います!
留守番はお任せを~♪
こうして、押し切られてしまった上司様は、ハーレーダビッドソンの後部座席に王妃様を乗せ、再び自分の星へと引き返すことになったのです。
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登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

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