理不尽なルール

文字数 2,339文字

う、うむ。しかし……。
殿様としても、このダイレクトメールの差出し人である貴婦人を招きたいのはやまやまでした。

ですが、問題がひとつあったのです。
どうやってお招きすれば良いのじゃ?
フルーツしかない星でしたから、移動手段も、通信手段もありません。
あれがございます、殿。
またしてもパイナップルが助言をしました。
お城の倉にしまい込んでいた魔法のランプを使うときにございます。
おお、それがあったか!
ランプには魔人が住んでおり、呼び出した者の願いを何でも三つ叶えてくれるのです。

ですが、お殿様はとても羽振りがよかったので、ことさら望むものなどなく、むしろ逆に「お前の望みを叶えてやろう」だとか「褒美を取らせよう」とはからった為に、魔人はいじけて引き籠ってしまっていたのでした。(どうも果物というのは空気を読む能力に欠けているのかもしれませんね)

早速ランプをシコシコすると、中から魔人がドピュッと飛び出しました。
ようやく望みを思いついたか。
うむ、お主の出番じゃ。
嬉しいぞ、ならば言うがよい! どんな望みでも三つ叶えてやろう!
それでは飛行機を出して……
お待ちください、殿! 飛行機には空港が必要です!
それでは、まず空港を出して……
いいえ、お待ち下さい。そもそも飛行機で何をしようというのですか。
決まっておろう。飛行機で行って余が出迎え、直接お連れするのだ。
それでもって、国賓待遇でやって来た美しい王妃様が、飛行機の扉をあけ放つなり、レッドカーペットの敷かれたタラップを降りもせず、いきなりその場で御開帳!
フルーツたちの誰もが、そんな男の子ウケ抜群の絵面を頭に思い描いてワクテカしていたのです。

ですが、パイナップルはあくまで冷静でした。
殿は飛行機が操縦できるのですか?
おお、そうであった。ならばまず余をパイロットに……
お待ちください! そうではありません!
なんじゃ、うるさいのう。
それでは願いの数が足りなくなってしまいます。
どうしてじゃ、空港、飛行機、パイロット、三つではないか。
いいえ、畏れながら、殿はドリアンでござますれば……。
……!
そうなのでした。
お殿様はドリアンでした。フルーツの王様ですからね。

しかし……しかし、そうなのです。
ドリアンは機内への持ち込みが禁止されております。
そ、そうであった……!
お殿様は、生まれて初めて自分がドリアンであることと、航空会社の理不尽なルールを呪いました。
こういたしましょう、私を贈り物として届けるのです。
どういうことじゃ?
王妃様のような高い身分のお方を手ぶらでお招きするのは失礼ですから。
そうじゃな。
ですから、私めを。パイナップルは贈り物として女性に喜ばれます。
ドリアンも喜ばれるぞ。
これには他のフルーツも「俺だって」という顔をして、お殿さまに同調しました。
もちろんそうですが、あまり高価すぎてもかえっていけません。私ぐらいがちょうど良いのです。
本当は「何言ってんだ」と言いたいところをグッとこらえてパイナップルは大人の対応をしました。
ふうむ……しかしのう……。
(もしかしたらこ奴、抜け駆けして先にひとりだけオナニー鑑賞をしてしまうのではないか……そればかりか、もっとイイコトをしてそのまま帰って来なかったらどうしよう)
いつもの気前良さはどこへやら、お殿様は、みみっちい懸念をしておりました。

しかし、童貞にとってこれはさほどに重大な事案だったのです。

パイナップルもそんなことは百も承知。
そこで、もうひと押しプレゼンテーションを加えることに。

殿、これは偵察も兼ねております。
偵察とな?
そうです。
万一、王妃様が見目麗しい方でなかったらいかがいたします。
……!
これには、お殿様だけでなく、一堂ハッと目が覚める想いでした。

「女の人のオナニー」ということに舞い上がって、肝心なことを忘れていたのです。パイナップルの言うことは実に理にかなったもっともなことでした。

「但し、イケメンに限る」というのは女性だけの我儘ではないのです。
ですから、まずは私を贈り物として王妃様の下に。
よかろう!
お殿様は魔人にそう願いました。

パイナップルが王妃様への贈り物として届くように。
偵察成功のあかつきには飛んで戻って来れるように。
承った。
残りひとつは、王妃様がこちらの望み通りの美女であったときに、お迎えする為に使うことにして残しました。
頼んだぞ!
この身命に代えましても!
こうしてパイナップルは星の王妃様の下へと贈られていったのです。

なお、このとき魔人はついうっかり、すべてのパイナップルにそんな新しい性質を与えてしまいました。

ですから、これ以後、星の世界では毎年ある季節になると様々な星で暮らす王妃様にパイナップルが届くという事態となってしまったのですが、それはまた別のお話。


……さて、パイナップルはきちんと使命を果たして戻ってまいりました。
ただいま戻りました~!
王妃がそれは麗しく、情け深く、黒のパンタロンも良く似合う素敵な大人の女性であると聞き、皆は大喜びでした。

もうあとは、この星にお運び下さったおみ足を、ぱっくりと開いて頂くばかりです。
ですが、お気をつけください! 偵察でわかったことがあります!
パイナップルが厳めしい顔で注意を促しました。
なんじゃ?
モロ語は禁止です。命に関わります。
……!
その後、テングヤシを座長とする有識者会議を何回も開いて、「オナにちは!」「クンにちは!」も王妃様滞在中は使用を禁じることになりました。
偵察もしてみるものだのう。
危ない所でした。
パイナップルは何かを思い出したかのように身震いをしたものです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

ダイレクトメール

素晴らしい思いつきを、あなたへ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色