戦場のメリークリスマス

文字数 2,032文字

アイドルとはなんぞな?
まず、お尻がシュッとしております。
ふむ。
そこにはあまりそそられない王妃様でした。
そして、たいていは美少年です。
ほう。
今度は王妃様の眉がピクリと反応して、少しだけ跳ねました。
ありていに申しますと、色々なタイプの美少年の集団でございます
なんと!
そして、美少年たちが自己表現するのでございます。
び、美少年が自己表現とな……!
なんという破壊力のある言葉なのでしょう。
王妃様はグラッと来てしまったことを認めざるを得ませんでした。
し、して、その……自己表現というのはどのようなことをするのじゃ?
しどけなく歌って舞い踊るのでございます。
おお……。
ジャケットの前をはだけてみせたりするのです。
それはたまらぬな。ほ、他には……
ローラースケートで滑ったり、バク転をしたり、トロッコで花道を駆けたりもいたします。
まことか……!
更には、ワイヤーで吊られて空中でブランブランと揺れもするのです!
夢のようじゃな!
そうですとも、王妃様!
説教するどころか、すっかり話に引き込まれてしまった王妃様でした。

ですが、これはしかたありませんよね。

それによく考えたら、男の人が美少女フィギュアを買うのは不倫ですが、女の人がアイドルに夢中になるのは不倫ではありません。
そのために、大切なゴルフ場を潰してまで野球場を……。
はい。それを作れば彼らは来るのでございます!
でかしたぞよ!
お、王妃様!
これにはさすがに上司様も口を挟まずにはおられませんでした。

ミイラとりがスフィンクスです。ピラミッドパワーにも程があります。
これではゴルフができません! それだけじゃない……あんなものまで!
見れば野球場からは、上司様の星の裏側にあるピラミッドまで続く、長い長い、それはもう明らかにやりすぎな感じの花道までこしらえられておりました。
なんと!
しかし、王妃様の目にはもう、ピラミッドから颯爽と現れた美少年たちがトロッコでその坂道を転がって来る情景しか思い浮かびませんでした。
まあ、よいではないか。多少のことは大目に見るのが殿御の器量ぞ。
ちょっ……
やりすぎであったとしても、むしろそれを一緒になって楽しむぐらいが包容力のある男というものじゃ。
そう言われては、上司様も言い返すことはできませんでした。

まあ、彼も若い頃は浮遊大陸だとか、人口太陽だとか、やりすぎ感のある建造物を作ってましたからね。痛い所ではあります。

王妃様の寛容な物言いにアリスちゃんも深く感じ入ったようでした。
王妃様。私も最初は戸惑いがございました。ここまでやってしまってよいものかと。しかし、最後にもう一度、お告げがあって吹っ切れたのです。
最後のお告げ……? それはなんと?
それは……。
アリスちゃんは深く息を吸い込むと、神々しいそのお告げを口にしました。
YOU、やっちゃいなよ! ……と。
そして、やっちゃった、と。
……。
何か言いたそうな上司様でしたが、場の空気はもう完全にアウェーです。味方だったはずの王妃様は完全に取り込まれてしまっておりました。
それで、彼らは来たのかえ?
それが、まだなのでございます。
ですが、きっと来てくださいますわ! だってこうして王妃様までいらしてくれたんですもの!
そうじゃな。
そんなわけで、その夜。

ご婦人方二人はスタンドを照らすナイター照明の下、ワクテカしながら「彼ら」を待ち受けました。(上司様も一応その場に立ち会いました)

王妃様もアリスちゃんも、ペンライトを輝かせ、うちわを構えて、いつでも黄色い声を張り上げる準備は整っておりました。

……そして、彼らは来たのです。

パァンッ!

エアーショットが鳴り響き、金と銀のキラキラしたテープシャワーが舞い上がりました。

花道の先にある荘厳なピラミッドの入り口の奥からは眩い光が溢れ出し、その奥に、光の向こうに、人影が……。

きっと、あれがアイドルです!

おお、なんじゃ、この胸の高鳴りは!
はい。このまま失神できそうですわ!
……。
アイドルとはいいものじゃな……。
まことにございます。
キヨシー!
王妃様、まだです! コールは決められたタイミングが作法でございます!
はああっ……たっ、たまらぬ……どうにかなってしまいそうじゃ!
は……はい、ああっ……わ、私も、もう!
二人とも、お股はすでに真っ赤なお鼻のトナカイさんでした。
暗い夜道でピカピカ光って道案内できそうなほどに。

そして、光の中から「彼ら」がついに姿を現したのです!
それは、美少年というより……どう見ても果物でありました。
……。
……。
……。
折しもそれはクリスマス・イヴ。
待ち人の来ない夜。

夜空の向こうからは雪がハラハラと舞い始め、ホワイト・クリスマスとなりそうでした。

王妃様の星では、クリスマスツリーの飾りつけをしたパイナップルが、そんな出来事も露知らず、ひとり健気に王妃様の帰りを待っておりました。
ふんふ、ふふんふ、ふふんふーん……♪
山下達郎を歌いながら。
第四章 星のお告げ様 Fin
アパム、弾をもて。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

ダイレクトメール

素晴らしい思いつきを、あなたへ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色