迷子の女の子

文字数 906文字

ある日のこと、王妃様の星に少女が迷いこんでまいりました。

白いエプロンのよく似合う、見るからに田舎の純朴そうな娘でありました。
……と、言うには少しトウが立ちすぎてはおらぬか?
王妃様は怪訝そうに尋ねました。

というのも、少女は白いエプロンこそ身につけているものの、その下に着ているのはOLの制服だったからです。
そんなことはございませんわ、王妃様。
少女は、小粋に小指を立てて眼鏡の片方のつるを持ち上げると、勝気な顔を作って答えました。

女の子というのは、おしゃまなもの。

たとえ迷子で心細くても、耐えきれずに泣き出す限界ギリギリまでは、ツンと澄まして平気な顔をし、強がってみせたいものなのです。
そうであろうか。
そうでございますとも! わたくし、お茶会が大好きですもの。女がお茶会を開けば女子会と言うのです。ですから、アラサーでも女の子ですのよ。
アラサーというのはそなたの名か?
王妃様はアラサーという言葉の意味を知りませんでした。
高貴な存在なので下々のことにはうといのです。

……別の意味の下々のことにかけてはエキスパートではあったのですが。
いいえ! アラサーではございません。アリスと申します。
似たようなものではないか。
全然違います!
少女――アリスちゃんは何故かムキになって言い返しました。

……が、そこで何かを思い出したようです。
王妃様の顔色をうかがいながら、恐る恐る尋ねます。
王妃様、もしかして王妃様はクリケットがお好きでしょうか?
クリ……?
もちろん、大好きじゃ。
それ、多分違います。
ひぃっ……で、では……首をお撥ねになったことは?
……首、とな?
王妃様は優雅な所作で、ご自分の豊満な御胸に目を落としました。
プレイとして一考の余地ありと思えたからです。

しかし、すぐに結論は出ました。
撥ねるなどありえぬ! そのようなことをしては捗らぬであろう。滅相もない! 撥ねるのには断固反対じゃ。
それを聞いてアリスちゃんはホッと胸を撫で下ろしました。
そなたは……撥ねておるのか?
とんでもございません! ついていればこそ、こうして生きて毎日が送れます。
さもあろう、さもあろう……。
王妃様は同意を得て、満足そうでした。

それも、多分違いますけど。
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登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

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