未知との遭遇

文字数 1,505文字

上司様の星の青々としたグリーンのど真ん中には、話に聞いた通りでっかい野球場が出来上がっておりました。

その大きさは、ゆうに東京ドーム8個分はありました。
この有り様なのです……。
ううむ。こうして実物を目にすると、実にけしからん!
本命をないがしろにするにしても、ほどがあります。

ちょうどそのとき、アリスちゃんがやってまいりました。
あら、王妃様! お久しゅうございます!
アラサよ、そなたの心得違いを正しに参ったぞよ。
王妃様は威厳を備えた物腰でバイクから降りると、形の良い顎をキリリと上げてアリスちゃんを見据えました。

ついでに、呼び間違いも元に戻っておりました。
そなた、上司殿というものがありながら……
……それはなんじゃな?
淑女の嗜みについて一席ぶとうとした王妃様ですが、思わず話を止めて尋ねてしまいました。

……というのも、アリスちゃんの手にピカピカと光る棒が握られていたからです。
王妃様も、似たような形状の物は沢山持っており、クローゼットの奥の小箱の中に大切に仕舞っておりましたが、光るというのは初めてでした。
これはペンラですわ。
ペンラ……。
「ペンラ」とは単に「ペンライト」の略ですが王妃様は知りませんでした。

ですが、知らなくてもその道の人であれば形状を見ればだいたいのことは想像がつきます。そういうものですよね。
光っておるが……その、光ると具合が良いものなのかえ?
とてもよろしゅうございますわ。
なんと!
特に、皆で一斉に使うと素晴らしいのです。
……!
その発想はありませんでした。
(わらわの知らぬうちに世の中はそのようなことになっておったのか……!)
王妃様は自分の不明を恥じました。
まだまだ知らないことばかりであると、謙虚な思いで反省をされました。
こういうのもございますのよ。
それは……!
アリスちゃんが見せたのは艶やかに飾り付けられたうちわでした。
あおぐ……とな!
その発想もありませんでした。
なんという斬新なやり方!
いいえ、あおぐわけではありません。
そ、そうであったか。いや、うむ。もちろんそうであろうな。
早とちりだったか、と少しホッとした王妃様でしたが、帰ったら試してみようとも、心ひそかに思うのでした。
これは、名前を書いておくものでございます。
名前を?
そうでございます。自担の名前を。
ジタンとはなんぞな?
自分の担当でございますことよ。意中の彼の名でございます。
それじゃ! アラサよ!
王妃様はここに来た目的を思い出しました。
そなたのジタンとやらは上司殿であろう!
しかし、アリスちゃんはケロリとしたものです。
それは違いますわ、王妃様。
違わ……
……違うのかえ?
はい。自担ばかりがファンのあり方ではございませんもの。DDだったり無担箱推しだったり、all担だってございます。私は上司様の担降りしたわけでもありませんし。まあ、同担拒否歓迎かという問題はあるかもですが……
何語を喋っておるのじゃ。
狐につままれたような、とはこのことです。
うふふ……王妃様も彼らにハマればおわかりになりますわ。
「彼ら」とな? 一人ではないのか?
大勢おりましてよ。
もしや、野球選手かえ?
野球選手のヒップラインや年収は、なかなかそそるものがありますから、それなら不倫もしかたないかな……と、王妃様は正直、少し心が揺らぎました。
いいえ、違います。お尻はペタッと、シュッとしていなければ。
またしても微妙に好みが食い違う二人でした。
そうか。しかし、そのペタッとしたお尻の彼らというのはいったい何者なのじゃ?
アイドルでございます!
アイドル?
王妃様はアイドルというものをご存じありませんでした。
高貴な生まれと育ちですので、世俗に触れる機会が少なかったのです。
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登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

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