What a beautiful moon

文字数 1,457文字

ダーリンは渡しませんわ! 覚悟なさい!
ぬぅ……じゃがまだまだ! 他にも援軍はおるのじゃ!
あったんですか、そんなの……
なんと、いつの間にか王妃さまは他にも伏兵を潜ませていたのです。
者ども、出あえい!
きゅうり!
ナスビ!
にんじん!
バナナ!
ズッキーニ!
ソーセージ!
ゴボウを芯に詰めた茹でチクワ!
いずれも王妃さまが全幅の信頼を寄せる一騎当千の古強者でした。
まだまだおるぞよ!
電動ハブラシ!
マジックペン!
シャワー!
傘の柄!
机のカド!
おこたの足!
水を入れて凍らせたコンドーム!
シフトレバ~~~~~!

……。
……それがどうかいたしましたの?
何故じゃ~っ!
それよりも王妃さま、とりあえず呪文を……!
そっ、そうじゃ……。
お待ちなさいっ!
鏡よ、鏡、世界で一番美しいのはだ~あれ?
何も起こりません。
映っているのは相変わらず王妃様ご自身の姿だけでした。

しかし……
あああっ! そんな! そんな……!
淑女さまにとっては大打撃だったのです。

それは最愛の人による、裏切りでした。

画期的システムの唯一の弱点でした。
よくも……よくも私のダーリンをたぶらかしてくれましたわね!
……? なんのことじゃ?
もう……私を愛してくれる人はいない。私は一人。誰も……私を……。終わりよ! 貴女を殺して私も死ぬわ! クキェーッ!
淑女さまの手にはアイスピックが握られておりました。

え、ちょっと何この展開。このお話でこんなガチ修羅場とかいいんですか? しかも王妃様、完全に悪役なんですけど!

作者の私もドキドキです。
お待ちください!
あわや血の海、明日のワイドショーで会いましょう。

そんな一触即発危機一髪の瞬間、男の人の声が部屋の中に飛び込んできました。
貴方は……!
淑女さまは驚いて目を丸くしました。

それは、自分磨きの旅に出てしまった、あのハンサムで奥ゆかしい素敵な紳士の王子様だったのです。
お待ちください……いいえ、お待たせいたしました。
そのお姿は……?
ハンサムだった王子様は見違えるような姿となっておりました。

その身体はピカピカとまるで鏡のように周りの物を映り込ませているではありませんか。
貴女に釣り合うよう自分を磨いて参りました。磨いて磨いて磨きぬいて、このように。
私のためにそこまで……!
淑女さまの胸は王子様のくれた想いでいっぱいとなり、さきほどまでの怒りと絶望はどこかへ行ってしまうほどでした。
……。
奥ゆかしさは変わらぬままに、王子様はただ黙って淑女さまの前に立ち、その肩に両手をかけられました。
……。
もう言葉は要りませんでした。

王子様の全身が映し出すのは、淑女さまの姿ただひとつだったのです。
おお……。
お二人は互いの体に腕を回し、きつく抱き締め合いました。

そして長い長い口づけの後、王子様は淑女さまをバルコニーへと誘いました。夜空を見上げ……ようやくその言葉を聞かせてくれたのです。
……月が出ていますね。
ええ……
……月が大きいですね。
はい……。
月が……綺麗ですね。
私も……心から、お慕い申し上げております。
月明りに照らされた姫君の青白い頬を伝うのは、長年の想いを溢れさせた熱い、熱い涙でした。
めでたし、めでたしじゃな。
良かったですねえ。
その後、通報を受けて駆けつけた警官隊に取り押さえられた王妃様とパイナップルは、そんな美しい月夜を留置場で過ごしたそうです。
何故じゃ~~~~~!!
とはいえ、留置場というまたとないシチュエーションを逃す王妃様ではなかったようで。
囚われの王妃さまであるぞよ……!
……どうやら、鏡はもう必要なさそうですね。
第五章 星のお月様 Fin
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登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

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