王妃様の裁定

文字数 2,021文字

順番はすでにクジで決めてありました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
ツリートマトことタマリロが王妃様のパンタロンの上にひょいと飛び乗りました。

自慢のタマがぶらぶら揺らます。
そなたは、チェリーなのかえ?
さくらんぼによく似た外見をしておりましたので、王妃様はそう尋ねました。
……!
しかし、それを聞いたタマリロはそれまでの興奮が一気に冷める思いで顔を強張らせると、即座に否定しました。
違います! 経験は豊富なほうでございます。
けっこーセンシブルな問題だったのです。
そうかえ……では、もそっと……早う。
受け答えは噛み合っていませんでしたが、身体が疼いてしまってたまらない王妃様的にはどうでも良いことでした。

そして、タマリロは王妃様の「その上で」それは見事なブレイクダンスをクリクリと踊ったのです。
お……おおっ、そうじゃ、んあっ……そ、そこっ! ああっ、ああっ!
その次はドラゴンフルーツでした。
俺もチェリーとかありえねーっすから。
そ……そうかえ……。
ドラゴンフルーツが捧げたのはラップでした。

技巧を尽くしたリリックで息も絶え絶えの王妃様をクリックしたのです。
んあはあ~っ! 良いぞっ、良いぞ! ああーっ!
これもまた、ブレイクダンスに負けず劣らずの素晴らしい出しものでした。

そんな調子でフルーチたちは次から次へとクリックリックリッ。ツーツートントン、クリトントン。

休むことなくクリットラをお手伝いしたのです。
失礼つかまつる。ワシもチェリーではござらぬ。
それでは、次は私が。もちろん、チェリーではありませんよ!
こんなにイボのついたチェリーなんていませんよね!
僕もチェリーじゃないです。お願いします!
こう見えて意外とチェリーではないんざますのよ。
チェリーでないことを天地神明に誓います!
どうです。大きい上にチェリーではないんですよ!
チェリーじゃないです。本当です。
……何故か「自分はチェリーではないこと」を必ず申し添える流れになってしまいましたが。

王妃様も喘いでいるだけではありませんでした。
もそっと、上の方じゃ、そ、そう……んおっ。
裾の所のホックを外して……ああっ……そ、そう……そのままめくり返して……ああ~ん。
もうご機嫌であれやこれやと指図して、パンタロンドレスをはだけさせ、熟れた果実とその生い茂った熱帯雨林を惜し気もなく披露あそばしたのです。比喩的な意味で。
ふあっ、ふわああっ……わらわもっ、わらわの皮も、剥いて食してたもれ~~~~!
まことに女性の身体というのは、いくつものフルーツでできているようなものなのでした。

しかも、その甘い果汁は絞れども尽きぬかのように後から後から溢れ出します。

そして、ビーチには何度も何度もビッグウェーブが訪れました。

果物たちは最高の波を狙うサーファーとなって、飽くことないテイクオフを繰り返し繰り返したのです。
余も、チェリーでありませぬぞ! ドリアンでござる!
ひゃおおおっ、おふっ! ふああっ、あはあああ~ん!
最後の最後、お殿様の順番が終わり、王妃様も大満足のひと声を青い空に向かって放ったのです。

誰もが幸せでした。夢のようなひと時でした。

これはもう、当初王妃様が考えていた「自分が自分で自分を慰める姿で他人を慰める」というレベルを超えておりました。

「ひとりエッチ」というよりはもう「みんなエッチ」……そう、まさしく、みんなエッチでした。

皆が一体となった、かけがえのない――宇宙の創生ともいえるものでした。
はぁ、はぁ……心から満足じゃ……皆、天晴れ。大儀であった。
しかし、それでも全てのエントリーが終了した今、判定をしなければなりません。
して、王妃様、裁定やいかに? お好きだったのはどのフルーツでしたかな?
そ……そうじゃな……皆、励んでくれたが……。
フルーツたちの間に緊張が走り、誰もが王妃様の答えを今かと待ちました。
(ううむ……どのフルーツのクリットラが一番グッときたかのう……?)
(どれも甲乙つけがたいほど良かったのじゃ。ああ、思い出しただけでも……)
そこで王妃様は、結局、単に自分が一番好きな果物の名を答えることにしたのです。
……わらわは、チェリーが一番好きじゃ!
ノーコンテスト!
すかさず叫んだのはパイナップルでした。

一瞬虚を突かれたフルーツたちでしたが、すぐにその意味を悟りました。
それは、誰もが優勝ということでもあったのです。

もちろん、敢えてそのことを口には出す者はおりませんでした。
しかし、そうであっても、全員がわかっていたのです。

そして、これならば、もう二度と諍いや争いはおこることなどありません。
な……なんという英明なるお裁き……!!
星全体を包み込むほどの大きな大きな歓声が沸き起こりました。

そして、お殿さまを始めとして全てのフルーツたちが、王妃様の素晴らしいお裁きを、その考えと情けの深さを讃え、歌を歌うのでした。

いつまでも、いつまでも……。
それほどのことでもないぞよ?
第三章 星のお殿様 Fin
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登場人物紹介

王妃様

小さな星でひとり暮し。

パイナップル

頼んだ憶えはないのに届いた。

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