第16話 王城にて

文字数 1,020文字

ミナスマイラ王城、トライクロス
自由都市ミナスマイラの都市機能の中心を担うその城の中央には王族が暮らす居住区がある
現在、自由都市ミナスマイラには都市(まち)を治める都市王(としおう)と王妃、その間にもうけた二男二女の計六人の王族がいた
子供たちは全員成人しており、それなりの公務も担っている
みな、それぞれの公務をこなし、評判もよい王族一家であった

朝、そんな居住エリアの廊下を歩く一人の男の姿があった
ミナスマイラ王家、筆頭執事のゲオルクである
勤続四十年、王族に仕えて支え、そのあらゆるところを見てきた熟練の執事だ
整った白髪、長い間着こなし続けたことを感じさせない折り目正しい燕尾服がその熟練度を物語っている
赤絨毯の敷かれた廊下を足跡を立てずに進むと、一つの扉の前で立ち止まる
ミナスマイラ王家第一王女、ステラ姫の部屋であった
扉の左右に軽装の鎧に槍を持った衛兵が立っている
ゲオルク「姫様のご様子は?」
衛兵「はい、こちらから出入りしてはおりません」
ゲオルク「わかった」
報告を聞いてゲオルクは扉に向き直る
ゲオルク「ステラ様、朝の勉強のお時間です」

ノックをする

返事がない

ゲオルクはもう一度、今度は強くノックしてみた

やはり返事はない

ゲオルク「姫様?」
嫌な予感がしてゲオルクは扉を開ける
鍵はかかっておらず、入った部屋には誰もいなかった
ここはステラ姫が実務をするときに使う執務室である
いつもならステラ姫はここで正装して待っているのだがその姿はない
ゲオルクは奥の部屋に歩を進める
執務室の奥は居室として一通りの部屋が配置されており、その一つ一つを確かめる
寝室のベッドやクローゼットはきちんと片付けられていた
しかしステラ姫の姿は見当たらない
ゲオルク「まさか……」
ゲオルクが執務室に戻ると、執務用のデスクに近づいた
こちらは誰かが使っていた形跡があった
デスクの上に紙切れが一枚置かれている
ゲオルクはその紙切れを取り上げると目を通した

都市(まち)に行ってきまーす♪
夕方には戻るので探さないでね♪

と短く綴られていた
顔面蒼白になるゲオルク
出入口は衛兵が見張っている。となると窓かその他か……
実はステラ姫の脱走はこれ初めてではない。すでに何度か実行されている
ゲオルクはそのたびに警備を手配して監視を強化するのだが、まさか王族を牢獄に入れるわけにもいかず完全とはいかないのが現状だった

ゲオルクは深いため息をつくと
ゲオルク「誰か!一大事だ!姫様がまたご城下に!」
人を呼びに走っていった
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