第25話 お茶会

文字数 2,055文字

数日後
ルーザスは王城トライクロスに来ていた。もちろんメイルーシアに会うためだ
ゲオルクの案内で城内を進む
メイルーシアは自室のテラスでリネットとお茶を飲んでいた
本来なら姫君とメイドが一緒にお茶をたしなむなどありえないことなのだが、例の件で気心が通じたのか、メイルーシアはリネットをメイドとして以上に友人として扱っているきらいがある
メイルーシア「待ってたわ。いらっしゃい」
ルーザスを見て、メイルーシアは空いている席を勧めた
ルーザスは席に着く
リネットが立ち上がってルーザスの前に置かれたカップにお茶を注ぎ始めた
ルーザス「ミロン侯爵、爵位剥奪の上、監獄行きだってな」
お茶で満たされたカップを取るとルーザスが切り出した
ミナスマイラの監獄は絶海の孤島にある。一度流されたらまずは戻ってこられないだろう
メイルーシア「薬物(クスリ)は死罪もありうる重罪よ。むしろ温情と言ってほしいわね」
ルーザス「いや逆だ。薬物(クスリ)に加えて都市(まち)姫を殺そうとしたんだ。なぜ死罪にならなかった? やはり上級貴族だからか?」
市民の裁判は警備騎士団の捜査の下に警備騎士団長が行うが、貴族の裁判は近衛騎士団の捜査の下に都市王(としおう)が行う
現にミロン侯爵と癒着していた商人の方は警備騎士団で裁判が行われ、薬物(クスリ)の取引で死罪が決定。即日処刑されていた
事が噂になり、市民の間からも不公平ではないかとの声が上がり始めている
メイルーシア「さぁ、お父様たちが決めたことだし、いろいろ背景があるんじゃない?」
カップを置いて、こともなげにメイルーシアが言う
メイルーシア「私だって、万能ではないもの」
ルーザス「万能感の塊みたいな存在がよく言うな」
冷めないうちに、とルーザスがお茶に口を付けた
メイルーシア「裁判にまで介入できる権限はないんだから仕方ないじゃない。私がやったら間違いなく死罪だわ」
メイルーシアもお茶をすする
メイルーシア「ちなみに、私を殺そうとした件では、私の方がお父様に叱られたわ。だから罪状には加わらなかったみたい」
リネット「おまけに公務を増やされて、ようやくご休憩の時間が取れたところなのでございます」
メイルーシア「そこまで言わなくていいから」
メイルーシアがたしなめるが、そこまで強くはない。信頼というより親愛の情が強いようだ
ルーザス「衛星都市ミロンはどうなるんだ?」
メイルーシア「まずは直轄になるわね。しばらくしたら所領のない貴族階級から一人登用ってところかしら」
ルーザス「結構大きい都市だぞ。所領なしがポンと入ってやっていけるのか?」
メイルーシア「その辺はお父様たちの裁断だもの。ダメなら周辺貴族を都市替えして空いたところに当てはめるんじゃない?」
他人事のように話すメイルーシア
今の都市王(としおう)はとても有能であるといわれているが、同時に多忙でもある。二人の王子、つまりメイルーシアの兄たちが補佐しているとはいえルーザスは心配だった
心配ではあるのだが、ルーザスは貴族といえどまだ若い。おまけに警備騎士とあっては、政治的な力などほとんど持ってはいない
近衛騎士との話し合いにメイルーシアを呼んだのも、その含みがあったからだ
結局一人では何もできなかったな……
ルーザスは貴族としても、警備騎士としても無力感と悔しさを嚙みしめていた

リネット「メイ様。もうそろそろお時間です」
休憩の時間が終わって公務に戻らなくてはならない
メイルーシアは席を立つ
メイルーシア「それにしても気分良かったなぁ。面白いわね。捕り物って」
ルーザス「あのなぁ……」
ルーザスは少し怒気を込めて言う
ルーザス「お前、自分のやったことを反省してるのか?」
メイルーシア「反省?」
ルーザス「そうだ。もし、あの手紙をお前が抜かずに近衛騎士団に渡っていたら、あの間者(スパイ)は斬られなくても済んだかもしれないんだぞ。少しは反省したらどうなんだ?」
メイルーシアに反省を迫るルーザス
メイルーシア「はい。そうですね。反省します」
メイルーシアが素直に頭を下げる
王族が頭を下げて謝るのは異例のことだ
ルーザス「……ったく、俺に謝ってもしかたねーだろ」
メイルーシア「お墓があるならお参りもするし、家族がいるならそれ相応の見舞金も出すわ。もちろん近衛騎士団とは別にね。それでいい?」
口だけ、というわけでもないようだったので、それ以上の詮索はやめた
メイルーシア「それにもう投書箱から投書を抜かなくても、お城を出られるようになったしね」
メイルーシアがリネットの方を見る
リネット「はい、メイ様の仰せのままに」
ルーザス「お前、まだ都市(まち)に出る気なのか?」
メイルーシア「そうよ。今度はリネットもいるし、ルーザスたちの手は煩わせないから」
ルーザス「それは……」
メイルーシア「それは何? 心配した?」
ルーザス「ち、違う。とにかく、今度王城を出るときはゲオルクだけでなく、俺にも連絡しろ」
メイルーシア「ふふん、わかったわ」
いたずらっぽく笑う
王城脱出に懲りるどころか味を占めてしまったメイルーシアなのだった
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