第6話 夢

文字数 1,330文字

セリウスは夢を見ていた。遠くも近くもない過去の夢である

港湾労働者と商家の事務員だったセリウスの両親は、幼いセリウスと妹のマーサを残して早世した
親戚の商家にもらわれた2人は、そこで働きながら過ごすことになる
もらいっ子としての生活は決して楽ではなかったが、商家に奉公しながらいつか兄妹2人で独立することを夢見ていた
セリウスが成人すると、彼はマーサとともに「森の滴」の部屋を借りて、2人で暮らし始めた
セリウスは自分で選んだ警備騎士の道を進むため訓練所に通うことになった。
警備騎士になれば、都市(まち)でもよい収入と待遇を受けることができる。何よりマーサを護ることができる
セリウスの胸は希望に満ちていた
そんなセリウスをマーサは自慢の兄だと信じてくれていた
訓練中は警備騎士としての収入はない
まだ成人していなかったマーサは、そこから商家に通って奉公を続けていた
マーサ「お兄ちゃんが警備騎士になるまで頑張るから」
毎朝そういってマーサは奉公に出ていく
そんなマーサのために警備騎士になって楽をさせようと、セリウスは必死に訓練に耐え続けた
そして1年間の訓練を終えて、セリウスは警備騎士の胸当てを得ることになる

任命の日、任命式を終えて北町の街路担当に配属されたセリウスは初の警邏でいつも通りを先輩騎士と歩いていた
青い胸当てつけた姿を早くマーサに見せてあげることで頭がいっぱいになっていた
すると馬のいななきと何かが壊れる音
いつも通りの中央を走る鉄道馬車の馬が暴れていた
すぐに駆けつける
セリウス「危険です!離れて!」
セリウスが剣を抜いて馬に立ち向かう
しかし人を相手にした訓練はしていたものの馬を相手にした訓練などしたことがない
先輩騎士「危ないぞ!セリウス」
先輩騎士が落ち着いて槍で暴れる馬にとどめを刺した
周囲に人がいる以上、被害を最小限にとどめるにはこれしかなかった
セリウス「けが人は?」
セリウスは周囲を見回す
幾人かは道路に倒れていたが自力で立ち上がろうとしていた
しかしその中で一つだけ動かない人影があった
市民「あの娘は、最初に馬に蹴られそうな男の子を助けようとして蹴られたんだ」
セリウス「そんな……」
その服装に見覚えがあった
商家にいるはずのマーサだった

後の捜査でマーサは別の店へ使いに出た帰りの事故だったことはわかったが、なぜ馬が暴れたのかは、わからなかった
しかし、セリウスにとってそんなことはどうでもよかった
警備騎士になって一番護りたかった妹を失った悲しみ、それに押しつぶされて自暴自棄になっていた
だが、警備騎士になることを望んでいたマーサの気持ちを無碍にすることはできない
セリウスは警備騎士として誰かを護って死ぬことを望んだが、その機会のないまま数年が過ぎていった

時間というのは恐ろしいもので、数年の時はセリウスの心の悲しみを和らげてくれた
むしろ忘れてしまいそうになるくらいセリウスは警備騎士の仕事に励んだ
だが、ミリアムに出会ったことでセリウスは思い出してしまった
マーサに似ているわけではない。そもそもミリアムは人間ではない
しかし身辺警護の任について誰かを護るという意識に目覚めたとき、薄れかけていた望みが蘇ってきた
セリウス(マーサ……)
夢の中でセリウスはマーサの面影を追い求めた
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み